第19話 花の丘で、風にほどける気持ち
「今日は晴れやし、花さじき行こや!」
紗季が言った瞬間、全員の顔がぱっと明るくなった。
車を降りた途端、
五人は思わず立ち止まった。
目の前に広がるのは、
“丘一面に広がる花の海”。
黄色の菜の花が風に揺れ、
紫のストックが帯のように続き、
白やピンクの花が斜面を染めている。
その向こうには、
淡路島らしい青い海と空がつながっていた。
「……すご……」
陽斗が呟く。
「写真とか動画で見るより、
実物のほうが何倍も綺麗……」
凛が風に髪を揺らしながら言った。
その横顔が、
いつもより大人びて見えた。
紗季は花畑の中に入っていき、
風に合わせてくるっと回った。
スカートがふわっと広がり、
光が反射してきらきらと揺れる。
「撮ってや〜!」
その仕草が妙に色っぽくて、
湊は一瞬、息を飲んだ。
陽斗は声が裏返った。
「お、おう……!」
悠真はカメラ越しに二人を見つめ、
「……今日、二人とも綺麗」
と小さく呟いた。
男子3人の心臓が同時に跳ねた。
花畑の中で、
凛が髪を耳にかける仕草、
紗季が日差しを手で遮る仕草、
風で乱れた前髪を直す仕草。
全部が、
男子には“破壊力抜群”だった。
「なあ……今日の二人、なんか……」
陽斗が言いかけると、
湊が慌てて遮った。
「言うな!言ったら終わりや!」
凛と紗季は気づかず、
楽しそうに花の写真を撮っていた。
花さじきの丘の上は、
風が絶えず吹き抜けていて、
花が波のように揺れていた。
その中で、
五人の笑い声が風に乗って広がっていった。
撮影を終えて、
花さじきのレストランで休憩することにした。
「淡路島牛乳のソフト食べよ!」
紗季が嬉しそうに言う。
凛はソフトクリームを一口食べ、
「ん……おいしい……」と目を細めた。
その表情に、
男子3人はまた心臓を撃ち抜かれた。
「おい……今日の女子、なんなん……」
陽斗が小声で言う。
「知らん……けど……なんか……」
湊はまともに顔を見られなかった。
悠真は静かに言った。
「……綺麗」
「お前が言うと余計に刺さるんや!」
陽斗が叫び、
湊は頭を抱えた。
レストランを出たところで、
紗季が歩きながら手を振った瞬間、
湊の手と紗季の手がふっと触れた。
ほんの一瞬。
でも湊はビクッと肩を震わせ、
顔が一気に真っ赤になった。
「えっ……あ、ご、ごめん……!」
紗季も一瞬固まり、
同じように真っ赤になった。
二人の間に、
妙な沈黙が落ちた。
その様子を見ていた陽斗が、
「おいおいおいおい!!」
と叫び、
凛が吹き出し、
悠真が珍しく笑った。
「湊、顔真っ赤」
「紗季も真っ赤やで」
「青春やなぁ〜!」
悪意のない冷やかしが一気に飛び交い、
二人は同時に「うるさい!!」と叫んだ。
その瞬間、
全員が大爆笑した。
花畑の風が笑い声をさらっていき、
ようやくいつもの空気に戻った。
帰り道、
湊はそっと手を見つめた。
紗季も同じように、
自分の手を見つめていた。
でも二人とも、
何も言わなかった。
ただ、
胸の奥が少しだけ熱かった。
あわじ花さじきは、
今日も誰かの気持ちを
そっと揺らしていた。




