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27話 残り香

眠りは、遠い。


瞼を閉じても、静寂は訪れない。


すぐ隣にある気配が、あまりにも鮮明だから。


同じ枕。


わずかに触れ合う髪。


微かに重なる吐息。


それだけの距離が、胸の奥を容赦なく灼いていく。


触れない。


それが、私の均衡。


もう唇を求めない。


もう熱を奪わない。


欲を押し殺し、静かな理性に身を委ねる。


かつての私は、愚かだった。


安堵を口づけに依存し、


恐怖を温もりで覆い隠そうとしていた。


あれは愛ではない。


ただの渇き。


醜いほどの執着。


だからこそ決めたのだ。


もう、触れない。


お姉様が、私を選ぶその時まで。



だが。


夜は残酷だった。


すぐ傍で揺れる呼吸。


甘く漂う香り。


無防備な温度。


それらは静かに、確実に、理性を削り取っていく。


「……ずるい」


掠れた吐息が零れる。


眠る横顔はあまりにも穏やかで、


その唇は、何も知らぬまま閉ざされている。


欲しているのは私だけ。


揺らいでいるのも私だけ。


喉が乾く。


胸が軋む。


抑圧された感情が、出口を求めてざわめく。


せめて。


代わりに。




手を伸ばす。


触れたのは、布だった。


椅子に掛けられていた薄いストール。


昨夜、お姉様の肩を覆っていたもの。


それを掴んだ瞬間、


胸の奥で何かが大きく揺れた。


微かに残る体温。


淡く滲んだ香り。


触れられぬ距離を埋める、甘美な残り香。


「……っ……」


息が震える。


縋るように、抱き寄せる。


布が皺になる。


指先に、力が籠もる。


抑えきれない熱が、内側で揺れる。


逃れようとするように、


指先だけが落ち着きを失っていた。


触れてはいない。


越えてはいない。


そう言い聞かせながらも、


胸の鼓動は静まらない。


甘い香りが肺を満たす。


理性が、音もなく軋み始める。


「……駄目です……」


ほとんど祈りのような囁き。


だが熱は引かない。


行き場を失った衝動が、静かに膨れ上がっていく。


夜は深い。


それでも。


私の均衡は、すでに薄氷だった。


気づけば私は、


ストールから視線を逸らせなくなっていた。


まるで、


それだけが最後の救いであるかのように。


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