第60話 増えた数字の向こう側
「……また増えてる」
朝の教室。
凛がスマホを見て、小さく息を呑んだ。
紗季が覗き込む。
「え、昨日よりさらに?
ちょっと待って……うわ、ほんまや!」
陽斗は頭を抱える。
「いやいやいや……
昨日の時点で十分多かったやろ……!」
湊は落ち着かせるように言った。
「知事のフォロー効果やろな。
そら増えるわ」
美咲は画面を見つめながら、
少しだけ眉を寄せた。
「なんか……
“見られてる”って感じが強くなるね」
悠真は短く言った。
「……落ち着かん」
休み時間。
六人は机を寄せて、
コメント欄を見ていた。
紗季が読み上げる。
「“次はどこ行きますか?”
“おすすめ教えてください!”
“淡路島の魅力もっと知りたいです!”
……めっちゃ来てるやん」
陽斗は苦笑する。
「なんか……
期待されてる感じして怖いわ」
凛は静かに言った。
「うん……
“答えなきゃ”って思っちゃう」
湊は腕を組んで言う。
「でも、全部に応える必要はないで。
うちらは観光協会ちゃうし」
美咲はノートを閉じながら言った。
「うん……
“求められてるから投稿する”ってなるのは嫌やな」
悠真は画面を見つめたまま呟いた。
「……映像、雑に撮りたくない」
その言葉に、
六人は静かに頷いた。
放課後。
海沿いのベンチに座り、
六人は風に吹かれながら話した。
紗季が言う。
「なんかさ……
嬉しいはずやのに、ちょっとしんどいな」
陽斗がため息をつく。
「分かるわ……
“次は?”って言われると、
なんか急かされてる気する」
凛は海を見ながら言った。
「でも、私たちのペースでいいよね。
無理して投稿したら、絶対楽しくなくなる」
湊が頷く。
「せやな。
“高校生の淡路島”ってのが大事なんやし」
美咲は少しだけ笑った。
「うん……
歩きたいときに歩いて、
撮りたいときに撮るって感じがいい」
悠真は短く言った。
「……六人で、決めよ」
沈黙が少し続いたあと、
紗季が明るい声で言った。
「じゃあさ、
次の投稿は“ゆっくりやります”って感じでいこ!」
陽斗が笑う。
「ええやん。
“急がんでええで”って自分らに言うみたいやな」
凛も微笑む。
「うん。
“六人のペースで歩きます”って書こう」
湊がまとめる。
「よし、それでいこ。
数字に振り回されんと、うちらの淡路島を続けよ」
美咲は小さく頷いた。
「うん……
“ゆっくりでいい”って言葉、好きやわ」
悠真は静かに言った。
「……六人で、ゆっくり」
帰り道。
夕方の空がゆっくり色を変えていく。
フォロワーは増え続ける。
でも、
六人の歩く速度は変わらなかった。
それが、
“六人の淡路島”の答えだった。




