第65話 最初で最後のバズり
アワイチの翌朝。
学校へ向かう道は、昨日より少しだけ明るく見えた。
体はまだ重いのに、胸の奥はふわふわしている。
「昨日のアワイチ、ほんま楽しかったなぁ……」
紗季が伸びをしながら言うと、
陽斗が笑った。
「筋肉痛で死にそうやけどな!」
凛は微笑みながら、
「でも、あれは一生の思い出だよ」
と静かに言った。
美咲は少し照れながら、
「投稿、今日の放課後にしよって言ってたよね」
と確認する。
悠真は短く頷いた。
「……うん。
昨日の夕陽のとこ、使う」
湊が言う。
「よし、放課後に編集して投稿しよか」
その時は、
まだ誰も知らなかった。
“あの投稿”が、
六人の世界を少しだけ変えることを。
放課後。
図書室横の小さなスペースに集まり、
六人は昨日の映像を見返していた。
夕陽の海。
長く伸びる影。
笑い声。
風の音。
「……なんか、昨日のことやのに、もう懐かしいな」
紗季が呟く。
「分かるわ」
陽斗が笑う。
美咲は画面を見つめながら言った。
「この夕陽……
言葉、どうしよ」
悠真は少し考えてから言った。
「……“六人で走った淡路島”でええ」
美咲はゆっくり頷いた。
「うん……それ、いい」
投稿ボタンを押す瞬間、
6人は自然と息を飲んだ。
画面に指が触れ、
投稿が世界に放たれた。
最初の数分は、
いつもと同じだった。
「いいね一件……」
「フォロワーさんやな」
「コメント来たで、“お疲れさまです!”って」
穏やかで、
いつもの“六人の淡路島”だった。
……最初の数分は。
「……え?」
凛がスマホを見て固まった。
「どしたん?」
紗季が覗き込む。
「なんか……
いいね、めっちゃ増えてる」
陽斗がスマホを取り出す。
「え、どれどれ……
うわっ!?なんやこれ!」
美咲も画面を見て、
息を呑んだ。
「……増えてる。
さっきの倍以上……」
湊が眉をひそめる。
「なんでや……?」
悠真のスマホが震え続けていた。
通知が止まらない。
「……誰かが、拡散した」
その声は、
どこか遠くの音みたいに聞こえた。
2時間後。
六人は海沿いのベンチに座っていた。
空は夕方に向かい始め、
光が少しずつ柔らかくなっていく。
紗季が言う。
「なんか……怖いな。
嬉しいはずやのに」
陽斗は頭を抱えた。
「分かるわ……
なんか、急に“知らん人”が増えた感じする」
凛はスマホを握りしめながら言った。
「“次はどこ行きますか?”ってコメント、
めっちゃ来てる……」
美咲は胸の奥がざわつくのを感じていた。
「なんか……
期待されてるって思うと、苦しくなるね」
湊は海を見つめながら言った。
「うちら、観光協会ちゃうのにな……」
悠真は静かに言った。
「……でも、
六人で走っただけや」
その言葉に、
六人は少しだけ息を吐いた。
夕陽が海に沈み始めた。
紗季が言う。
「なんかさ……
バズるって、こういう感じなんやな」
陽斗が苦笑する。
「嬉しいけど……
なんか、落ち着かんわ」
凛は小さく頷いた。
「でも、私たちは私たちだよ。
変わらなくていい」
美咲は夕陽を見つめながら言った。
「うん……
“六人で走った淡路島”ってだけでいいよね」
湊が言う。
「せやな。
それ以上でも、それ以下でもない」
悠真は夕陽のほうを向いたまま言った。
「……六人で、続けよ」
夕陽が海に沈み、
光がゆっくりと薄れていく。
バズった。
でも、
六人の歩く速度は変わらなかった。
それが、“六人の淡路島”だった。




