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序章 黒衣の楽師②

ルシアンが宮廷へ招かれた理由は単純だった。


戦争が長引き、税は底をつき、貴族は浪費し、王は現実逃避していた。


つまり、いつもの王国である。


そんな中、ある大臣が言った。


「民には希望が必要です」

いや、必要なのは減税だろ。


だが宮廷は昔から、根本治療より概念ポエムを優先する。


結果、「奇跡の音楽家を招聘しよう」という流れになった。



今思えば、あの時点で滅亡フラグはビンビンだったのだ。

ホラー映画なら、地下室を開ける前のテンションだ。


ルシアンは契約書を読まずに署名した。

代わりに、契約書の余白へ五線譜を書いた。


その瞬間、インクが悲鳴を上げた。


紙の上で、黒い線がわずかに波打つ。

立会人の書記官は、その場で失神した。


後に彼は、

「墨が泣いていた」

と証言したが、精神状態を考慮され、静かに職を解かれた。


宮廷は笑った。


「芸術家気質だ」


違う。

あれはもうその時点で、人外からの警告だったのだ。

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