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序章 黒衣の楽師③
最初の演奏会で、三人が泣いた。
二人は感動。
一人は耳から出血した。
割合としてはかなり危険寄りである。
貴族たちは熱狂した。
「魂が震える!」
「なんという激情!」
「死が近い!!」
最後のやつは本当に危険信号なのだが、芸術界隈ではわりと褒め言葉扱いされる。
文化って怖い。
ルシアンは演奏後、一礼だけした。
アンコールには応じなかった。
代わりに客席を見て、こう言った。
「次は、もう少し“人間向け”に調整します」
その夜、観客のうち十七人が同じ夢を見た。
巨大な階段を、ただ降り続ける夢である。
終点には玉座があった。
誰も座っていない。
ただ、ヴァイオリンだけが静かに置かれていた。
翌朝、十七人全員が、楽器店へ走った。
誰一人、楽器経験はなかった。
芸術は人生を変える。
だが、方向性は選べない。




