21話 王城
王城は光に満ちていた。
磨き上げられた大理石。
高く吊られた燭台。
華やかな衣装に身を包む貴族たち。
だが今夜の主役は舞踏ではない。
視線は一か所に集まっている。
第一王子。
そして——
ルチア・ヴァルディエリ。
「ようこそ」
王子は微笑む。
余裕を取り戻している。
法を理解した者の笑みだ。
「一年は短い」
周囲に聞こえるように言う。
「その間に、互いを知る時間もある」
ざわめき。
婚姻不可は一年。
だが交流は禁止されていない。
王子はそこを突く。
私は一礼する。
「殿下は気が早いですね」
静かに。
「一年後の話を、今なさるとは」
王子の目が細まる。
「勝算があるからだ」
はっきりと。
公の場で。
ビアンカの指がわずかに強張る。
だが前には出ない。
「第二王子殿下もご出席です」
誰かが囁く。
空気が微妙に変わる。
第二王子は穏やかな笑みを浮かべ、距離を保っている。
何も言わない。
だが見ている。
第一王子は私に近づく。
声を落とす。
「港はどうだ」
柔らかい口調。
だが刃がある。
「順調です」
私は答える。
嘘ではない。
完全ではないが、崩れてもいない。
「一年で削れると思うな」
王子の声は低い。
「議会も、派閥も、王城も」
確信している。
自分の立場を。
私は静かに笑う。
「殿下は盤面をご存じない」
王子の眉がわずかに動く。
「三大貴族は、均衡で動きます」
淡々と告げる。
「王家の一存ではありません」
王子は即座に返す。
「均衡は崩せる」
自信。
揺らぎはない。
そのとき。
当主がゆっくりと前に出た。
広間が静まる。
「殿下」
低く、よく通る声。
「一年後の婚姻を前提に動かれるのは、些か早計」
王子の視線が向く。
「養子後一年は婚姻不可」
王子が言う。
「だが一年後は可能だ」
余裕。
計算済み。
当主は微笑む。
「一年後も、とは申し上げておりません」
広間が凍る。
王子の目が細まる。
「どういう意味だ」
私は一歩前へ出る。
「家の体制は、変わります」
静かに。
私は一歩前へ出る。
「当主は婚姻を結びません」
言い切らない。
だが十分だ。
ざわめきが広がる。
三大貴族の当主は原則婚姻不可。
当主同士の均衡を保つため。
王族の認可は不要。
三家承認のみ。
王子は一瞬だけ沈黙する。
そして、笑う。
「養子が当主に?」
軽い声音。
侮りを含む。
「可能性は、常にございます」
当主が穏やかに返す。
否定しない。
断定もしない。
第二王子の目が、わずかに細くなる。
興味。
計算。
第一王子は視線を逸らす。
まだ脅威と見ていない。
一年あれば崩せると、思っている。
音楽が再開する。
だが空気は戻らない。
私はそのとき悟った。
王子は侮った。
だが、王家は覚えている。
均衡は、崩すものではない。
守られるものだ。




