第22話 静かな土曜日、うどんの香りと小さな旅
土曜日。
いつものグループチャットは珍しく静かだった。
悠真は「法事で一日いない」。
陽斗は「野球部の試合」。
凛は「風邪で寝る」と短くメッセージを送ってきた。
湊はスマホを見つめながら、
ぽつんと取り残されたような気分になった。
「……紗季、暇?」
すぐに返事が来た。
「暇やで!どっか行く?」
湊は少し考えてから送った。
「香川、うどん食べに行かん?
電車で行けるし」
「行く!!」
返事が早すぎて笑った。
洲本バスセンターから高速バスに乗り、
徳島駅へ。
そこからJRで高松へ向かう。
「なんか、修学旅行みたいやな」
紗季が窓の外を見ながら言う。
「確かに。
こうやって電車で遠出するの久しぶりやわ」
湊が笑う。
高松駅に着くと、
朝の空気に出汁の香りが混ざっていた。
最初に寄ったのは、
地元の人しか知らないような小さな製麺所。
「え、ここ……店なん?」
紗季が驚く。
「らしいで。
“地元の人が朝から並ぶ店”って書いてあった」
暖簾をくぐると、
湯気と出汁の香りが一気に広がった。
湊は釜玉、
紗季はかけうどんを頼んだ。
麺は太くて、
噛むともちもちして、
出汁は優しくて、
香川の朝がそのまま器に詰まっているようだった。
「……幸せやなぁ」
紗季がしみじみ言う。
「分かる。
こういう店、淡路島にもいっぱいあるよな」
「せやねん。
こういう“地元の小さな店”とか、
“根付いた風習”とか……
そういうの紹介できたらええよな」
湊は頷いた。
「観光地だけやなくて、
“暮らしの匂い”がする場所も伝えたいよな」
紗季は笑った。
「うちら、だんだん“旅のプロ”みたいやな」
次に寄ったのは、
古い倉庫を改装したセルフのうどん屋。
湊はぶっかけ、
紗季は天ぷらうどん。
「天ぷら、揚げたてやん!」
紗季が嬉しそうに箸を伸ばす。
「香川のセルフって、なんか楽しいよな」
湊が言う。
「うん。
“自分で作る”って感じがええわ」
二人は並んで座り、
湯気の向こうで笑い合った。
外は春の風が吹いていて、
店の前ののれんが揺れていた。
帰り道、
紗季がふと呟いた。
「なんか……デートみたいやね」
湊は一瞬固まったが、
紗季は悪戯っぽく笑って続けた。
「たまにはええやん。
2人でのんびりするのも」
湊も笑った。
「まあ……たまにはな」
その言葉に、
紗季はふわっと微笑んだ。
「うん。
なんか、こういう日好きやわ」
電車の窓から見える夕方の海は、
淡路島へ戻る光で揺れていた。
特別なことは何もない。
でも、
心に静かに残る一日だった。




