残業……?
「終わったぁー!」
「……だな。ふぅ〜」
「二人とも、ありがとう。その……本当に、助かったわ」
俺と花邑が手伝い初めてから約二時間後。何とか無事、明日の生徒総会で必要な資料は作り終えた。
「気にせんで! 困った時はお互い様や!」
「ま、そういう事だな」
「……うん。でも、ありがとう」
すっかっり素直になっちゃって。まぁでも、こっちが素なんだろうな。
「あのまま私一人でやってたら、多分、ミスも沢山してたと思う。改めて見直したら、昨日までに作ってた資料と違うところ、結構あったし」
「ん? そうなのか?」
「うん。まあそれも、疲れで記憶違いしてるだけかもしれないけどね。はぁ〜あ……私、ほんとダメダメだ。体調管理も出来てないようじゃ、会長失格よ」
「そんな事無いって! 一緒にやってて分かったけど、やっぱ九奥さん凄いわ。判断早いし、テキパキしてるし! ウチ、何回も確認して直しまくりながらやったから、寧ろ足引っ張ってもうたかも」
「うんう。それこそ、そんな事無いわ。本当に凄く助かった」
「えへへ。そっか」
「うん。ただ……西松くんが私より仕事が早かったのは、正直ちょっと悔しかったわ」
拗ねたように目を細める九奥に、俺はくたびれた苦笑を向ける。
「俺は慣れてるんだよ。家が喫茶店だから、原価計算とか売上の管理とか、その手の雑用は一番パソコン使える俺がやることが多くて」
「え? 西松くんのお家“も”、喫茶店なの?」
「あっ!? い、いやえっとぉ!?」
しまったぁ!? 九奥には『明希』の時にも家が喫茶店だってこと言ってたんだ!?
「あ、ああ! そ、そう言えば、九奥の家はどうなんだ!? お母さんみたいになりたくて、とかさっき言ってたけど、何か特別な仕事でもしてるのか!?」
「え? ああ、特別な仕事と言うより、会社を幾つかも経営してるの。勿論、それぞれ任せてる人は居るんだけど、その人達を纏めたり、アドバイスしたりしながら色んなビジネスを成功させてる。それに、お父様が亡くなった後も、女手一つで私を育ててくれたから、誰よりも尊敬してるわ」
「へぇ〜!? 凄っ! じゃあ九奥さんはサラブレットやな!」
「そんな……私なんて、まだまだよ」
ふぅ〜! 何とか誤魔化せた……にしても花邑? サラブレットはちょっと古い、ってか比喩としては死語だと思うんだが。
キーンコーンカーンコーン。
と、ある意味キリの良い所で、最終下校時刻を知らせるチャイムが鳴った。
「あ!? ごめんなさい! 結局こんな時間になっちゃって……」
「良えよぉ全然。友達と遊んどる時とか、普通にもっと遅い時間なるし」
「ま、この時間まで学校に居ることなんて無いしな。逆に新鮮でちょっと面白かったよ」
「あ〜……アッキーはそうやんな。うちが話しかけるまでクラスに友達もおらんかったし」
「う、うるさいっ! その憐れみの目をやめろ!」
「あははっ」
俺と花邑のやり取りが可笑しかったのか、九奥は声を上げて笑った。……今の顔は、レイブンヴィルで見せてくれた表情に近い気がするな。
「でも、私もこの時間まで誰かと学校で過ごしたのなんて初めて。居残りも、悪くないものね」
「これは居残りって言うより残業だけどな……。ま、それこそ残業代が出るわけでも無いし、さっさと帰ろう。生徒会長が先生に怒られちゃ、それこそ失格だろ?」
「ふふっ、そうね。行きましょう」
九奥は微笑むと、手際良く後片付けを始める。
俺と花邑も手伝って手短に終わらせ、三人で生徒会室を出た。
「じゃあ、私は鍵を職員室に返して来るから」
「ああ、それなら俺が行くから、二人は先に帰っててくれ」
「「え?」」
キョトンと目を丸くする二人に、俺は努めて自然に肩を竦めて見せる。
「担任の先生に用があったの忘れててな。多分まだ職員室に居ると思うから、話しに行くついでに返して来るよ」
「別に、ちょっとくらいなら待ってんで?」
「ああ〜いや、すぐ終わる話でも無いし、多分時間掛かるから良いよ」
俺は遠慮がちに手を振って、二人に先に帰るよう促す。
「そう? ……なら、お願いしようかしら」
「ありがとね。アッキー!」
「おう。二人とも気をつけて帰れよ」
俺は九奥から鍵を受け取り、二人を見送る。
……そして、華奢な二つの背中が廊下の曲がり角に消えたことを確認すると、スマホを取り出した。
「お疲れ様です。桐生さんですか? すみません。今日なんですが、やっぱり営業には間に合いそうに無くて。ええ。ありがとうございます。それと、一つお願いが……」
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