9日目-3
ややあって回復したレヴィンが腹から手のひらを放した。打って変わって真面目な色を瞳に浮かべる。
「<エーデの裂け目>が天然の障害となっていて、マリスレイスとの交易路は西端と東端の二か所しかない。これは前に教えたよね」
「う、うん」
「国交を活発化させるには新たな交易路を作るのが一番手っ取り早い。互いの王都に近い道なら尚更ね。人も物も交流が爆発的に増える」
「……君はマリスレイスを嫌ってないの?」
「どうしてだい? ああ、ラルバ兄上? 兄弟でも考え方はそれぞれだよ。それに私は……」
そこでレヴィンは思わせぶりに口を閉ざした。隠されたその先が気になったが、所長代理に先を促されてあやふやになってしまった。
塔の外壁に沿って設けられた螺旋階段で上階に移動すると、登り切った先には鍵のかかった扉が待っていた。物資を運搬するためか間口が大きく取られており、隙間なく閉じられていると圧迫感がある。
所長代理が懐の鍵で扉を開いた。中は一階と同様の物置と化していた。違いと言えば、こちらの方が細々とした物が多いことか。ユイには用途の分からない物も多く、あまり興味をそそられない。
三階も階段の先には同様に扉があった。
「こちらも現在は物置ですね……。聖女様は見ていて楽しい物でもないでしょうし、ここは省略して先に進みたいと思います」
「……すみません。ちょっと待ってください」
「はい?」
所長代理が目を瞬かせた。ユイは感じた違和感に意識を集中させた。この光景のどこかに引っかかりを覚えたのだ。
ユイは改めて周囲を見渡した。真新しい床も面白みのない灰色の壁も念入りに確かめる。そして気付いた。
「魔力の鍵がかかってる」
「確かに、扉から魔力の気配を感じるね」
「下の鍵は物理鍵だったッスよね?」
「ここには役職持ちから建設作業員、下級兵まで幅広い立場の人間が働いていますので。うっかり機密資料が関係者外に漏れないよう一部の部屋を厳重に閉じているのです」
「それにしても厳重すぎる気がするけど……」
橋の建設一つに大袈裟だ。それとも機密を扱うとなればそれくらい気を付けなければならないものなのだろうか。
完成間近まで漕ぎつけた一大計画だ。今度こそ中止になどさせたくない。まかり間違って致命的な情報が流出し計画が崩壊しないよう慎重に慎重を重ねているのかもしれなかった。鍵の数だけ安心は買える。
「足を止めちゃってすみません。無理に入りたいわけでもないですし、次に行きましょう!」
「ご配慮感謝いたします。こちらにどうぞ。次は屋上、結界柱が設置されている場所です」
所長代理の案内にユイの胸が脈打つ。いよいよ本命だ。自然と階段を上る足が逸った。後にレヴィンとアイラックが続く。
所長代理の背中越しに屋上へと続く扉ばかり見ていたユイは、三階から離れる時彼が妙にほっと息を吐いたことに気付かなかった。
お読みくださりありがとうございます。
そしてすみません、更新頻度落ちます…。




