第16話 能力者の検査
ロヴァーン公爵が主導して進めていた能力者の調査が、貴族を対象として行われることになった。
平民を対象とした調査では、すでにある程度のデータが集まっているらしい。今度は貴族の中に、どれほどのエスパーやガイドがいるのかを調べるのだという。
私も検査日程を知らせる手紙を受け取り、マクシム様と共に王宮へ足を運んだ。
「個室と会場のどちらがよろしいでしょうか?」
受付でそう尋ねられた。一瞬、予想していなかった質問に戸惑ったが、これまでの検査でも個室を希望する人がいたのだろうと納得した。
「会場でお願いします」
「かしこまりました。こちらが検査場です」
案内された広間には、男女の騎士たちがずらりと並んでいた。
エスパーとガイド、それぞれの能力者が集められているらしい。
「まずは、エスパーかガイドかを判定します」
説明を受けながら様子を眺めていると、椅子から立ち上がった貴族が、ガイドと書かれた腕章をつけた騎士の手を握った。
「……あなたはエスパーです」
「次の方」
今度の貴族は、エスパーと書かれた腕章をつけた騎士の手を握った後、ガイドと書かれた腕章をつけた騎士の手を握った。
「能力者ではありません」
そう判定された貴族は、そのまま会場を出ていった。
判別するための機械がないので、このような方法で振り分けているのだろう。貴族が能力者の手を触れるたび、担当者が結果を紙に書き込んでいく。
エスパーと判定されたマクシム様は、別室での検査へ進んだ。
どんな能力を持っているのか。能力はいくつあるのか。どれほどの強さなのか。どこまで遠くのものを感知できるのか。一人ひとり、細かく確認されていく。
五感すべてに能力を持つ者もいれば、一つの能力しか持っていなくても、その力だけが突出している者もいるらしい。
そうした結果をもとに、エスパーにも大まかな等級がつけられる。
一方、私のようなガイドは、別室へ進むと実際にエスパーへガイディングを行うよう指示された。
どの等級のエスパーまでガイディングできるのか。それによって、こちらも大まかな等級を決めるらしい。
私の等級はA級と判定された。思っていた通りの結果だった。
さらに問診まで行われ、その後は医師による診察も受ける。
想像していたよりも、ずっと本格的な検査だった。
「うっ……」
検査室を移動していると、突然、最初の広間の一角から苦しそうな声が聞こえた。
何事かと思って目を向けると、エスパーと書かれた腕章をつけた騎士が口元を押さえている。その前には、手を差し出したまま固まっている貴族の姿があった。どうやら、ガイディング中にエスパーの騎士が気分を悪くしたらしい。
「大丈夫ですか?」
「……少し、気分が……」
担当者の一人が騎士に付き添い、もう一人が動揺する貴族に退出を促した。
「やはり、ガイディングには相性があるみたいですね……」
顔色の悪い騎士が連れていかれると、担当者たちは小声で話していた。
検査が進むにつれ、この国でも『エスパー』や『ガイド』について、詳しいことが少しずつ明らかになっているようだった。
前世で知っていたのも、あくまで作品の中での知識だ。細かな設定は作品によって違っていたし、現実のことまでは分からない。
こうして実際に調査が進んでいることに、私は安堵した。
検査を終えて歩いていると、ふと見覚えのある姿が目に入った。
「ベルトラード!」
私が声をかけると、ベルトラードがこちらを振り返った。
「ジュリエット!」
嬉しそうに駆け寄ってくる。
「ベルトラードも検査に来ていたのね」
「ええ。侯爵家も受けるようにと言われたから」
二人で話していると、ちょうどマクシム様が姿を現した。
「マクシム様も無事に終わりましたか?」
「ああ」
検査が終わったので、帰りの馬車を待つ間、客間の一つでお茶を用意してもらうことにした。
「今日は随分疲れましたね」
私がそう言うと、ベルトラードが頷いた。
「思っていたより大掛かりでしたわ」
「マクシム様は?」
私が尋ねると、マクシム様は胃の辺りをさすりながら口を開いた。
「……味覚の調査が大変だった」
そう言った途端、マクシム様は「うぷっ」と口元を押さえた。
一体どんな調査だったのか、聞きたいような聞きたくないような……。
「お疲れさまでした」
私は当たり障りのないことしか言えなかった。
「私、ミントティーを頼んできますね」
そう言って、ベルトラードは使用人のもとへ向かった。
しばらくして運ばれてきたミントティーを飲むと、マクシム様の表情が少し柔らかくなった。
「ありがとうございます」
「いえ。無理なさらないでください」
そう言って微笑むベルトラードの頬が、ほんのり赤く染まっていた。
目の前で繰り広げられる青春に、なんだかむず痒い気持ちになる。
私は二人の会話が続きやすそうな話題を一つ振った。
「ベルトラードって、何か趣味とかある?」
「趣味?」
「うん」
マクシム様が好きなことが分からないと言っていたので、いろんな人の話を聞けば、探すのにも役立つと思ったのだ。
「そうね。本を読むことは好きよ。……子供っぽいかもしれないけど」
そう前置きしてベルトラードが一番好きな本だと口にしたタイトルは、童話だった。
悪いドラゴンにお姫様がさらわれ、神から力を得た勇者が助けに行く物語らしい。
「俺もその本は読んだことがあります。幼い頃に母上が読んでくださったので」
「まぁ、本当ですか?」
ベルトラードはぱちりと手を合わせて喜び、どこが好きなのか、どんなところにわくわくしたのかを楽しそうに話し始めた。
いつもは無口なマクシム様も、自分から話題を振っていた。私から見ると、表情もどこか楽しそうだ。
やがて馬車が到着したと連絡があるまで、私は静かに二人の会話に耳を傾けていた。




