第45話 坂道の風を登る(福良)
「なあ、福良の坂道行ってみん?」
昼休み、湊がふと思い出したように言った。
陽斗が顔を上げる。
「坂道?なんでまた急に?」
「いや、あそこ風が気持ちええねん。
景色も変わるし、撮ったら面白そうやと思って」
紗季がすぐに反応する。
「ええやん!坂道って青春っぽいし!」
凛が笑う。
「紗季ちゃん、なんでも青春にするよね」
美咲は少し考えてから言った。
「坂道って……上から見る景色、ちょっと特別だよね。
なんか、頑張った分だけ見える感じがする」
その言葉に、悠真が小さく頷いた。
「……分かる」
陽斗が立ち上がる。
「よっしゃ、放課後行こや!」
放課後、六人は福良の坂道に向かった。
坂の下に立つと、
海からの風がふわりと吹き抜けた。
「うわ、めっちゃ気持ちええ!」
紗季が両手を広げる。
凛は髪を押さえながら言う。
「風、強いね……でも気持ちいい」
陽斗は坂を見上げて苦笑した。
「これ……地味にキツいやつやん」
湊が笑う。
「まあまあ、ゆっくり登ったらええ」
美咲は坂の途中に落ちる影を見つめて言った。
「坂道って、影が長くなるの好き。
なんか……ちょっとドラマっぽい」
悠真はその影を撮りながら、
「……光が流れる」と呟いた。
坂を登る途中、
六人の歩幅は自然とバラバラになった。
紗季と湊は並んで歩き、
「この辺、写真映えするなぁ」
「せやな。光の角度ええわ」
と楽しそうに話している。
凛は陽斗の後ろから声をかけた。
「大丈夫?ペース落とす?」
「いや……大丈夫……たぶん……」
「たぶんって何」
二人のやり取りに、美咲が笑った。
「陽斗くん、坂弱いんだね」
「うるさいわ!俺は平地専門や!」
悠真は少し後ろから、
みんなの影が伸びていく様子を撮っていた。
坂の上に着くと、
海が一気に広がった。
「うわ……めっちゃ綺麗……!」
紗季が息を呑む。
凛も目を細める。
「風が気持ちいい……」
陽斗は膝に手をつきながら言う。
「死ぬかと思った……でも景色は最高やな」
湊が笑う。
「頑張った分だけ見える景色や」
美咲は海を見ながら、
少しだけ照れたように言った。
「なんか……こういうの、いいね。
しんどいけど、登ってよかったって思える感じ」
悠真はその横顔を見つめ、
小さく呟いた。
「……うん。
風、綺麗」
美咲は照れたように笑った。
「風が綺麗って、なんかいいね。
悠真くんっぽい」
帰り道、
夕方の光が坂道を照らしていた。
紗季が言う。
「今日の坂、めっちゃ好きやわ」
陽斗が笑う。
「俺はもう二度と登りたくないけどな!」
凛が微笑む。
「でも、いい思い出になったね」
湊が言う。
「SNS、今日は“坂道の風”でまとめよか」
美咲は軽く手を挙げた。
「じゃあ、文章ちょっと考えてみるね。
あんま難しいのじゃなくて、普通のやつ」
悠真はその言葉に、
静かに微笑んだ。
六人の影が、
坂道に長く伸びていた。




