王妃は最初の演奏で泣き、二度目で恋をし、三度目で秘密を漏らす ③
「……少し、お疲れのようですね」
王妃セレスティナの脳内で、
何かが派手にショートした。
話しかけられた。
直で。
生声。
近い。
え、待って、睫毛長。
いや今そんな情報どうでもいい。
何か返さなければ。
気の利いたことを。
知的で。
上品で。
“音楽を理解している女”っぽい何かを。
できれば、彼の興味を引く話題を!!
王妃の脳がフル回転する。
だが人間、極限状態ではロクなことにならない。
合コンでも推しイベントでも同じである。
「あ、あの……そう! 面白い話がありますの!」
侍女、嫌な予感。
宰相、もっと嫌な予感。
ルシアンは黙って聞いている。
その“ちゃんと聞いてくれる感じ”がダメ。
オタクは“推しが話を聞いてくれる”だけでIQが溶ける。
王妃は勢いづく。
「王家の宝物庫にある“聖女の頭蓋骨”なんですけれど!」
やめろ。
「実は三代前の王が宴会で落として割ってしまって!」
やめろ!!
「今入ってるの、庭師が拾ってきた鳥の骨ですの!!」
終わった。
侍女、顔面蒼白。
護衛騎士、天を仰ぐ。
宰相に至ってはもう、
「どう責任を取ればいいのかわからない」
顔をしていた。
だが王妃は止まらない。
なぜならルシアンが、
ちゃんと頷きながら聞いてくれているから。
だめだ。
聞き上手は人を狂わせる。
「あと、初代国王の肖像画なんですけれど、実際は身長が低かったので!」
「王家の秘伝ワイン、南通りで普通に買えますし!」
「王も実はハープだけは下手で!」
「白薔薇卿、香水つけすぎて馬に嫌われて――」
「王妃様!!」
ついに侍女が止めた。
遅い。
もう手遅れである。
王妃はハッとして口を押さえた。
ルシアンは静かに瞬きをした。
だが王妃には、その反応だけで十分だった。
(あっ……今、ちょっと困ってる顔した……)
嬉しい。
最悪である。
王妃はもう、
「推しからレア表情を引き出せたオタク」
のテンションになっていた。
するとルシアンは数秒沈黙したあと、
ふ、と笑った。
「……宮廷とは、興味深い場所ですね」
優しい声。
だから余計にダメ。
王妃の心拍数が限界突破する。
(あっ……今、笑った……私に……)
恋、再加速。
侍女は思った。
駄目だこの人。
もう“音楽好きの王妃”じゃない。
“推しに認知された女”だ。




