第34話 火と土のあいだにあるもの(淡路瓦の工房)
「淡路島って、瓦が有名なん知っとる?」
湊がそう言ったのは、古民家カフェからの帰り道だった。
陽斗が首をかしげる。
「瓦?あの屋根のやつ?」
凛が説明する。
「“淡路瓦”って、全国でも評価されてるんだよ。
昔ながらの技術で作ってる工房もあるの」
紗季が目を輝かせる。
「え、めっちゃ見てみたい!
火とか土とか……絶対かっこええやん!」
悠真は静かに言った。
「……撮りたい」
こうして五人は、
島の南部にある瓦工房へ向かった。
工房に入ると、
まず“熱”が押し寄せてきた。
ゴォォォ……
窯の奥で火が揺れている。
土の匂い。
焼けた瓦の匂い。
職人の汗の匂い。
「うわ……本気の現場やん……」
陽斗が思わず声を漏らす。
職人さんが笑って迎えてくれた。
「よう来たな。
今日は特別に、瓦ができるまで見せたるわ」
湊が頭を下げる。
「ありがとうございます。
淡路瓦、ちゃんと見てみたかったんです」
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職人さんは、
大きな塊の土を手でこね始めた。
ぐっ……
ぐっ……
その動きはゆっくりで、
でも迷いがなかった。
「この土はな、淡路島の土や。
火に強くて、粘りがある。
瓦に向いとるんよ」
凛が興味深そうに聞く。
「土にも“性格”があるんですね」
「そらあるよ。
土は生き物や。
触っとったら分かる」
紗季が小声で言う。
「なんか……かっこええなぁ……」
悠真は土の表面をじっと撮りながら呟いた。
「……光、吸い込む」
次に、
成形された瓦が窯に入れられる。
ゴォォォォ……
火が揺れ、熱が空気を震わせる。
陽斗が汗を拭きながら言う。
「これ……めっちゃ暑いな……
職人さん、毎日ここで仕事してんの?」
「せや。
火と向き合うんは大変やけど……
ええ瓦が焼けたら、それで全部報われる」
湊が静かに言った。
「“作る”って、すごいことですね」
職人さんは笑った。
「作るんはな、
“続ける”ってことや」
その言葉に、
五人は自然と黙った。
焼き上がった瓦は、
黒く、重く、
どこか“静かな強さ”を持っていた。
凛が触れてみる。
「……綺麗。
無駄がないっていうか……」
紗季が言う。
「淡路島の家って、
こういう瓦で守られてるんやなぁ」
陽斗は瓦を持ち上げて驚く。
「重っ!
これ屋根に乗せるんか……!」
湊は瓦の模様を見つめながら言った。
「この模様、意味あるんですか?」
職人さんが頷く。
「家を守る“魔除け”や。
昔の人はな、
瓦に願いを込めとったんよ」
悠真はその模様を撮りながら、
「……CGで再現したい」と呟いた。
工房を出ると、
夕方の光が瓦の屋根を照らしていた。
紗季が言う。
「なんか……瓦って“淡路島の顔”やな」
凛が微笑む。
「うん。
火と土と、人の手でできてるんだね」
陽斗が伸びをしながら言う。
「今日、めっちゃ勉強になったわ……
職人さん、ほんまにすごいな」
湊が静かに言った。
「淡路島って、
“作る力”がある島なんやな」
悠真はカメラを抱えながら、
「……また撮りたい」と呟いた。
五人の影が、
瓦屋根の上に長く伸びていた。
火と土の匂いが、
まだほんのり残っていた。




