第3話 五人の役割
修学旅行明けの放課後。
淡路島中央高校の校舎には、いつもの部活の声が戻っていた。
「じゃ、また後でな」
陽斗はグラブを肩にかけ、グラウンドへ走っていく。
野球部の掛け声が、夕方の空気を震わせていた。
悠真は無言でパソコン室へ向かう。
「今日、CGの締め切りやねん」
とだけ呟いて、すっと姿を消した。
紗季は料理部のエプロンを抱えて、
「今日のメニュー、私が考えたやつやねん。失敗できへん」
と気合いを入れて部室へ向かう。
凛は茶道部の部室へ。
「今日はお点前のテストやから、ちょっと緊張するわ」
と言いながらも、背筋はいつもより少しだけ伸びていた。
湊は科学部の部室で、実験器具を片付けながらぼんやり考えていた。
(ほんまに……やるんか、俺らで)
昨日の決意は嘘じゃない。
でも、どう動けばいいのかはまだ分からない。
夜。
湊の家のリビングでは、近所の大人たちが酒盛りを始めていた。
「湊んとこの親父、今日も飲む気満々やな!」
「修学旅行の話、聞かせてもらわなあかんからな!」
笑い声とビールの栓が抜ける音が響く。
この“近所の飲み会”は、小学校の頃からずっと続く恒例行事だった。
その間、子どもたちは湊の部屋に集まって宿題をする──
というのも、昔からの流れだった。
今はもう高校生。
宿題はすぐ終わるし、男女で集まるのが気恥ずかしい年頃でもある。
でも、この五人だけは別だった。
兄弟みたいな距離感が、まだそのまま残っていた。
「終わったー!もう無理」
陽斗がワークを放り投げる。
「集中力なさすぎ」
紗季が呆れながらも笑う。
「……終わった」
悠真は静かにノートを閉じた。
凛は湊の冷蔵庫からコーラを取り出し、
「はい、みんなの分」
と自然に配っていく。
湊の部屋には、宿題を終えたあとのゆるい空気が流れていた。
「でさ」
湊がコーラを一口飲んでから言った。
「昨日の話、ちゃんと考えたいねん」
四人の視線が集まる。
「淡路島を世界に知らしめるってやつ?」
凛が言う。
「そう。
やるなら……役割、決めたほうがええと思う」
陽斗が身を乗り出す。
「お、なんか本格的になってきたやん」
湊は深呼吸して、ひとりずつ見た。
「まず俺。
司令塔と交渉担当やる。
科学部やし、調べ物とか企画とか、まとめるの得意やと思う」
「湊っぽいな」
陽斗が笑う。
「で、陽斗。お前は取材担当」
「俺?」
「野球部でコミュ力あるし、どこでも突撃できるやろ」
「まあ……確かに。大人にもビビらんしな」
陽斗は胸を張った。
「悠真はCG担当。パソコン部やし、動画とか画像とか作れるやろ?」
悠真は小さく頷く。
「……やってみる。上手いかは分からんけど」
「十分や」
「紗季はモデル担当」
「は?なんで私?」
「料理部で“見せ方”のセンスあるし、カメラの前で堂々としてるやん」
「……まあ、嫌ではないけど」
紗季は照れ隠しのように髪を触った。
「凛はSNS担当。
茶道部で言葉選びとか丁寧やし、文章きれいやから」
凛は少し驚いた顔をした。
「私でええん?バズらせるとか、全然分からんで」
「ええねん。素人でも、本気なら伝わる」
四人はしばらく黙って湊を見ていた。
その沈黙は、否定ではなく、
“本気で考えている”沈黙だった。
陽斗が口を開く。
「……なんかさ。
こうして役割決めたら、ほんまに始まるって感じするな」
紗季が笑う。
「うちら、ほんまにやるんやな」
悠真は短く言った。
「やるなら、ちゃんとやる」
凛が湊を見つめる。
「湊が悔しかった気持ち、ちゃんと分かったし。
私も……やりたい」
湊の胸の奥が熱くなった。
ちゃぶ台の上には、湊が書いた雑なメモが置かれていた。
『淡路島を世界に知らしめる計画』
その文字を囲むように、五人の影が重なった。
「よし」
湊は拳を握った。
「ここからや。俺らの淡路島、見せつけたる」
外では大人たちの笑い声が続いていた。
その喧騒の中で、五人の静かな決意だけが、確かに灯っていた。




