第52話 ふたりで歩く午後
「今日、ちょっと寄り道してかん?」
放課後の昇降口で、凛がふいに言った。
陽斗は靴を履き替えながら顔を上げる。
「え、どこ行くん?」
「別に遠くじゃないよ。
この前の森の帰りに見つけたカフェ、気になってて」
陽斗は一瞬だけ迷ったが、
すぐに笑った。
「行こ行こ。甘いもん食いたかったし」
凛は小さく笑った。
「陽斗くん、いつも食べ物で動くよね」
「うるさいわ。成長期やねん」
カフェまでは、学校から歩いて10分ほど。
途中、海からの風が少しだけ強く吹いた。
凛が髪を押さえながら言う。
「今日、風強いね」
「せやな。
でも、こういう日ってなんか気持ちええわ」
陽斗は歩きながら、
ふと凛の歩幅が自分と合っていることに気づいた。
(あれ……こんなに歩きやすかったっけ)
凛が横で言う。
「陽斗くんって、意外と歩くの早いよね」
「え、そう?
凛が合わせてくれてるんかと思ったわ」
「……ちょっとだけね」
陽斗は照れくさくて、
前を向いたまま笑った。
カフェに着くと、
店内は落ち着いた雰囲気で、
窓から淡路島の海が見えた。
「うわ、めっちゃええやんここ」
陽斗がテンション高めに言う。
凛はメニューを見ながら言った。
「ここのプリン、美味しいらしいよ」
「プリン!?食うわ」
「陽斗くん、即決すぎ」
二人はプリンとアイスコーヒーを頼み、
窓際の席に座った。
プリンが運ばれてくると、
陽斗はスプーンを入れて目を丸くした。
「うまっ……!
これ、めっちゃ濃いな」
凛が笑う。
「でしょ?絶対好きだと思った」
「なんで分かるん」
「陽斗くん、甘いの好きやん。
この前の料理のときも、デザートばっか食べてたし」
「見られてたんか……」
凛は少しだけ照れたように、
アイスコーヒーを口に運んだ。
「……なんかね、
陽斗くんって見てると分かりやすいんだよ」
「え、俺そんな単純?」
「うん。
でも、そういうとこ好きだよ。
一緒にいて楽しいし」
陽斗は一瞬固まり、
耳まで赤くなった。
「……そ、そうなん」
凛は慌てて手を振った。
「ごめん、変な意味じゃなくて!
友達として、ね」
「わ、分かってるって」
二人は同時に笑った。
帰り道。
夕方の空が少しずつ色を変えていく。
凛が言う。
「今日、誘ってよかった」
陽斗はポケットに手を入れながら言った。
「俺も。
なんか……落ち着いたわ」
「陽斗くんって、意外と静かなとこあるよね」
「凛の前やからちゃう?」
凛は一瞬だけ立ち止まり、
陽斗を見た。
「……そうなん?」
陽斗は照れくさくて、
前を向いたまま言った。
「知らんけど。
でも、なんか話しやすいねん」
凛は小さく笑った。
「それ、ちょっと嬉しい」
二人の歩幅は、
帰り道も自然と揃っていた。
SNSには何も投稿しない。
これは、二人だけの午後だった。




