休日はシスコンの珈琲で安らぎを?
「……おい。何でお前がここに居るんだよ」
「お前とは何よ? 失礼ね。それに、お客様にはまずお帰り……じゃなくって! いらっしゃいませ、でしょ?」
例の生徒総会から数日経った土曜日。
美冬姉さんと店番を代わった俺が『喫茶ニシマツ』の店頭に立っていると、予想外の人間が訪れた。
「はぁぁ〜〜……イラッシャイマセ。おじょ、お客様」
「ちょっと? 何でそんな嫌そうなのよ?」
胡乱な目を俺に向けるこのお嬢様、もとい九奥に、俺も半眼で応じる。
「働いてるとこ同級生に見られるとか、嫌に決まってんだろ。と言うか、どうしてうちの場所知ってんだよ? たまたま通りかかるような所でも無いだろ?」
「そこはまあ、生徒会長権限で」
「職権乱用にも程があるわ」
やっぱこいつ生徒会長辞めさせた方が良かったんじゃね?
「い、良いでしょ別に! 個人情報を悪用するわけじゃ無いんだし!」
「店とは言え個人宅を特定して勝手に来たら十分悪用では? ……はぁぁ〜。まあ来たもんはしょうが無いし、空いてる席どこでも良いから、取りあえず座れよ」
「どんな案内の仕方よ……取りあえず、オススメのコーヒーを頂けるかしら? あ、あと焼き菓子も食べたいわ」
「そっちこそ初めてのくせに常連みたいな頼み方してんじゃねーよ……」
当然のようにカウンターに座って澄ました顔で注文する九奥に言いたいことは山ほどあったが、取りあえず俺は中に引っ込んで珈琲と焼き菓子の支度をする。
やってる事はストーカーまがいだが、店に来たからには一応、客だしな。
「ほれ。これで良いか?」
「どうも。……あれ? このクッキー、アーモンド入ってる?」
「ああ。その珈琲にはナッツがよく合うからな。クッキーは気分じゃなかったか?」
「……うんう。そんな事無い。ありがと」
「お、おう?」
嬉しそうに微笑んで素直に礼を口にした彼女に、俺は思わずたじろぐ。
だが、九奥はすぐに澄ました顔に戻ると、早口に話題を変えた。
「そ、それと! 生徒総会の事も、その、ありがと。手伝ってくれた事もそうだけど、おにっ、明希さんに! 相談してくれたんでしょ? お陰で、生徒会長を辞めずに済んだわ」
「あ、あああその事な!? お、俺は別にたまたま用事があったから? その、ついでに話しただけだよ。は、ははっ……」
そういやそんな感じで適当ぶっこいたんだっけ……。改めて我ながら、アドリブ力が無いにも程があるな。
「それでも、本当に助かったわ」
「い、いや!? 本当に俺は大した事して無いから!」
何だかんだ言って、最初から最後まで頑張ったのは九奥だ。俺はただ、その頑張りが少しでも報われて欲しくて、少しお節介を焼いただけで……いや冷静に考えたら、マジで不要だったまである。
九奥の頑張りは少し側から見ただけで分かる程だし、そもそも転入生でいきなり生徒会長に当選するくらい人気も実力もあるんだから、仮に北見達の策略で一時的に蹴落とされても、他の生徒達が黙って無かっただろう。そうでなくとも、自力でいくらでも巻き返せた筈だ。
あれ? そう考えると、ただ俺の黒歴史が量産されただけなんじゃ……。
「ありがとう。西松秋宏くん」
なんて、俺が今更過ぎる後悔に打ちひしがれている事など、きっと露ほども考えず、九奥は満開の華のような笑顔を見せる。
「っ!? お、おう」
……だから、その顔は反則だろ。お嬢様。
「アキく〜ん? そろそろ交代する時間だけど、って、あら? そちらのお客様は?」
「み、美冬姉さん!? あ、ああ〜っと、こいつは学校の同級生で……」
「こんにちは。九奥カンナです」
「あら、ご丁寧にどうも。アキくんの姉の美冬です。……あきくん? ちょっとこっちに来てくれる?」
「え? ああ、うん」
何だ? わざわざ店の裏まで呼んで。
「……あ、あの子、アキくんの、か、彼女?」
「は? ……はぁぁぁぁぁぁあっ!?」
「しーっ!? 静かに! そんな大声出したらっ!?」
「んな訳ねーだろっ! ありえねーわ! だ、大体、俺はか、彼女なんて、そんなっ!?」
「だ、だから大声はダメ!」
「え?」
何故か酷く慌てる美冬姉さんに首を傾げていると、奥からトコトコと二人分の足音が聞こえてくる。
「あき兄〜? 何おっきな声出してんの?」
「アキ兄さま! 夏鈴もお手伝いしに来ました!」
「あっ……手遅れだったかぁ〜」
「は、春香!? 夏鈴!?」
まずい!? これ以上ややこしい状況になったら!?
「西松くん? どうかしたの?」
「あっ、ちょ、馬鹿!? こっち来んな!」
「はぁっ!? 何よいきなり!? 人が心配して見に来てあげたのに!」
カウンターから立ち上がって店の奥まで覗きに来た九奥を、俺は慌てて追い返そうとしたが、時すでに遅し。
「……あき兄? その人、誰?」
「は、春香っ!? ど、どうした? なんか、目が据わってるぞ?」
「あれ。その子達、もしかして西松くんの妹さん?」
「あ、ああ。そうだけど……」
「へ、へぇ〜……ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど、四人で一緒に住んでるのよね?」
「は? そりゃ家族だからな」
何故か胡乱な眼差しを向けて来る九奥に、俺は堂々と頷いた。
「……一番下の子はともかくとして、この美人姉妹と、一つ屋根の下で?」
「おう。自慢の姉と妹達だ」
「そ、そう……へぇ〜……」
「何だよさっきから?」
「ちょっと、あき兄!? その人と二人でコソコソ何話してるの!?」
「い、いや別にコソコソなんてしてねーだろ? 本当にどうしたお前?」
「べ、別に!? 何でも無い、けどっ……(知らない女と仲良くとか、なんか嫌だし……)」
「え? 何て?」
「う、うっさい!? 馬鹿兄!」
「何でキレてんの!?」
「アキくん……そういうとこだけはお父さんに似て、本当にダメねぇ〜」
「美冬姉さんまで何なんだよ!?」
予想以上に意味分からん上にややこしい状況になったなぁ!? 畜生めっ!
「お姉さん、アキ兄さまの学校の人です?」
「へ? あ、うん。そう。えっと、九奥カンナです」
「カリンはアキ兄様の妹のカリンです! ……カンナお姉さん。内緒のお話があるので、ちょっとお耳を借りても良いです?」
「内緒の? う、うん。えっと、何かな?」
と、俺が頭を抱えている横で、何やら夏鈴と九奥が話していたようだが、俺はそれどころじゃなくて、よく聞いていなかった。
「……あげないですよ?」
「え?」
「秋宏くんは夏鈴達のモノなので、あげません。絶対に」
「………は? え? 今、何て……?」
ん? 夏鈴の奴、九奥とやたら顔近づけてるけど、何の話してるんだ?
「夏鈴? 九奥がどうかしたのか?」
「青いお目々がとっても綺麗だったので、近くで見せてもらってました!」
「ははっ、そっか。良かったな〜。おい九奥。うちの天使を誘惑するな。殺すぞ?」
「へっ!? い、いや、そんなつもりは……って殺す!?」
「ああ、悪い。口が滑った」
「滑ったって事は本音ってこと!? っ、このシスコン!」
「違う! 家族愛だ!」
まったく。人聞きの悪い。
姉も妹もお嬢様も、本当に、世話が焼ける奴ばかりだな。
今話までお読み頂き、ありがとうございました。
このお話は以前書いたものを再編集して投稿しておりまして、ストックはここまでとなりますので、一旦一区切りです。
編集にあたり自分で読み返すと、「こう言うのが好きだったんだよなぁ〜」と、改めて初心に帰れた気持ちになったので、投稿ペースは落ちますが、続きが書け次第上げていこうと思います。
息抜きに他の書き溜めしている作品も再編して投稿したいと思っておりますので、よろしければそちらもご覧ください。
今後も末長くお付き合いできると幸いです。




