33話 氷結の刃
王城の大広間は、冷えていた。
三大貴族の当主が並び、王家の使者が中央に立つ。
第二王子は定められた位置に。
国王は玉座に。
「ヴァルディエリ家の返答を」
静かな促し。
当主が一歩進み出る。
「王家への支持は変わりませぬ」
一拍。
「しかし婚姻は、均衡を損ないます」
ざわめきが広がる。
その瞬間。
重い扉が開いた。
第一王子。
凍結中の身でありながら、堂々と入場する。
止める者はいない。
止められない。
「均衡、か」
低い声が響く。
「我が家が望んでいるのは忠誠だ」
第二王子は動かない。
国王も制止しない。
まだ。
王子はまっすぐに私へ向かう。
視線は鋭く、余裕はない。
「一年後だ」
はっきりと言う。
「婚姻は可能になる」
私は目を逸らさない。
「当主体制は変化すると申し上げました」
静かに。
王子の目が細まる。
「覚えている」
吐き捨てるように。
次の瞬間。
彼の手が伸びる。
布が裂ける音。
広間に鋭く響いた。
肩口の布が裂け、空気が触れる。
痛みはない。
だが衝撃は明確だった。
「王家の望みを拒むとはどういう意味だ」
怒気が滲む。
理性が揺らいでいる。
ざわめきが広間を満たす。
第二王子の視線が鋭くなる。
東家と西家の当主が同時に一歩出る。
当主の声が落ちる。
低く、重く。
「殿下」
空気が凍る。
「当主体制は変化すると、あの舞踏会で申し上げました」
はっきりと。
王子の呼吸が荒い。
だが返せない。
「ヴァルディエリ家は」
当主は続ける。
「王家との婚姻を望みません」
明言。
広間が静まり返る。
「均衡は三家で保つ」
東家が言う。
「婚姻は不要」
西家が続ける。
第一王子の顔色が変わる。
「貴様ら……」
「本日をもって」
当主の声がすべてを遮る。
「ルチアを次期当主と定める」
静寂。
「三家承認により、当主契約を成立させる」
印章が運ばれる。
東家。
西家。
順に押される。
王家の認可は不要。
条項は明確。
第一王子の手が震える。
だが遅い。
「当主は婚姻を結ばぬ」
当主が告げる。
一年後の前提は消えた。
縁談は構造上、不可能となる。
沈黙ののち。
国王が立ち上がる。
「王家の名において告げる」
声は重い。
「息子が無礼を働いた」
一拍。
「親である私の責任である」
第一王子が振り返る。
だが言葉はない。
「継承凍結は継続とする」
国王は続ける。
「再審は無期限延期」
事実上の失脚。
広間は動かない。
誰も声を上げない。
第一王子は立ち尽くす。
均衡は崩れなかった。
崩れたのは、彼の立場だった。
当主契約は成立した。
ヴァルディエリ家の体制は変わる。
そして。
私は、当主となった。




