第36話 太鼓の音が響く前に
「なあ、今度この神社で祭りあるらしいで」
陽斗がスマホを見せながら言った。
紗季が覗き込む。
「ほんまや。
でも、祭り当日は人多いし……
準備のとこ、見てみたくない?」
凛が頷く。
「準備って、その土地の“熱”が見えるよね。
太鼓の練習とか、神輿の手入れとか……」
湊が言う。
「ええな。
淡路島の“人の温度”って、まだちゃんと撮ってへんし」
悠真は静かに言った。
「……太鼓、撮りたい」
こうして五人は、
夕方の神社へ向かった。
神社に着くと、
境内にはまだ人影は少なかった。
でも、
空気はどこか“動いて”いた。
ドン……
ドン……
ドン……
太鼓の低い音が、
ゆっくりと胸に響いてくる。
「うわ……始まってるやん」
紗季が目を輝かせる。
陽斗は耳を澄ませながら言う。
「なんか……心臓にくるな、この音」
湊は太鼓の方へ歩きながら呟いた。
「祭りって、準備の段階からもう“熱”あるんやな」
悠真は太鼓の振動を撮りながら、
「……音、揺れる」と小さく言った。
境内の隅では、
大人たちが神輿の修理をしていた。
ギシ……
ギシ……
木が軋む音。
縄を締める音。
誰かの笑い声。
凛が言う。
「こういう音、好きだな……
“暮らしの音”って感じがする」
紗季が頷く。
「淡路島の人って、
こういう準備も全部“楽しんでる”感じするよな」
陽斗は神輿を見て驚く。
「これ、めっちゃ重そうやん……
担ぐ人、すごいな」
湊が静かに言った。
「祭りって、
“地域の力”が集まるんやな」
悠真は縄の結び目を撮りながら、
「……形、綺麗」と呟いた。
太鼓の練習が本格的に始まった。
ドンッ……
ドドンッ……
ドン……!
境内の空気が震える。
陽斗が思わず言う。
「うわっ……すげぇ……
腹の底に響くわ……!」
紗季が笑う。
「陽斗、太鼓叩かせてもらったら?」
「え、マジで!?
いや、でも……やってみたい!」
湊が苦笑する。
「絶対腕死ぬで」
案の定、
陽斗は数分で腕を押さえて倒れ込んだ。
「無理……重すぎる……」
「ほら言うたやろ」
「陽斗くん、がんばったね」
「……音、ずれてた」
四人が笑い、
陽斗が抗議する。
そのやり取りが、
夕方の境内に柔らかく響いた。
帰り道、
空は薄い紫色に染まっていた。
紗季が言う。
「なんか……祭りって、
“人の熱”が集まる場所なんやな」
凛が微笑む。
「うん。
準備の段階から、もう温かいよね」
陽斗は腕をさすりながら言う。
「俺、今日めっちゃ頑張ったわ……
太鼓ってあんな重いんやな……」
湊が笑う。
「でも、ええ経験やったやろ」
悠真は静かに言った。
「……音、また撮りたい」
五人の歩く影が、
夕暮れの参道に長く伸びていた。
淡路島の“熱”は、
今日も静かに息づいていた。




