2日目-2
国中の富と権力が集まる煌びやかで華々しい王城は、出来合いのお菓子でさえ頬が落ちそうなほど美味しい。聖女として王太子の近くにいたユイはそれをよく知っている。だからこそ分かる。目の前に並べられた種類豊富なお菓子も絶対に美味しい。
宝石のように艶々と輝く丸い生菓子に、表面をさくりと仕上げた軽い食感の焼き菓子。付け合わせに煮詰めた砂糖苺が添えられ、口直しには爽やかな風味の一品が用意されている。どこを取っても完璧だ。食べる前からすでに宮廷菓子職人にお礼を言いたい。
喉から手が出るほど魅力的なお菓子たち。だが、ユイは一向に手をつけていなかった。
「食べないのかい? 食事は問題なく食べていたと聞いているから、向こうの世界とそう食生活は変わらないと思ったんだが」
「まぁ、うん」
曖昧に頷いた。ユイが泣く泣く我慢している原因は対面に腰掛けるこの男だ。何が楽しいのかレヴィンはにこにこと笑みを履いている。
甘い蜜を生成して虫を誘き寄せ食する毒花みたいだ、とユイは思う。甘い香りのお菓子の先に巧妙に仕組まれた罠があるように思えてならない。
まさか毒でも入っているのだろうか。いや、たとえ入っていても状態回復魔法で解毒できる。何かあっても自力で切り抜けられる。
ならば不用意に恐れる必要はない。
ユイは自分の欲求に正直になることにした。大きく掬った丸い生菓子を口に放り込む。
優しい甘さが舌に触れた途端、ユイはぱあっと目を輝かせた。レヴィンがくすりと笑う。
「口に合ったかい? こっちも食べるといいよ。王都のチョコレート菓子品評会で優勝した宮廷菓子職人が作った品だ」
言われるままに摘まむ。見た目は何の変哲もない四角い粒だが、歯先を突き立てると中からとろりと甘酸っぱい果実の味わいが流れ出てきた。
「お、美味しい……!」
頬を紅潮させたユイはそれからも食指が動くままに目の前の宝の山に手を伸ばした。警戒心などすっかり意識の外である。
そこそこ量のある菓子を一人で食べ尽くす勢いのユイに反し、レヴィンはお茶だけを口に含んだ。
「ここにある種類は全て君の世界にもあるのかい」
「そうだね。でも食べたことない味もいくつかある」
「ふうん。どれだい?」
「これ。あとこれもかな」
指差したものに対して、レヴィンが味見した上で詳しい説明をしてくれる。興味深く聞いていたユイだったが、瞳の奥に意味深な光を潜ませて告げられた次の甘い一言ではっと我に返った。
「ユイの好きな物も知りたいな。こちらの世界になくても詳しく聞けば再現できるかもしれない」
「…………」
ユイは苦虫を噛み潰した。これでは甘い蜜に惹かれた虫より単純ではないか。
なんとか軌道修正しようと唸るように答える。
「……シュールストレミング」
「なんだいそれは」
およそ好物を伝えるのに相応しくない口調で告げられた名称に、レヴィンが困惑を滲ませた。
ユイはそれきり黙秘し、生菓子をぱくりと口に放り込んだ。




