第七章 光明
雷雨が止んだ夕日の中、第一防壁を降りる階段近くでサキエ、ミレイス、アレウスの三名がへたり込んでいたら、別働隊らしき〈デーモン〉がみるみる聖武局本部の防壁に接近。しかも伯爵級〈デーモン〉が三体程サキエ達に襲い掛かって来た。だが二体の伯爵級〈デーモン〉が【メルキゼデグ】によって一閃。三体の内一体は難を逃れ、逃亡する。
「お待たせしました、サキエさん!」
「何をしている、サキエ! 立て!」
声のした方を振り返る。リオとファルシスが一緒に飛竜に騎乗している姿が目に映る。その後ろには大剣を持ったシルクと対物ライフルを持ったアローキーが一緒に騎乗している姿があった。
気が動転しているサキエはリオに訊く。
「リオ君、援軍はどうしたの⁉ 何故、その二人しかいないのよ⁉」
その問いに答えたのは、シルクだ。
「……二人だけではありません、ホムラ師聖。我々は先遣隊に過ぎないのです」
「どういう事?」
「サキエ。メイケル大使は軍を派遣しない代わりに、己の直属親衛部隊の派遣を決定してくれたのだ。だがそれだけでは数がとても足りぬ。故に大使館で保管していた〈デーモン〉を派兵する事を決定してくれたのだ」
「ファルシス。じゃあ、あの〈デーモン〉達は……」
「我々側の〈デーモン〉だ。サキエ」
そこにアローキーが言う。
「しっかし、何て顔をしているんだよ、サキエ? 美人が台無しだぜ?」
この時、先遣隊の〈ディストラクション〉が〈フォートレス〉達に体当たりをする。
〈フォートレス〉は堪らず倒れ、横倒しになる。
そこへ〈フォートレス〉の柔らかい横腹に、〈ディストラクション〉達が己の角で攻撃していく。
それを観察していたサキエの瞳は、生気を取り戻していく。
「ファルシス! 何で、貴女がリオ君の後ろにいるのよ!」
「この飛竜は二人乗りだ。仕方あるまい?」
ファルシスは如何にも「羨ましかろう?」という顔付きになる。
「サキエさん。今はそんな事を言っている場合では――」
リオはそれ以上言えなかった。サキエに抱き付かれキスをされたからだ。
「ありがとう、リオ君。信じていたよ……」
サキエは落涙する。
「小僧! てめえ!」
アローキーは対物ライフルをリオに向ける。リオはそれを見て疑問に思った。
「アローキー、それは?」
「魔導銃だよ! 分かったらサッサとサキエから離れやがれ! 小僧!」
聴いた事がある。己の魔力とマナを融合させて撃ち出す魔装武具だ。威力は種類にもよるが、最低でも通常魔法の上級魔法にも匹敵するらしい。引き金を引くだけで発動する為に、かなり有用な魔装武具で、各国の主力武器にもなっている。もっとも、統合軍のものとでは、性能がかなり落ちるらしいが……。
「アローキー、ここは堪えろ……!」
「しかし、コーウェル猊下……!」
「私も堪えているのだ。アローキー、お前も堪えろ」
「は。コーウェル猊下」
この時、先遣隊の魔神級〈デーモン〉が敵と接敵する。
魔力弾を放つ魔神級〈デーモン〉の前に、敵の〈ディストラクション〉達は、吼える暇もなく、爆散していく。
「サキエ、お前はどうする? ここにいるか?」
「冗談言わないで! ファルシス、わたくしも行くわ!」
「しかしサキエ、お前には乗り物が無いだろう? 飛竜はもう無いぞ?」
「それは……」
「その心配はないっスよ。サキエちゃん」
バーリーが、薙刀を持ったユキラを伴って飛竜に乗って現れた。
「サキエちゃん。この飛竜を使え」
バーリーとユキラは飛竜から降りる。
「バーリーさん。退避していたのではありませんか?」
サキエに追随して、アレウスとミレイスはバーリーを説得に掛かった。
「お主はこの国に無くてはならぬ人物。死なれては困る」
「そうです。バーリー殿。お願いですから非難してください」
バーリーは世界でも数少ない国際特級魔導技師。当然の反応だ。
しかし、バーリーは飽く迄も好戦的だ。
「ブルーミル師聖。アシュタール師聖。オレっちも戦う」
バーリーは二丁の魔導拳銃を見せつける様にホルスターから抜く。
「お願いですから、安全な所にいてください!」
「そうじゃ、お願いだから安全な所にいてくれい!」
ミレイスとアレウスの説得にバーリーは口を尖らせながら渋々と言う。
「…………分かったスよ」
サキエは飛竜に跨る。
「ブルーミル師聖とアシュタール師聖。貴方方はここに残ってください」
「何を言う! ホムラ師聖!」
「我々も戦います!」
アレウスとミレイスは、自分達も戦うと主張。それと同時に、
「ブルーミル師聖。アシュタール師聖。飛竜はもうありません。それに、防衛ラインを指揮する人間は必要です。更に言えば、バーリーさんが決めた事を覆さない事を知っているでしょう? 貴女方はバーリーさんが大人しく安全な所まで避難するか見張ってください」
「むう。仕方あるまい」
「く。仕方ありませんね」
二人の師聖が渋々サキエに従う。
「では皆の者、行くぞ!」
ファルシスの音頭で、飛竜に跨ったリオとファルシス。アローキーにシルク。そしてサキエは、敵の本隊へと飛翔した。
***
一方リオ達が敵の本隊へ向かった頃、軍需工業区画では防衛部隊が押されていた。
幾らシャドー・ストーカーが優秀でも、一体だけでは戦線を維持出来なかったのである。三〇〇名いた防衛部隊の聖武官と、三〇〇体の〈ネフィリム〉はその半数が死傷していた。
「くそ! 後退しろ! 第二門前まで後退し、体勢を立て直す!」
臨時で指揮官に任命された特佐の男性は、後退を皆に呼び掛ける。しかし、
「後退してどうする⁉ ここで踏ん張らなければ、居住区が蹂躙されるぞ!」
勿論、ポリーはそんな事は思ってはいない。ただ、手柄が欲しいだけだ。
しかし、ポリーの意見は指揮官の男に、却下される。
「その居住区を守る為だ! 聞き入れろ、ポリー特尉! あそこは路地が狭く、入り組んでいる! 少数で守るには悪くない場所だ!」
確かに指揮官である彼の言う通りだ。しかし、そこに行けばポリーの手柄は独占出来ないと考えていた。
「俺様は反対だぞ!」
「じゃあここで、一人で守っていろ! 全員後退! 怪我人は馬車で運べ! 急ぐんだ!」
「くそったれ!」
指揮官の言葉にポリーは吐き捨てて、
「シャドー・ストーカー! 後退を援護! 近付いて来る敵は、殲滅しろ!」
「命令を受諾。援護します」
ポリーは真っ先に近くの馬小屋に行き、馬に乗って後退する。
――二十分後。
重傷者の移送や編成の終わった頃、〈スポーン〉を主力とした追撃部隊が守備隊と接敵。
三対一で戦えるこの場なら何とかなる――そう思っていた。
実際、暫らくの間戦えていたのだ。
しかし、
「シネ! ニンゲンドモ!」
上空からの魔力弾が、特佐の聖武官に直撃。指揮官の聖武官が戦死する。
魔力値一二七〇〇〇。伯爵級。
どうやら討ち漏らした魔神級〈デーモン〉がいたようだ。
「くっ……! シャドー・ストーカー! あいつを殺せ!」
「命令を受諾。伯爵級〈デーモン〉を殺します」
ポリーの命令に、シャドー・ストーカーは素早く行動する。
シャドー・ストーカーの両手が伸び、刃となる。そして跳躍。
しかし、
マリョクケッカイ!
ガキッとした音と共に、シャドー・ストーカーの攻撃は空中で止まる。
「くそ! 結界か⁉」
(どうする? ここで魔力中和の波動を使うか?)
ポリーの魔力では、ここいらが限界だった。
そうして迷っている間に、伯爵級〈デーモン〉は次々と魔力弾を放っていく。
魔力弾を避ける為に隊列は乱れ――追撃部隊の〈デーモン〉達が次々と門前前に雪崩れ込んでくる。
そして三体の〈ダーク・アイ〉が、ポリーに狙いを定める。
「シャドー・ストーカー! 〈ダーク・アイ〉を――」
(間に合わない……!)
だがそこで、〈ダーク・アイ〉の頭が弾けていく。
そこにやって来たのは、バーリー一行だった。
「皆、無事っスか⁉ もう大丈夫っスよ!」
バーリーの言葉を聴いてポリーは余程安心したのか、その場にへたり込み、白い息を吐く。
「特別部隊はその場に展開! ここに防衛ラインを築く!」
ミレイスが指揮し、
「皆、ここが踏ん張り処じゃぞ!」
アレウスが激を飛ばす。
((最早、ここで手柄を立てるしかない……!))
二人はお互いを見て――ミレイスは、
(あの二人は新参の域を出ない。ならばここで手柄を独占すれば……!)
そしてアレウスは、
(今となっては、如何にアシュタール師聖を出し抜くかに掛かっておる! ここが踏ん張り処じゃ!)
二人は邪な考えを心に刻み、そしてお互いに相手に自分の考えを悟られない様に、にこやかに笑みを浮かべる。
「ではバーリー殿。お主は安全な所に避難してくれい」
「いや、それはまだっスよ?」
アレウスの勧告にバーリーは否を突き付ける。
「あの魔神級〈デーモン〉がいる限り、ここは持ち堪える事が出来ないっスね」
「それは儂らが何とかする……! 師聖が二人もいるのだ! 何とかなる!」
アレウスの反論にバーリーは疑問を投げ掛ける。
「どうやって? 相手は空を飛べるんっスよ?」
「それは……!」
アレウスが言葉に詰まっていると、今度はミレイスが質問する。
「では、貴方なら何とかなると?」
「オレっちには、これがある!」
バーリーは魔導拳銃を魔神級〈デーモン〉に向け、放ってきた魔力弾を全て迎撃する。
全ての魔力弾を相殺されたのを見て、伯爵級〈デーモン〉は魔力弾を放つのを諦め、バーリーに対して接近戦で挑む事に決めた。
「シネ! ニンゲン!」
伯爵級〈デーモン〉は上空を飛び回りながら、バーリーに向かっていく。
「ユキラ!」
「はい! ご主人様!」
ユキラの持つ薙刀が伯爵級〈デーモン〉に向かって振り下ろされる。
マリョクケッカイ!
「くっ……⁉」
ユキラの持つ薙刀が弾かれる。その隙を突いて伯爵級〈デーモン〉は、門を数発の魔力弾で破壊。
「しまったっス!」
バーリーの動揺が、防衛ラインを築いていた聖武官達に伝播する。
「いかん。このままでは……!」
「誰か、あの〈デーモン〉を止めろ……!」
その隙を突いて周囲を取り囲んでいた〈スポーン〉達は、聖武官達を攻撃し、
「「ぐあっ⁉」」
二人程、聖武官側が負傷する。
「貴方達は、後退しなさい!」
幻術を用いて戦っていたミレイスは、後退を指示。
「し、しかし、我らが抜けては……!」
「一体、誰がここを死守するのです⁉」
負傷した聖武官達の言はもっともだった。しかし、
「儂じゃ! お前達は後退するのじゃよ!」
今まで指揮を執っていたアレウスが、戦線に立つ。
「こんな雑魚共は、儂一人でも十分じゃ!」
アレウスは斧を一閃――三体の〈スポーン〉の首を飛ばす。
(これで手柄を独占出来れば、次の局長の座は儂じゃよ……!)
そのアレウスを煩わしいと思ったのか、伯爵級〈デーモン〉が、
「シネ! ニンゲン!」
アレウスに魔力弾を放とうとしたが、バーリーに魔導拳銃の威嚇射撃で邪魔される。
(くっ⁉ 余計な事を……!)
ミレイスが苦虫を潰した様な顔になった。そこで、
「ナラバ!」
伯爵級〈デーモン〉は、門に向かって滑空していった。
***
午後五時二十五分。こちらの魔神級〈デーモン〉隊が敵の本隊とぶつかった。こちらが押されている。
それもそのはず――こちらは伯爵級までで、しかも多くは男爵級なのだ。
「やはり、こちら側が押されているね。どうするの? ファル」
飛竜に跨って空を飛んでいる僕は自分の後ろにいるファルに、何か秘策はないか期待して尋ねる。
「皆の者、私に考えがある! 時間を稼いでくれ!」
「ちょっと、どんな考えよ! ファルシス! 時間を稼ぐのは良いけど、本当に大丈夫なの⁉」
「大丈夫だ、サキエ! 皆の者も安心して良いぞ!」
「分かったよ」
「分かりましたわ!」
「分かりました。コーウェル猊下」
「……了解しました。コーウェル猊下」
僕、サキエさん、アローキー、シルクさんは頷く。
第一正門前の上空。ファルは落ち着いて【ジェル】を三本飲み干す。
その間にも敵の空戦部隊は、僕達に襲い掛かってくる。僕達は必死にファルを護る。
敵が後方から魔力弾を放ってきた。
だがそれをアローキーが魔導銃で迎撃する。
堪らず敵の空戦部隊は、指揮官らしき〈デーモン〉達を残し、こちらに白兵戦を仕掛けようと迫ってきた。
聖刃!
僕は【メルキゼデグ】を握りしめ、【スコープ】を通して敵の戦力を確認する。
それによると、伯爵級が五〇〇体。子爵級が一二〇〇体。男爵級が三五〇〇体である。
これはかなりキツイ。
だがファルは冷静に。
「御霊賜いて、顕れるのは天帝の剣! 邪悪よ、畏れよ、恐れよ、怖れよ! 敬虔なる聖なる軍団! 天翔ける天なる軍団! 善なる天帝の軍団! 我が契約に従い、我が怨敵を滅ぼせ!」
軍団!
ファルを基点に、上空に巨大な呪式陣が現れる。
するとどうか――天使の軍団が出現。
「すごい……天使がたくさんいる。しかもいろんな天使が……」
僕は感動した。
「リオ。天使には階級があり、下から順に天使、大天使、権天使、能天使、力天使、主天使、座天使、智天使、熾天使がある。この中では座天使が最上位。私の今の状態を考えるとこれが限界だ」
座天使を筆頭に、幾千もの天使の軍団が召喚された事になる。
それはとても美しい光景だった。しかし、僕は直ぐに気を取り直す。
「ファル。この中の五〇〇体の天使は、防衛ラインに向けて。きっと苦戦していると思うから」
「うむ。分かった」
ファルは手で合図をして、主天使を筆頭に五〇〇体の天使を防衛ラインに向かわせる。
そして残りは疾風のように敵軍に向かっていく。
天使対魔神級〈デーモン〉の戦いが始まる。
相対している天使の数はおよそ二五〇〇体。
敵の総指揮官である公爵級〈デーモン〉はまだ出てこない。
それでもファルの表情は優れない――なので僕は、
「ファル、大丈夫?」
「ああ。問題ない。リオ、援軍が来るまでに片づけるぞ!」
「え? ファル、何で? 本隊が来てからの方が、勝てる見込みが高いのじゃないの?」
「リオ。敵の総指揮官である公爵級を斃せば、貯金も一気に増えるはず。そのためにも早急に片づけるのがベストだ」
「解ったよ、ファル!」
「リオ、その意気だ! よし、行くぞ!」
数はあちらが有利。
なら兵の質がものをいう。
最下級の天使が多いこの軍団で、敵の本隊を相手にするには数が少なすぎた。
だが、中級以上の天使達は次々と魔神級〈デーモン〉を屠っていく。
しかし、侯爵級〈デーモン〉三体が参戦してきた。
カキュウ!
侯爵級〈デーモン〉三体は、凄まじい数の――千にも上る数の火球を作りだし、天使達に向けて発射。結果――天使達はその数を激減させる。
残りの天使の数は約一二〇〇体。敵の数は二〇〇〇体はいる。明らかにこちらが不利だ。
それで舌打ちしたファルは大声で、
「サキエ! そしてアローキーにシルクよ! 侯爵級の相手をしてくれぬか⁉ 後一体は座天使にさせる故!」
ファルの言葉にサキエさんは、
「ファルシスとリオ君は⁉」
「私達は敵の総大将である公爵級を討つ!」
「分かったわ!」
「了解しました! コーウェル猊下!」
「……了解です。コーウェル猊下」
サキエさん、アローキー、シルクさんは了承し、侯爵級の下へ向かう。
「よし! 突撃!」
ファルの音頭で突撃を敢行する。
総大将である公爵級が狙われていると察したのだろう――侯爵級〈デーモン〉三体は、
カエンホウ!
三つの赤い閃光がこちらに向かってくるが、飛竜はそれぞれ躱す。
うわ! でも、危なかったよ! アレを喰らったら、恐らく消し炭になっただろうな……。
「後は任せました! サキエさん! アローキー! シルクさん!」
「任せてリオ君!」
「坊主、任せときな!」
「……リオ殿、お任せを」
三人と一体の座天使は侯爵級〈デーモン〉達と相対する。
***
リオ達が侯爵級〈デーモン〉を突破した頃、伯爵級〈デーモン〉が門を抜けようとしたのを見て、ユキラが邪魔をする。
「ソコヲドケ!」
「させません!」
ユキラと伯爵級〈デーモン〉は互角の戦いをする。しかし敵は空を飛べる為、明らかにユキラが不利だった。
「コウナッタラ!」
伯爵級〈デーモン〉は飛行して上空に上がり、上空から居住区に向かって魔力弾を放つ。
魔力弾は門の上空で爆発。
「ヤハリ、ケッカイガハッテアルノカ!」
伯爵級〈デーモン〉は、今度は防衛線に向かって魔力弾を発射。
「いかん! 皆の者、退避じゃ!」
気付いたアレウスが声高に叫ぶ。
しかし、遅すぎた。魔力弾は聖武官達を吹き飛ばしていく。
今の攻撃で、負傷していない者は、アレウス、ミレイス、バーリー、ユキラ、ポリー、オリバーと他三名の計――九名だけとなった。
防衛線が崩壊した事により、勢いづく〈デーモン〉達は、次々と門前に殺到する。
「くそ! ユキラ! アイツを何とかしろ!」
バーリーは上空を盗み見ながらユキラに指示を与える。
「ご主人様、無茶を言わないでください!」
「だがユキラ! 空を飛んでいるアイツを何とかしない限り、ここの防衛は難しいぞ⁉」
「それには賛成ですが、この体ではどんなに跳んでも、届きません!」
ユキラの言葉にバーリーは、
「くそ! その肉体に翼を付けておけば良かったぜい!」
後悔しながらも、上空にいる伯爵級〈デーモン〉を狙い撃つが、
マリョクケッカイ!
攻撃の全てが、結界に阻まれる。
「くそったれっス! リオ君はどうやって伯爵級を斃した⁉ 全く攻撃が効かねえっス!」
悪態を付くバーリーにユキラは、
「サキエ様から聞いたのですが、リオ様は室内で斃したそうです。ご主人様」
「そうじゃなくて、オレっちが訊きたいのはあの結界をどうやって突破したのかだよ!」
「それはご主人様の方が、分かると思われますが?」
「ユキラ、どういう意味っスか⁉」
バーリーは牽制の為に、魔導拳銃をぶっ放す。しかしそれらは伯爵級〈デーモン〉に躱された。
「ご主人様の方が、リオ様の武装を把握しているのでは? 何せ、ご主人様の開発された武装は、現在殆どリオ様が使っていらっしゃるのですから……」
ユキラは油断なく伯爵級〈デーモン〉を見据える。
「ふむ。って事は、【メルキゼデグ】を中てたか、もしくは補助武装の小太刀の結界破りの魔法を使ったか、だな」
(こうなったら、結界破りの術を使うか……)
バーリーが考え事をしていた時、
「ご主人様! 危ない!」
ユキラが身を挺してバーリーを護った。
魔力弾はユキラの背中に命中し、彼女の背中は火傷で覆われている。
「ユキラ! 大丈夫か⁉」
「ご主人様……まだ、大丈夫……です。後、一戦位なら……」
「ユキラ、これは命令だ。戦うな」
「しかし、ご主人様。最早戦える人数は限られています。ここでわたくしが戦線離脱したら……!」
「誰が戦線離脱しろといった? ユキラ、お前にやって欲しい事がある」
バーリーはユキラに耳打ちをする。
「出来るか?」
「はい。ですがこれではご主人様が危険です……!」
「ユキラ、これは命令だ! ここで誰かがやらなければ、全滅してしまう!」
「…………分かりました」
バーリーは右手に【アロール】を持ち、ユキラと密着。そして『破砕呪』の呪式を唱える。
「全ての楯を貫く刃となれ!」
バーリーは、ユキラに上空に向かって投げ付けられる。勿論、伯爵級〈デーモン〉の下にだ。
飛んだバーリーは、【アロール】を伯爵級〈デーモン〉に向かって突き出す。
しかし、
「オロカナ、ソンナテニヒッカカルカ」
バーリーの捨て身の作戦は失敗する。伯爵級〈デーモン〉が旋回して避けたのだ。
「シネ! ニンゲン!」
伯爵級〈デーモン〉はバーリーに向かってくる。爪で攻撃するつもりだろう。
「くっ⁉」
バーリーは、左手の魔導拳銃で撃つが中らない。どんどん伯爵級〈デーモン〉は、バーリーに迫ってくる。
その時だ。
横手から光の槍が伯爵級〈デーモン〉の横腹に数本、突き刺さる。
「ガッ⁉」
バーリーは何事かと思ってみると、天使達が地上にいる〈デーモン〉達を、生み出した光の槍で掃討しながらこちらに向かって来ているのを見た。
「助かった……スね」
バーリーは地上でユキラに受け止めて貰うと、天使達が〈デーモン〉を駆逐しながらこちらに向かっている事を皆に知らせる。
士気は――最高潮に達し、負傷者をも奮い立たせた。
***
歓声が本部方面から上がっていたその頃、僕達二人は侯爵級〈デーモン〉達を振り切って、上空で公爵級〈デーモン〉と対峙している。
「ナゼアナタガタソウゾウシュガ、ジャマヲスルノデスカ?」
ファルに向かってだろう――公爵級〈デーモン〉は、無機質な声色で疑問を口にする。
「戦いは終わったのだ! 大人しく言う事を聞け!」
ファルの怒声に、公爵級〈デーモン〉は、
「ソレハデキマセヌ。タトエアナタノメイデモ、ワレワレノコウドウヲ、セイゲンスルシカクハナイハズダ……! ファルシス=コーウェルスウキキョウ!」
「何故だ? お前達の創造主である、惑星ヘルの民の一員の私が言っているのだぞ⁉」
「ワレワレノタタカイハ、オワッテイナイカラダ!」
公爵級〈デーモン〉は、ファルの言を拒絶する。それに対しファルは声高に言う。
「もう戦争は終わったのだ! 二〇〇年も前に……! 我々の目的も達した! 故にお前達の役目も終わったのだ!」
「フザケルナ! アナタタチハソレデイイカモシレナイガ、ワレラハドウナル⁉」
公爵級〈デーモン〉の怒りの声は、ファルの胸に突き刺さったようだ。
「それは……」
ファルは言い淀む。
彼等は殺傷対象だ。生きる道は無い。
これを聞いたら彼等――魔神級〈デーモン〉達は、間違いなく怒り狂うだろう。
彼等は創造主の都合によって創られ――見捨てられて廃棄とされたのだから。
僕は同情を禁じ得ない。だが、人によっては彼等――魔神級〈デーモン〉を許さない人達もいるのも確かだ。
〈デーモン〉の被害によって孤児となったり、恋人や親類縁者を殺された人達がいたりするからだ。
ある意味――自業自得。だが、彼等は二〇〇年前に創られた時による、プログラムからの命令を実行している存在に過ぎない。
それを知っているファルだからこそ、二の句を告げる事が出来ないのだ。
「ワレワレヲウミダシテオイテ、イラナクナッタラステルトイウノカ⁉ ソレハムセキニントイウモノダ!」
カエンホウ!
公爵級〈デーモン〉は巨大な赤い閃光を放ってきたが、僕は飛竜を操ってこれを難なく躱す。
「ファル。お喋りはここまでの様だ……」
「待ってくれ! リオ!」
「ファル。何を待つと言うのだい? 君の声は彼等――魔神級〈デーモン〉には届かない。届く訳がない。僕達は彼等を狩る者。君は僕のパートナーとなる時に、そう決めた。違う?」
「それは……!」
ごめんよ……ファル。
僕はこの時、ファルに嫌われても構わないと思った。何せ、迷ったら殺されるのはこちらなのだから。 だから、敢えてキツイ言葉でファルを奮起させようと思ったのだ。
そして、それは功を奏した。
「済まぬ、リオ。迷惑を掛けた。お前の言う通り、私は覚悟が足らなかったようだ……!」
「ファル、行くよ!」
「うむ! 承知したぞ、リオ!」
僕は飛竜を旋回させながら、公爵級〈デーモン〉に向ける。
僕は【メルキゼデグ】を握りしめながら、
「喰らえ!」
マリョクケッカイ!
相手は結界を完成させたが、僕は構わず斬ろうとする。しかし【メルキゼデグ】の刃は、公爵級に届かない。結界に阻まれたのだ。
「なっ……⁉」
馬鹿な……⁉
『破砕呪』の魔法が掛けられた小太刀でも、この結界を突破するのは無理だろう。あれはあくまで補助武装だし、主武装である【メルキゼデグ】で破れないモノを突破するのは不可能である。
何て堅固さ。何て魔力量だ。伯爵級と公爵級とではこうも違うのか……!
「リオ! 公爵級〈デーモン〉の魔力結界は、戦略級攻式魔法クラスの威力が必要だ!」
「ファル! 今の君の魔力量で戦略級攻式魔法は撃てるかい⁉」
「一発だけ可能だ! しかし――」
ファルが言い終える前に公爵級〈デーモン〉は、聖武局本部を背にする。
「――当然、あやつはこうでてくるだろうがな……!」
「くっ⁉」
公爵級〈デーモン〉の背後に聖武局本部がある限り、こちらは戦略級攻式魔法を撃てない。
何て卑怯な――と言えるのは、戦いを知らぬ者だけだ。
勝てば官軍なのだから。
しかも、相手は人類の敵――〈デーモン〉。こちらの倫理は通用しない。
彼等は人ではないからだ。そして自分達を狩ろうとしている者達に対し、容赦などしない。一切の妥協もない。手心もあり得ないのだ。
僕は飛竜を操り、公爵級〈デーモン〉の背後を取ろうとする。
カキュウ!
「くっ⁉」
幾百の火球が放たれ、僕は公爵級〈デーモン〉の背後を取るのを断念し、旋回してこれらを回避するのに専念する。
だが、とても躱し切る事が出来るものではない。そこに、
聖楯!
何発かファルの張った魔法の楯で防いだのも束の間に、
カエンホウ!
巨大な赤い閃光が僕達を襲って来た。すぐさま僕は飛竜を操って、これを回避。
ちらりと巨大火炎砲にやられた大地を盗み見る。
――太地の色は赤く染められ、煮沸している。
何て事だ。あれをまともに喰らえば、一発であの世行きだ。
ごくりと僕は喉を鳴らす。
僕は後ろを振り向かずにファルに訊く。
「ファル。守式型戦術級魔法で、あの巨大火炎砲を無効化するのは可能かい?」
「ただの戦術級魔法では不可能だ。あの巨大火炎砲の威力は、それを上回るからな……。そうだな。あのランドルフとかいう者が身に付けていた鎧を身に纏い、それの機能と同時に戦術級守式魔法を使えば可能かもしれぬ」
僕はファルの可能性の話を聞いて、
「そこまでの威力なの? ファル」
「ああ。そうだ」
「となると、あの巨大火炎砲を撃った瞬間を狙えば、こちらの攻撃を中てる事は出来るかな? ファル、どう?」
「可能だが、相手もそれを予測しているだろう」
「でも、予測していないかもだよ?」
「リオ。戦場では希望的楽観視は、死を招く。憶えておくと良い」
う~む。では、どうしろと?
大体、あの結界――堅固過ぎる。【メルキゼデグ】の刃が通らないなんて、あり得ないだろ⁉
僕が攻式魔法さえ使えれば、時間差攻撃という手も使えるのに……!
これはいよいよピンチである。
う~ん。と、頭を悩ませていたら、魔力弾を放ってきた。
うおっ
僕は咄嗟に飛竜を操って、敵の攻撃を避けた。
「リオ! 何をぼさっとしている……! 次が来るぞ!」
ほっとしていたのも束の間――ファルの警告通りに。
カキュウ!
次の幾百の火球が襲ってきた。今度は、余裕を持って避けるように飛竜を操る。
「ふう~。危なかった~」
僕は冷や汗を拭う。それに対しファルは、
「リオ……! 戦場で余所見は感心しないな! 危うく死を招く処だったぞ⁉」
「ごめんよ。ファル」
僕は素直に謝る。
「リオ。それは戦闘が終わってからにしろ。戦場でその様な事は不要だ」
「分かったよ。でも、ファル。これからどうする?」
「そうだな。背を取れないのでは、やっても無駄であろうな。ここは腹案でいくか……。リオ、耳を貸せ」
ファルが僕に囁く。すると、
「セントウチュウニ、ワレヲムシスルトハイイドキョウダ! シネ!」
マリョクジン!
公爵級〈デーモン〉は白兵戦を挑んでくるが、逆に僕は【メルキゼデグ】の一撃を食らわせる。
だが、逸れてしまい急所には中らなかった。左翼を斬ったのみだ。
公爵級〈デーモン〉は、錐揉みしながら大地に堕ちていく。が、
カエンホウ!
僕達はすんでの処で飛竜から跳び下りて難を逃れ、大地に降り立った僕達は飛竜のいた方角を見るが、飛竜の姿は無い。恐らく消し炭になったのだろう。
『ちっ……!』
僕達は同時に舌打ちをする。
だが、これで条件は五分五分だ。あちらはもう空を飛べない。
僕は公爵級〈デーモン〉に対して、降伏勧告を促す事にした。
「もういいだろう⁉ お前達の負けだ! 大人しく森に帰れ! そうすれば、命までは取らないでやる!」
僕の提案に、公爵級〈デーモン〉は笑う。
「ハハハハハハハ……!」
「何がおかしい!」
何を笑っているのだ⁉ この公爵級〈デーモン〉は⁉
「ナニがオカシイカッテ? オマエタチノフリニキヅカナイ、オマエノオロカサニダヨ」
「僕達が不利? どういう事だ⁉」
僕の質問に公爵級〈デーモン〉は嘲笑う。
「マダキガツカナイノカ? オマエノツレ。ツマリ、ファルシス=コーウェルスウキキョウハ、サキホドノチャクチデアシヲクジイタノサ」
なっ⁉
「…………」
「本当かい⁉ ファル!」
僕は思わず、何も反論しないファルの方を目で追ってしまった。そこへ、
カエンホウ!
敵の攻撃が僕に迫ってくる。不意を突かれた為、避けられるタイミングではない。
しかし、
「神の加護よ! 顕現せよ! そして彼の者を護りたまえ!」
神楯!
ファルの生み出した黄金の楯が、巨大火炎砲を防ぐ。
そしてファルは怒りの声を上げる。
「リオ! 何故こちらを向いた! 戦場では余所見は死を招くと教えた筈だぞ⁉」
僕は、今度は振り向かずに言った。
「ファルが心配なのだから仕方が無いだろ!」
「リオ! それで勝機が無くなっては意味が無い! お蔭で戦略級守式魔法を使った! これで戦略級攻式魔法を撃てるだけの魔力が無くなってしまったぞ!」
「でも、ファル……!」
「でも、何だ! リオ!」
「勝機を掴むのには、戦略級攻式魔法だけとは限らないだろ⁉ もしかしたら、あいつの魔力が先に尽きるかもしれない!」
「リオ! 楽観的な考えも死を招くのは、教えた筈だ! 公爵級〈デーモン〉は、一軍をも壊滅させるだけの魔力量を誇っているのだぞ⁉」
なっ⁉ じゃあ、サキエさんが言っていた記録は本当だったのか⁉ 魔神級〈デーモン〉の中には、一軍にも匹敵するなんて〈デーモン〉が存在するなんて事が……! 僕はその言い伝えは、誇張されて伝わったとばかり思っていた。
「フン。ソウイウコトダ。デハ、コレデオトナシクシンデモラオウ」
カキュウ!
公爵級〈デーモン〉の周囲に凄まじい数の火球が出現。そして僕達に向かって発射される。
僕はすかさずファルの前に行く。
聖楯!
亀の甲羅の様な楯が出現するかと思ったら、楯篭手が開き、女性の顔が迫り出した。
「ひゃはああああああああああああああああびりいいいいいい!」
そしてその口から紡がれる〈魔女の歌声〉により、火球は悉く消失。
すごい! あれだけあった火球を全て消し去るなんて!
と、いうかバーリーさん。いつの間にか楯篭手に装備していたのか。
まあ、恐らく四人で食事した時だろう。バーリーさんはサーロイン用の肉を買って来てくれと言って、買い物には付き合わなかったのである。
まあ、それはともかく反撃だ!
と、言いたい処だが、こちらの攻撃は結界によって通さない。どうしたものか……。
いや、待てよ。
僕は【メルキゼデグ】を持って、公爵級〈デーモン〉に向かって突貫する。
「ムダダ!」
マリョクケッカイ!
公爵級〈デーモン〉は、結界を張る。が、
聖楯!
「ひゃはびろしいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
〈魔女の歌声〉によって結界が消失した事を確認した僕は、【メルキゼデグ】を振るう。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
公爵級〈デーモン〉は、僕に真っ二つに両断された。
公爵級〈デーモン〉が討たれた事によって統率力を失った野良〈デーモン〉達は、本隊が到着して直ぐに駆逐されていったのだ。
午後六時。それを僕達は防壁上で眺めながら、
「見事だったぞ。リオ」
「ありがとう。ファル。でも、勝てたのはファルの援護があったからだよ」
「謙遜するな、リオ。お前の実力だ」
「…………」
サキエさんが沈黙しているのを気になって僕は、
「サキエさん。どうしたのですか?」
「ごめんなさい、リオ君。侯爵級〈デーモン〉を取り逃がしてしまったわ」
僕の武装は特級。サキエさんのはC級。武器に差があり過ぎる。
「武装の差です。サキエさん、気にしないで」
「そうだぜ、サキエ。気にするな」
僕とアローキーの言葉に、サキエさんはシルクさんに、
「貴女方は、侯爵級〈デーモン〉を斃したの?」
「……はい。トドメの一撃はアローキー一級尉官が」
「そう……」
シルクさんの報告を聞いて、サキエさんは一層暗い顔をする。
あわわ。こういう時は、慰めてあげないと。でも、どんな風に慰めればいいのかな?
「サキエ。俺の武装は特級だ。仕方ないさ」
「……アローキー一級尉官の言う通りかと。相手は侯爵級〈デーモン〉でしたので仕方が無かったです」
「…………そうね」
シルクさんの言でもサキエさんの表情は優れない。だから僕は言う。
「サキエさん。こうは考えられませんか? サキエさんは劣った武器で侯爵級〈デーモン〉を足止めしてくれました。だから誇っても良いと思いますよ!」
サキエさんは僕に抱き付き、
「ありがとう。リオ君」
ファルとアローキーが僕達を引っぺがす。
「こら、サキエ!」
「てめえ、小僧!」
ファルとアローキーは、サキエさんと僕をそれぞれ責め立てる。そこに、
「おお、無事であったか! お主達が来てくれてたすかったぞい!」
ブルーミル師聖達がやって来た後、バーリーさんがふんぞり返った。
「だからオレっちの言った通りだったろ? リオ君ならやってくれるって!」
そこに今回の元凶であるポリーが得意気に言う。
「ふん! まあ、俺様の活躍には劣るがな⁉ 何たって俺様は数百体の〈デーモン〉を斃したんだからなあ!」
ポリーが言い終えた処で、ブルーミル師聖が彼を殴り飛ばす。
「馬鹿もん! 貴様の所為で死傷者がどれだけ出たと思っとるのじゃ……!」
ポリーは信じられないものを見たかのような顔になる。
「え? でも、局長からの特務が書かれた手紙を渡したのは、ブルーミル師聖ではありませんか……⁉」
「局長からじゃと? 我輩は局長から特務は受け取っておらぬぞ?」
ブルーミル師聖の表情は、「何を言っているのじゃ?」と言った感じで、次にアシュタール師聖がポリーに訊く。
「では、ランドルフ特尉。特務が書かれた紙は、今持っていますか?」
「いいえ。熟読の後、焼き捨てる様にと書いてあった為、焼き捨てました」
「そうですか。ブルーミル師聖、これは一体どういう事ですか?」
アシュタール師聖問いに、ブルーミル師聖は、
「我輩は知らぬ!」
「そんな! この鎧も手渡したのもブルーミル師聖ではありませんか⁉」
ポリーの必死の訴えに、バーリーさんが言う。
「あれ? それはオレっちが無くした失敗作じゃないっスか?」
「失敗作、ですか?」
僕の質問にバーリーさんは答える。
「ああ。その鎧はある程度の魔力を無効化出来る代わりに、〈デーモン〉を引き寄せる。だから失敗作なのだよ。リオっち」
「〈デーモン〉を意図的に引き寄せる――そういう訳ではないという事か?」
「ええ、そうです。ファル姐さん。その通りっス。成功例は今リオっちが付けているっスよ」
「ふむ。そうか」
バーリーさんとファルのやり取りを聴いていたポリーは、段々と表情が絶望色に染まっていく。
「でも……でも、あれは確かにブルーミル師聖だった!」
全員がポリーを白眼視する。否、たった一人だけ違った。アシュタール師聖だ。
「ではマルクス師聖に『見て』貰うと言うのはどうでしょう? 『法眼』なら本当かどうか判りますし。ブルーミル師聖、ランドルフ師聖。異存はありませんよね?」
「ふむ。良かろう」
「俺様もそれで異存はありません」
意外にもアッサリと、僕に『見て』貰うのを許可したポリーに僕は、
「じゃあ、ポリー特尉。その事を思い浮かべて」
「…………分かった」
僕は『法眼』を解放した。
***
ポリーが酒瓶を片手に自身のドアを開けると、昼の日差しが入ってくる。
玄関には複数の調度品が置かれている。
そして、目の前には紙と大きな袋を持ったアレウスが立っていた。
それを見てポリーは、顔を青くする。
「…………」
無言のまま、アレウスは手紙を渡す。その手紙には局長のハンコが押してあり、簡単に言えば内容は、〈幽界の森〉に赴き、一部の〈デーモン〉を聖武局本部まで誘き寄せる事。働きいかんでは、昇格させるというものだ。
ポリーは喜色満面の笑みを浮かべる。
「本当ですか⁉」
「…………」
アレウスは鷹揚に頷く。そして鎧を袋から取り出す。それを見詰めるポリーは訊く。
「何ですか? これは?」
するとアレウスは懐から取り出した紙片を、ポリーに渡す。
内容は――この鎧は、装着者から半径一五〇〇メートルの〈デーモン〉を吸い寄せ、魔法や魔力弾を完全に無効化出来るというものだった。
これを見たポリーは、
「本当ですか? とても信じられませんが?」
ポリーが疑問の声を上げると、アレウスは彼を睨みながら、別の紙片を取り出す。ポリーはそれを眺めながら、
「開発者は……ホークル技術部長⁉ 済みませんでした! 信じます!」
するとアレウスは再度鷹揚に頷いて、去って行った。
***
五時五十五分。戻って来た僕は防壁の上で言う。
「確かにポリー特尉は、ブルーミル師聖と会っています」
「何⁉ そんな馬鹿な……⁉ 何かの間違いではないのか⁉」
ブルーミル師聖が狼狽していると、
「往生際が悪いですよ? ブルーミル師聖」
アシュタール師聖が指を鳴らして合図すると、特別部隊の中の二人がブルーミル師聖を拘束する。
「ブルーミル師聖。貴方を拘束させて頂く」
「待ってください! アシュタール師聖!」
「何ですか? マルクス師聖」
「手紙を手渡したのは、ブルーミル師聖ではありません」
「マルクス師聖。君は先程、ランドルフ特尉はブルーミル師聖と会っていたと言っていましたが、ワタシの聞き違いですかね?」
「いいえ。聞き違いではありません」
「だったら――」
首を振った僕は、アシュタール師聖が言い終える前に言う。
「ですが、ポリー特尉が会っていたのは偽者と思われます。アシュタール師聖」
「マルクス師聖。その根拠は?」
「ブルーミル師聖に扮していた何者かは、一言も喋ってはいません。これはおかしくありませんか?」
「ふむ。なるほど……幻術か……」
僕の思った解答を言い、サキエさんは僕に訊く。
「リオ君。ブルーミル師聖に扮していた人物の【指輪】は、何色だったの?」
「紫色です。サキエさん。そう言えば、【指輪】に小さな傷がありました」
「と、いう事は、その人物は師聖である可能性は相当高いわね」
「どういう事ですか? サキエさん」
「リオ君。わたくし達エデンの民が使う幻術は、容姿しか変えられないの。だからブルーミル師聖に扮した何者かは、師聖である可能性が十分高いという訳。後は【指輪】を盗んだ何者かという事だけど、まず低いでしょうね」
「サキエさん。何故ですか?」
「今現在、わたくし達以外は全員局長に付いて行っているからよ」
僕はサキエさんの言葉に納得する。
「なるほど。しかし、一体誰が……」
最も一番怪しいのは、アシュタール師聖である。幻術を得意とするし。その為、皆の視線がアシュタール師聖に集中する。視線の先は【指輪】だ。彼の【指輪】には小さな傷がある。
それを見たブルーミル師聖は、
「アシュタール師聖。話を伺えるかの? 何故こんな大惨事を起こしたのかを……!」
静かに怒りを露わにしながら、合図を送る。すると薄笑いを浮かべたオリバーがアシュタール師聖を拘束する。
だが拘束されたアシュタール師聖は否定する。
「ちょっと待ってください! ワタシはやっていませんよ? 確かに一時、【指輪】を失くしましたが……!」
【指輪】を失くした?
と、言う事はアシュタール師聖ではないという事か?
しかし、一番怪しいのはアシュタール師聖だ。そこに、
「なら、ランドルフ特尉のシャドー・ストーカ-に訊けばいいんじゃないっスか?」
「バーリーさん。どういう事ですか?」
「ランドルフ特尉のシャドー・ストーカーは幾ら幻術を使っても、相手の影で正確に下手人を把握出来る筈だよ?」
バーリーさんの説明を受けた僕は、
「じゃあ、ランドルフ特尉。お願い出来るかな?」
「嫌だね! 何で俺様が貴様のいう事を聞かねばならない!」
ポリーが拒絶したのを聴いて、アシュタール師聖が、
「ワタシからも頼みます! ランドルフ特尉!」
拘束されたアシュタール師聖に懇願されて、ポリーは不承不承に、
「シャドー・ストーカー。ここにいる中で昼間、俺様に会っていた人物が分かるか?」
シャドー・ストーカーは僕とサキエさん、ファルにアシュタール師聖を指差す。
「決まりですね」
僕の一言で、アシュタール師聖は皆から視線を集める。
「違う! ワタシではない! 拘束を放せ! ジャクソン特将!」
「見苦しいですぞ! アシュタール師聖、大人しくお縄につきなされ!」
だがその時、アシュタール師聖が暴れ、拘束が解かれる。
するとどうか――シャドー・ストーカーの指先は、オリバーを指差していた。
『あ⁉』
視線は一気にアシュタール師聖からオリバーに移る。
オリバーは逃亡をはかろうとするが、天使達に阻まれて身動きが取れなくなり、彼は直ちに拘束される事となった。




