13話 提案
夕刻、ビアンカは自室ではなく、応接室を指定した。
形式を整えるためだと、すぐに分かった。
扉が閉まる。
使用人は下がる。
二人きり。
「お時間をいただき、ありがとうございます」
完璧な声音。
令嬢としての口調。
感情は封じられている。
「改まってどうしたの」
私は椅子に腰かけたまま言う。
彼女は立ったまま。
わずかに背筋が硬い。
「王族は動きます」
前置きなし。
「第一王子殿下は、正式な打診を行う準備に入っております」
「知っているわ」
私は静かに返す。
彼女の視線が揺れる。
一瞬だけ。
「よって、対抗措置を講じます」
父の言葉をなぞる声音。
理性的。
整然。
「あなたを、ヴァルディエリ家の養子といたします」
空気が止まる。
「養子?」
問い返すと、彼女は頷いた。
「三大貴族の家名を持てば、王族も容易には手出しできません」
理だ。
間違ってはいない。
「それは、あなたの案?」
わずかに沈黙。
ほんの一瞬。
だが見逃さない。
「父上の提案です」
正直な答え。
「……わたくしも賛成いたしました」
「私の意思は?」
穏やかに問う。
責めない。
逃げ場も与えない。
「尊重いたします」
即答。
だが指先が、わずかに強張る。
「しかし、時間がありません」
理が先に出る。
感情を押し込めている。
「養子になれば、何が変わるの」
「家名が変わります」
「それだけ?」
沈黙。
ほんのわずかに、呼吸が乱れる。
「……守れます」
声が低くなる。
理の声音ではない。
本音に近い。
「囲うのとは違う?」
問いは静かだ。
彼女の瞳が揺れる。
「違います」
かすれた声。
「囲うのではありません」
一歩、距離が縮まる。
気づけば。
「正式に、家族となるのです」
その言葉に、わずかな熱が混じる。
家族。
理のはずの提案に、情が滲む。
「それは、あなたに都合がいいのでは」
私は言う。
柔らかく。
刃のように。
息が止まる。
彼女の瞳が、わずかに見開かれる。
「わたくしは」
言葉が詰まる。
理を選ぶべきだ。
だが。
「あなたを、守りたい」
抑えきれずに落ちる本音。
室内の空気が変わる。
「守るために、家に縛るの?」
私は視線を逸らさない。
彼女も逸らさない。
「縛りません」
即答。
だが声が揺れる。
「……少なくとも、王族には渡しません」
最後の一言は、ほとんど誓いだった。
私はゆっくりと立ち上がる。
距離が縮まる。
彼女の呼吸が乱れる。
「ビアンカ」
名を呼ぶだけで、瞳が震える。
「理で語ると言われたのでしょう」
彼女の肩が、わずかに強張る。
見抜かれた。
「でもあなたは、理だけではない」
静かに告げる。
「……」
言葉が出ない。
令嬢としての仮面が、ひび割れていく。
「私は考えるわ」
すぐには答えない。
主導権は渡さない。
「だが、条件がある」
彼女の瞳が、はっきりと揺れる。
「監禁はやめなさい」
静かな宣言。
空気が止まる。




