間章
「――と、ここまで一気に読んだわけだけど、どう? 疲れてない?」
少年は勢いよく首を横に振った。むしろ続きが気になって仕方ない。単純に物語が面白い上、案外男の読み聞かせ能力が高く、その場で見聞きしているような臨場感があった。
「子どもは飽きっぽいからな、君が聡明で良かったよ。まぁ寝たら寝たで叩き起こしてあげるけど。……え? そりゃそうだろ。君が読んでくれってせがんだんだ、途中で放り出すなんていい度胸じゃないか。……腹が立って殺してしまうかも」
少年はぞっと身震いした。明日の天気でも伝えるようにさらりと告げられた殺害予告が冗談かどうか分からない。
さすがに冗談だと思いたかった。享年十歳はあまりにも早い。しかも死因は読み聞かせの途中退出だ。ダサすぎる。
「ああ、いいねその顔。人間が恐怖に慄く表情は大好物だよ。泣かせたくなる。……ああ、そう身構えないでよ。君に嫌われるのはこっちとしても不本意だ。自重するよ。それで、物語の続きだけど……え? いやこの一冊で千日の歩み全ては分からないよ? そりゃそうでしょ。一日一頁だとしても千頁だよ? それだけで三冊は固いね。ほら、見てみなよ。あれ全てがこのお話だ」
男は後ろの本棚の一部を指差した。背の高い本棚の中ほどには同じ装丁の本が十冊以上並んでいる。その上一冊一冊が分厚い。少年は騙された気分になった。
「なに、やめたくなった? ……へえ、いいね。なかなか骨があるじゃないか。子どものくせに。……ああ、すまない。子どものくせには余計だったね。うん、人間にしては見どころがある。この物語の彼女たちみたいに。……じゃあ、続きを読もうか」
男は手元の本に目を落とした。どこまで読んだかを確かめるように、知らない言語で書かれた文章を褐色の指がなぞる。
少年は心を弾ませ、椅子に座りなおした。期待に足がぷらぷらと揺れる。
「これは、やがて金杖の聖女と呼ばれる少女と、黒天魔の王子が紡ぐ革命譚。国、人間、魔族、神。定められた運命に抗い世界を変える、恋と革命の物語だ」




