第9話 紗季、玉ねぎの姫になる
凛の和服動画を投稿して一週間。
『世界の淡路島 非公式アカウント』のフォロワー数は──
「……15人」
湊がスマホを見ながら呟いた。
「増えてへんやん!」
陽斗が叫ぶ。
「いや、増えてるやん。3人」
凛が冷静に言う。
「その3人、全部うちのクラスの女子やで」
紗季が苦笑する。
「内輪だけ盛り上がってる感じやな」
湊が肩をすくめる。
悠真は淡々と画面を見ながら、
「……でも、動画の質は上がってる」
とだけ言った。
「悠真、それどういう意味?」
紗季が聞く。
「光が良かった。
凛の動画、光が完璧やった」
陽斗がすかさず突っ込む。
「またそれ!光ってなんやねん!」
凛が笑いながら説明する。
「撮影の光のことやろ。
自然光の角度とか、影の落ち方とか」
湊が補足する。
「悠真の“光”は褒め言葉や。
つまり、凛の動画は“映えてた”ってことや」
紗季は目を輝かせた。
「え、そうなん!?
じゃあ私も“光、完璧”って言わせたる!」
「言わん」
悠真が即答した。
「言わんのかい!」
全員が突っ込む。
その瞬間、紗季のスイッチが入った。
「よし、次は私の番や!
淡路島の“食”は任せとき!」
次の土曜日。
五人は淡路市多賀にある淳仁天皇陵へ向かった。
春の光が柔らかく降り注ぎ、
陵墓の森は静かで、どこか神聖な空気が漂っている。
「ここが……淳仁天皇陵」
紗季が息を呑む。
「奈良時代の天皇やな。
政治争いで淡路に流されたけど、
島の人たちはずっと大切に祀ってきた」
湊が説明する。
木々の間から差し込む光が揺れ、
苔むした地面に淡い影を落とす。
風が吹くと、
葉の影が細かく揺れ、
まるで古代の時間が静かに息づいているようだった。
「なんか……空気が違うな」
陽斗が呟く。
「うん。
淡路島の“いにしえ”って感じする」
紗季が頷く。
陵墓の周囲には、
淡路島らしい玉ねぎ畑が広がっていた。
太陽の光を受けて、
玉ねぎの葉が青々と揺れ、
風が通るたびにさわさわと音を立てる。
「これぞ淡路島やなぁ……」
陽斗が感心する。
「淡路島の玉ねぎは、甘さが全然違うんよ」
紗季が胸を張る。
「水分が多くて、辛味が少なくて、
火を通したらとろけるように甘くなる!」
凛が笑う。
「料理部のスイッチ入ってるな」
「当たり前やん!
今日は“玉ねぎ懐石”作ってきたんやから!」
「懐石!?」
湊と陽斗が同時に叫ぶ。
紗季は得意げにリュックを開けた。
「これが玉ねぎ懐石!」
紗季が広げたのは、
淡路島玉ねぎを使った“本気の懐石”だった。
・玉ねぎの丸ごと煮
──スプーンを入れると、とろりと崩れる。
・玉ねぎのかき揚げ
──衣の中から甘い香りがふわりと広がる。
・玉ねぎの味噌田楽
──焦げ目の香ばしさが食欲を刺激する。
・玉ねぎのポタージュ
──淡いクリーム色で、口に入れた瞬間に甘さが広がる。
・玉ねぎの炊き込みご飯
──噛むほどに甘味が染み出す。
「うわ……めっちゃ美味しそう……」
凛が目を輝かせる。
「紗季、これ……店出せるレベルやろ」
湊が感心する。
陽斗はすでに箸を持っていた。
「食べてええ!?」
「まだ!
まずは動画撮るんやから!」
紗季は淡い黄色のワンピースを整え、
カメラの前に立った。
その姿は、
玉ねぎ畑の光に包まれた“淡路の姫”のようだった。
さっそく撮影開始
「今日は、淡路島の玉ねぎを全力で紹介します!」
紗季が元気よく言う。
「まずは、淡路島の歴史の中心・淳仁天皇陵。
静けさと荘厳さが残る場所です」
背景には、
木漏れ日が揺れる陵墓の森。
「そして、その周りに広がるのが……
淡路島の宝、玉ねぎ畑!」
風が吹き、
玉ねぎの葉が一斉に揺れる。
「淡路島の玉ねぎは、甘さが違います!
今日はその魅力を“玉ねぎ懐石”でお届けします!」
紗季は料理をひとつずつ紹介し、
そのたびに可愛らしく笑った。
陽斗が後ろで呟く。
「紗季、今日めっちゃ可愛いな……」
凛も頷く。
「うん。
今日の紗季、光が綺麗に当たってる」
悠真が静かに言う。
「……光、完璧」
紗季は振り返って叫んだ。
「やったぁぁぁ!!」
「言うんかい!」
全員が突っ込む。
編集してSNSに動画を投稿したが──
「……いいね、12件」
湊が呟く。
「増えてへん!」
陽斗が叫ぶ。
「でも、うちのクラスの女子はめっちゃ褒めてくれてるで」
紗季が笑う。
凛も言う。
「“紗季ちゃん可愛い”ってコメント多かったよ」
湊は画面を見ながら、
「外の反応は薄いけど……
確実に、動画の質は上がってる」
と静かに言った。
悠真が頷く。
「……光、良かった」
「またそれ!」
陽斗が笑う。
紗季は胸を張った。
「よし、次も頑張るで!
淡路島の“食”は任せとき!」
五人は笑い合い、
玉ねぎ畑の風がその笑い声を運んでいった。
淡路島を世界に知らしめる旅は、
まだまだこれからだった。




