第14話 淡路島の女将と浴衣の姫
「なあ聞いてや!」
放課後の教室に、紗季の声が響いた。
「うちの従姉妹がさ、出産で淡路に帰ってきててんけど──
東京のスーパーで“淡路島牛乳”と“淡路島プリン”売ってたって!」
「え、東京で?」
凛が目を丸くする。
「そう!
“淡路島ってブランドなんやなぁ”って思ってんて!」
陽斗が腕を組む。
「確かに、淡路島牛乳はガチでうまいしな」
湊も頷く。
「プリンも人気やしな。
淡路島の“食”って、ほんま強いよな」
紗季は拳を握った。
「よし、次は“淡路島バーガー”と“淡路島ぬーどる”紹介するで!
淡路島の食材の強さ、見せつけたる!」
凛が微笑む。
「じゃあ私、食べる役するね」
「食べるだけやん!」
陽斗が突っ込む。
凛は涼しい顔で言った。
「だって……浴衣着るし」
「浴衣!?」
男子2人が同時に叫んだ。
紗季はニヤリと笑った。
「うちは割烹着で“小料理屋の女将”やるからな」
陽斗が小声で湊に囁く。
「……これ、絶対ええ動画になるやつやん」
湊は真っ赤になりながら咳払いした。
「ま、まあ……淡路島の魅力を伝えるためやしな」
紗季は白い割烹着を着て、
髪を後ろでまとめ、
まるで本物の女将のような雰囲気をまとっていた。
「いらっしゃいませぇ〜。
本日のおすすめは“淡路島バーガー”と“淡路島ぬーどる”でございます〜」
「似合いすぎやろ!」
陽斗が爆笑する。
凛は淡い水色の浴衣に着替え、
帯をきゅっと締めて現れた。
「……どう?」
湊は一瞬、言葉を失った。
「めっちゃ綺麗やん……」
紗季が素直に言う。
陽斗は鼻を押さえた。
「なんか……破壊力すごいな」
凛は照れながらも、
「紗季が“色っぽくして”って言うから……」
と小声で言った。
「言うてへんわ!」
紗季が真っ赤になる。
男子2人は目をそらしながら、
「いや……言ってええで……?」
とボソッと言った。
「言わんわ!」
女子2人が同時にツッコむ。
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続いて淡路島バーガー
紗季が鉄板に玉ねぎを乗せる。
ジュワァァァ──。
甘い香りが一気に広がった。
「淡路島バーガーはな、
この“分厚い玉ねぎ”が主役やねん」
玉ねぎが透明になり、
端が少し焦げて甘い香りが立ち上る。
「この香り……反則やろ……」
陽斗がよだれを拭う。
紗季は淡路牛のパティを焼き、
玉ねぎと重ね、
特製ソースをかけてバンズで挟む。
「はい、できたで。
凛ちゃん、どうぞ」
凛は浴衣の袖を押さえながら、
バーガーをそっと持ち上げた。
「……いただきます」
かぷっ。
玉ねぎの甘さが弾け、
淡路牛の旨味が広がり、
ソースが全体を包み込む。
凛の目がふわっととろけた。
「……おいしすぎる……
玉ねぎが……甘い……」
湊は思わず息を呑んだ。
(なんやこの破壊力……)
紗季は得意げに胸を張る。
「せやろ!
淡路島バーガーは、玉ねぎが主役やねん!」
そして淡路島ぬーどる
次は淡路島ぬーどる。
紗季が鍋に麺を入れ、
淡路島のいりこ出汁を注ぐ。
ふわりと広がる香り。
海の匂いと、優しい旨味。
「淡路島ぬーどるは、
“喉ごし”が命やねん」
湊がごくりと喉を鳴らす。
凛は湯気の立つ丼を受け取り、
箸で麺をすくう。
つるっ。
「……んっ……
これ……めっちゃ優しい味……
出汁が……体に染みる……」
陽斗が叫ぶ。
「うわぁぁぁ!俺も食べたい!」
紗季が笑う。
「後で食べさせたるわ!」
しばらくして男子の“勝手な要望”が芽生えた陽斗が言った。
「なあ……凛、もうちょいこう……
色っぽく食べてくれへん?」
湊が慌てる。
「おい陽斗!」
凛は一瞬固まったが、
すぐにニヤリと笑った。
「……こう?」
麺をすくい、
少しだけ唇に近づけてから──
つるん。
男子2人は崩れ落ちた。
「やめろぉぉぉ!!」
「心臓に悪い!!」
紗季は腹を抱えて笑った。
「悪ノリしすぎやって!」
凛は照れながらも、
「たまには……いいでしょ?」
と小声で言った。
大爆笑の後、みんなで食べる
撮影が終わると、
紗季が作ったバーガーとぬーどるを
全員で囲んだ。
「いただきます!」
玉ねぎの甘さ、
淡路牛の旨味、
出汁の優しさ、
麺の喉ごし。
五感が一気に満たされる。
「うまっ!!」
「これ毎日食べたい!」
「淡路島、最強やん……」
笑い声が弾け、
湯気が立ち上り、
食卓は温かい空気に包まれた。
湊はふと、
スマホの画面を見つめた。
(数字は伸びへんけど……
この瞬間が一番楽しいな)
淡路島を世界に知らしめる旅は、
今日も美味しく、楽しく進んでいく。




