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序章 黒衣の楽師④
王は、ルシアンを気に入っていた。
「彼は従順だ」
人生で一番危険な誤認である。
ルシアンは確かに逆らわなかった。
命令にも従った。
ただし、全て“演奏”で返した。
敵国への威圧演奏。
処刑用協奏曲。
祝祭用レクイエム。
だんだんジャンルが終わってきている。
しかし宮廷は麻痺する。
権力の近くにいると、人は「異常」を「伝統」と呼び始めるのだ。
ブラック企業で「うちは家族だから」と言い出す現象に近い。
逃げられない関係に、あとから美名をつけているだけだ。
そのうち宮廷では、ルシアンの怪異に名前がつけられた。
壁からすすり泣きが聞こえれば、「音響効果」
肖像画の目が光れば、「前衛芸術」
大臣が三日間ずっと短調で喋れば、「情緒が豊か」
そして誰も、異常だと言わなくなった。
言った者から順に、次の曲のタイトルになったからだ。
──宮廷はまだ、自分たちが“演奏される側”だと気づいていなかった。




