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12話 布石

一か月。


短いが、十分だ。


私は自室で帳簿を広げていた。


王城へ納められている品目。


宝石商の流通記録。


港の輸入明細。


第一王子の名義ではない。


だが、辿れば繋がる。


王族は直接買わない。


側近を通す。


側近はさらに商人を通す。


その迂回経路を掘る。


商人の娘の領分だ。




「殿下は散財家です」


商会の古参が、声を潜めて言った。


「表向きは倹約を装っておりますが」


私は頷く。


「帳簿は残るわ」




王家の予算には限度がある。


だが私的な資金は、別だ。


宝石。


国外の希少品。


秘密の別邸。


それらが繋がれば——


王族の品位は揺らぐ。



「焦らないこと」


私は指示する。


「確実な証拠だけを」


噂では弱い。


証拠でなければ意味がない。



一方その頃。


ヴァルディエリ家執務室。


ビアンカは呼び出されていた。



「昨夜、鍵をかけなかったな」


父の声は低い。


責めない。


ただ確認する。




「一時的な判断です」


視線を逸らさない。


令嬢としての矜持は崩さない。


だが内側は揺れている。



「理性が揺らいだか」


静かな問い。




ビアンカは沈黙する。


否定できない。


肯定もできない。




「ビアンカ」


父は書類を机に置く。


「お前は彼女を守りたいのか」


「はい」


即答だった。


迷いはない。



「ならば囲うだけでは足りぬ」


その言葉に、ビアンカの瞳がわずかに揺れる。



「王族は奪う」


父の声は淡々としている。


「囲い込みは一時しのぎだ」




「ではどうすれば」


問いは真剣だ。


感情ではなく、戦略を求めている。




父は一枚の書面を示す。


まだ署名はない。


正式文書ではない。


だが効力を持ち得る内容。



「養子にする」


静かな宣言。



ビアンカは一瞬、息を呑む。


「ヴァルディエリ家へ……?」


「そうだ」




三大貴族の家名。


王家に近い血筋。


一介の平民とは立場が変わる。




「王族が動きづらくなる」


父はそれ以上説明しない。


法の細則も、条件も、語らない。



ビアンカは理解する。


それは保護だ。


同時に、拘束でもある。



「彼女は……受け入れますか」


初めて、弱さが滲む。



「お前が説得する」


父は静かに言う。


「感情ではなく、理でな」



沈黙。


長い沈黙。



「……承知いたしました」


深く頭を下げる。


娘ではなく、次期当主として。




執務室を出たあと、


ビアンカは廊下で立ち止まる。


養子。


家に迎え入れる。


正式に。


名を与える。




胸が静かに熱を帯びる。


守れる。


だが同時に——


近づきすぎる。




「理で……」


小さく呟く。


理で語れと言われた。


だが。


理だけで済むのか。



一方。


ルチアは帳簿に目を落としたまま、


小さく笑う。


第一王子の動線が、見え始めていた。




戦は、静かに始まっている。


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