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世界の淡路島ですけど、何か?  作者: 双鶴


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第64話 六人でアワイチ(後編)

昼下がりの陽射しは、少しだけ傾き始めていた。

海沿いの道を走ると、光が波に反射してきらきらと跳ね、

風は午前よりも柔らかく、どこか甘い匂いを含んでいた。


「……なんか、午後の海って落ち着くな」

湊がペダルを踏みながら言う。


「分かる!朝とは全然違うよな」

紗季が笑う。


陽斗は汗を拭いながら、

「でも、そろそろ足に来てるわ……」

と弱音を吐いた。


凛は後ろから声をかける。

「無理しないでね。まだ距離あるから」


美咲は風に髪を揺らしながら、

「でも……

疲れてるのに、なんか幸せやね」

と呟いた。


悠真は前を見たまま、

「……六人やから」

とだけ言った。


その言葉に、誰も返事をしなかった。

でも、胸の奥がじんわりと温かくなった。



午後の坂道は、午前よりもきつかった。

陽射しがアスファルトを照らし、

影が濃く伸びていく。


「うわ……また坂やん……」

紗季が絶望した声を出す。


「行くしかないやろ!」

陽斗が笑うが、

その笑顔も少し疲れていた。


湊は後ろを振り返り、

「美咲、いけるか?」と声をかける。


「うん……

しんどいけど、いける……」

美咲は息を切らしながら答えた。


悠真が横に並び、

「……合わせる。

ゆっくりでええ」

と静かに言った。


6人は、

誰も置いていかない速度で坂を登った。


ペダルが重く、

息が熱く、

汗が背中を伝う。


でも、

誰も弱音を責めなかった。


誰かが苦しそうなら、

自然と誰かが声をかけた。


「あとちょっとや!」

「いけるいける!」

「ゆっくりでいいよ!」


その声が、

坂道の空気を少しだけ軽くした。



坂を越えた瞬間、

視界が一気に開けた。


海が、

午後の光を受けて深い青に染まり、

風が頬を撫で、

水平線がゆっくり揺れていた。


「……綺麗すぎるやろ」

陽斗が思わず立ち止まる。


「なんか……

胸がぎゅってなるね」

美咲が小さく言った。


紗季は笑いながらも、

目が少し潤んでいた。

「こんなん見たら泣くって……」


凛は海を見つめながら、

「頑張ってよかったね……」

と呟いた。


湊は深く息を吸い込み、

「これが淡路島やな……」

と静かに言った。


悠真はカメラを構えず、

ただ海を見ていた。


「……みんなで見れてよかった」


その声は、

風に溶けるように静かだった。



夕方。

海沿いの道を走る6人の影は、

長く、長く伸びていた。


陽射しはオレンジ色に変わり、

海は金色の光をまとい、

風は少し冷たくなっていた。


「影、めっちゃ長い!」

紗季が笑う。


「俺ら、映画の主人公みたいやな」

陽斗が叫ぶ。


凛は風に髪を揺らしながら言った。

「夕方の海って、なんでこんなに綺麗なんだろ……」


美咲は風を受けながら呟いた。

「……終わってほしくないね」


湊はペダルを踏みながら言う。

「せやな……

今日だけは、ずっと続いてほしいわ」


悠真は前を見たまま言った。

「……みんなで走るの、

今日が最後かもしれん」


その言葉に、

誰も返事をしなかった。


でも、

胸の奥が少しだけ痛んだ。



夕陽が海に沈む頃、

6人はスタート地点の港に戻ってきた。


「……帰ってきた」

紗季が息を整えながら言う。


「やり切ったな」

湊が笑う。


陽斗は両手を広げて叫んだ。

「アワイチ達成ーー!!」


凛は静かに微笑んだ。

「この6人で走れてよかった」


美咲は少し涙ぐみながら言った。

「うん……

ほんまに、よかった」


悠真は夕陽を見つめたまま言った。


「……全員で、走れた」


その声は、

夕暮れの海に静かに溶けていった。


6人の影が並んで伸び、

やがて夜の色に溶けていく。


淡路島を一周した。

6人で。

それだけで、

もう十分すぎるほどの奇跡だった。


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