第44話 海の匂いがする朝(由良・漁港)
「今日、風が海の匂いしてるな」
湊がそう言ったのは、登校中のことだった。
紗季が深呼吸する。
「ほんまや……潮の匂い、強いなぁ」
凛が空を見上げる。
「天気もいいし、海沿い行きたくなるね」
そのとき、陽斗が思い出したように言った。
「そういやさ、由良の漁港って朝めっちゃ活気あるらしいで!
行ってみん?絶対おもろいって!」
紗季がすぐに乗る。
「行く行く!市場とかも見たい!」
美咲は少し考えてから言った。
「海の匂いって……言葉にすると難しいけど、
“朝の匂い”って感じがして好き」
悠真が静かに言う。
「……匂いは撮れへんけど、
匂いがしそうな光は撮れる」
湊が笑う。
「よっしゃ、決まりやな。
次の休みに朝の漁港、行ってみよ」
由良の漁港に着くと、
朝の空気が一気に変わった。
潮の匂い。
魚の匂い。
船の油の匂い。
人の声。
「うわ……めっちゃ“漁港”って感じやな!」
陽斗がテンション高めに言う。
凛は並んだ魚を見て目を丸くする。
「こんなに種類あるんだ……」
紗季は市場の人と軽く会話しながら、
「淡路島の魚って、ほんまに綺麗やなぁ」と感心していた。
湊は船の影を見つめながら言う。
「海の匂いって、生活の匂いやな……
観光地の匂いとは違う」
悠真は波打ち際で光を追いながら、
「……朝の光、青い」と呟いた。
美咲はノートを開き、
潮風を感じながら言葉を探していた。
少し歩くと、
漁師たちが網を片付けていた。
ガサッ、ガサッ。
縄の擦れる音。
魚箱を運ぶ音。
紗季が言う。
「この音、なんか好きやわ……」
凛が頷く。
「生活の音って、落ち着くよね」
陽斗は網を見て驚く。
「これ全部手で直すん!?すげぇ……」
湊が言う。
「淡路島の“海の仕事”って、ほんまに力強いな」
悠真は網の影を撮りながら、
「……影が海の匂いしてるみたいや」と呟いた。
美咲はその言葉に反応し、
そっと短い文章を書いた。
「“朝の海は、
まだ眠っている街を起こす匂いがする”」
紗季が覗き込んで言う。
「美咲、ほんまに文章ええなぁ……
匂いが伝わってくるわ」
陽斗も感心したように頷く。
「写真と文章合わせたら、
なんか“作品”っぽくなるな」
美咲は照れながら笑った。
「みんなの写真があるからだよ。
私はただ、匂いを言葉にしてるだけ」
悠真はその言葉に、
静かに目を伏せた。
「……言葉で匂いが見える」
帰り道、
朝の光が海を照らしていた。
凛が言う。
「今日の漁港、すごくよかったね」
紗季が笑う。
「うん!また来たいわ!」
陽斗は胸を張る。
「やろ?俺の提案、たまには当たるやろ!」
湊が笑いながら言う。
「たまには、な」
美咲は海を見つめながら言った。
「淡路島の“匂い”って、
言葉にすると優しいね」
悠真はその横顔を見つめ、
小さく呟いた。
「……また撮りたい」
六人の影が、
朝の海に静かに伸びていった。




