ちょい悪オヤジに憧れて?(いや憧れては無い)
「こっちは一人で必死に頑張ってるのに、何で軽々しくそんなこと言うの!?」
「い、いや、九奥さん? ちょっと落ち着いて!」
「私だって別に好きでこんな大変な思いしてる訳じゃ無いわよ! でも、じゃあ他にどうしたらあの子達が認めてくれるって言うの!?」
九奥の声音には、怒りだけでなく悲愴な響きが含まれていた。
「仕方無いじゃない……だって、知らなかったのよ! 私は、生徒会長みたいな責任ある仕事をすれば、少しでもママに近づけるかもって思っただけ! けど、あの子が、北見さんが去年から生徒会で頑張ってて、他の役員の子達も彼女と仲が良い子ばかりなんて、そんなの先生も誰も教えてくれなかったんだもの!」
「「………」」
興奮した九奥の言葉でも、どうやら生徒会の状況は俺たちの予想通り芳しくないもので、それは『北見』とか言う女子に逆恨みされているせい、ということは分かった。
にしても、随分と溜め込んでたんだな。
「あー……その、北見って子とは、話し合ったのか?」
「話し合い? はっ! そんなの無理に決まってるでしょ? だって、向こうは私よりずっと前から生徒会長になるつもりで、他の役員の子達も彼女が生徒会長になると思ってたから立候補したのよ? 私の話なんかに聞く耳を持ってくれるはず無いわ」
「せやったら、先生に相談してみたら? 会長以外の役員だけ、もう一回公募してもらうとか出来るんちゃう?」
「っっ……それなら、私より先に本人達がしてるわ。私が当選してすぐ、役員を辞任したいと言いに行ったそうよ。まあ、取り合ってもらえなかったみたいだけど」
そりゃそうだろ……。当人達からしてみれば大問題だったのかもしれないが、先生達、大人達からすれば、そんなのは子供のわがままだ。
そもそも、公平に行われた選挙の結果に文句を言う事自体が筋違いだし、こう言ってはなんだが、その北見という子に人望や会長にふさわしいと思わせる魅力が無かったせいとも言える。
わざわざ役員の再選挙をするような事態だとは、先生でなくとも普通は思わないだろう。
だが、それにしても、だ。
「その時点で、先生達から何かしらのフォローは無かったのか? 流石に会長以外の役員全員から直談判されて、適当にあしらって終わり、なんてことは無かっただろ?」
「まさか。きちんとフォローしてくれたわよ。特別に、“会長選挙に落ちた北見さんを副会長にする”っていう、素晴らしいアイデアでね」
教師がトドメ刺してんじゃねぇかぁ!!! ……ま、まあ、考え自体は分からなくもない。
役員達に慕われていて生徒会経験もある北見が、成績優秀で人気もある九奥の補佐につけば鬼に金棒。問題も解決して一石二鳥、とか大方そんなところだろう。
だが往々にして、子供は大人が思っているよりも複雑な心理と単純な動機で行動するものだ。
「先生方の思惑通り、確かに生徒会は一致団結したわ。“私以外”、ね」
「だろうなぁ」
その結果がボイコット&嫌がらせ、というわけか。
「そんなんっ、おかしいやん! だって、九奥さん何も悪くないのに、悪いのは勝手にサボっとる他の役員の子らやろ!?」
「でも彼等からすれば、先に出しゃばって邪魔をしたのは私の方なのよ?」
「それはっ……そう、かもやけど、でも! それとこれとは別やん!」
「彼らにとっては同じなのよ。ずっと前から仲の良い友達同士で支えていこうって決めてた北見さんを蹴落として、いきなり知らない人間が会長になったんだし、無理も無いわ」
「……ずいぶん、物分りが良いんだな?」
向こうの言い分だけ汲み取れば多少は同情の余地があるかもしれないが、九奥からすれば、正当に選挙で勝って会長になったのに、自分には関係の無いことで勝手に悪者扱いされた上、嫌がらせまでされている。
これだけ理不尽な仕打ちを受けているにしては、少し北見達に対して優し過ぎはしないだろうか?
それこそ、学校側に北見達の暴挙を訴え出ていてもおかしくは無いのに。
「ふっ……だって、泣いてたんだもの、あの子達。結果発表の時、私が当選したって分かった瞬間、北見さんを含め、役員の子達全員が号泣してたわ。そんなの見たら、責める気になんてなれないわよ」
……なるほどな。
乾いた笑いを漏らす九奥の、その影の射した表情を見て、「物分りが良い」なんて軽々しく口走ったことを後悔する。
「……悪い。軽率だった」
「別に謝らなくて良いわ。私が何も言わないのは彼らの為じゃなく、意地になってるだけだもの。実際、生徒会の仕事自体は難しくも無いし。まあ、見ての通り今は追われているけど、普通にやれば量も大したこと無いの。ただ……明日の生徒総会もそうだけど、行事の時は物理的に一人じゃ運営できないから。悔しいけど先生にお願いして、他の役員の子達にも仕事を割り振って貰わないと」
「もし、それでも役員の子らが動かんかったら?」
「その時は……そうね。もう諦めるわ。他の生徒や先生方に、これ以上迷惑をかける訳にもいかないし」
「諦めるって、お前、それ……」
「生徒会長を辞任する。母に頼んで、一緒にお願いして貰えば多分問題無く辞められると思うし。勉強と両立できないとか……最悪、来年また留学を取り付けて貰えば、理由はどうとでもなるし」
「なっ!? そんなんアカンに決まってっ」
「ダメだな」
「「え?」」
思わず否定した俺の顔を、九奥と花邑は目を丸くしてマジマジと見つめる。
「な、何だよ?」
「い、いやぁ、アッキーがそんなハッキリ言うん、意外やなって」
「あのなぁ、俺の事を何だと思ってるんだ?」
「西松くん? 何がダメだって言うのかしら?」
九奥は先程までの乾いた苦笑をやめて、俺に威嚇する猫のような鋭い視線を向ける。
だが、散々弱音を吐かれた後でそんな顔をされても、怖くも何ともない。
「逆に聞くけど、九奥は本当にそれで良いと思ってるのか? 自分が辞めれば、全て丸く収まると?」
「そんなの当然でしょ? 実際、邪魔者は私なんだし」
「仮にそうだとしても、そりゃ“生徒会役員内でだけ”の話だろ?」
「っ!? ……どういう意味?」
訝しむように眉を顰めた九奥に、俺はただ淡々と事実を述べる。
「仮に、お前が今すぐ生徒会長を辞めたとしよう。それで、“その後”はどうなると思う?」
「そんなの、北見さんが生徒会長になって、普通に生徒会が機能し始めるだけよ。人数的にも一人増やした分が減るだけだし、問題は無いでしょう?」
「なるほど。まあその通りだな。で?」
「で? って……他に何があるって言うのよ?」
何だ。意外と察しが悪いな。……いや、意外でも無いか。全然俺の正体に気づいてないし。
仕方が無いので、俺は省略した言葉を改めて口にした。
「で、俺達生徒は?」
「は?」
「だから、お前が生徒会長を辞めるって事はだな、俺達生徒は、『個人のワガママで仕事をボイコットするような連中』に仕切られながら、残りの高校生活を過ごすことになるんだが? それが、“迷惑をかけて無い”事になると?」
「っ!」
「た、確かにそうやなぁ……」
ハッとして目を見開く九奥の横で、花邑が嫌そうに顔を歪める。
今のは敢えて少し強い言葉で誇張したが、俯いた九奥の顔を上げるには、この方が良いと思ったんだ。
さて、もうひと押し。
「百歩譲って、連中が改心してお前の指示の元、普通に仕事するって言うならともかくだ。散々ワガママ言って無理矢理副会長枠増やして貰ったのに、仕事するどころか嫌がらせする様な連中が仕切る文化祭だの体育祭だのなんて、どう考えてもろくな物にならないだろ?」
「それはっ!? でも……」
「取りあえず俺が言いたいのは、“九奥が辞めても現状より何かが良くなることなんて無い”。だから、諦めるって選択はダメだ」
「じゃあ、どうすれば良いのよ!?」
「そんな事、考えなくても分かるじゃん」
「え!? アッキー何か良いアイデアあんの!?」
「アイデアも何も、答えなんて一つだ。と言うか、殆どさっき花邑が言ってたぞ?」
「へ? ウチ?」
キョトンとする花邑と九奥に、俺は肩を竦める。
「生徒会の仕事は難しくも無いし量も大した事無いんだよな? なら、現状の問題は今日中に資料作りを終わらせる為の人手が足りないだけ。そうだろ?」
「そう言われれば、そうかもしれないけど……」
「ならやっぱり、花邑が言ったみたいに“補充”すれば良い。少なくとも今、目の前に二人は居るし」
「え……?」
「ちょっと失礼」
「あ、ちょっ!?」
俺は九奥を押しのけ、パソコンの画面を覗き込む。
「……ああ、なるほど。これなら入力するだけで良いし、どうせ明日には全校生徒に発表するデータなんだから、部外者の俺や花邑が手伝っても問題無いな」
「でも、そんな事っ!?」
躊躇う九奥に、俺は蓮華さんを真似たつもりで、似合わないニヒルな笑みを浮かべて見せた。
「何でダメなんだ? 仕事をさぼってる人間が放置されてるんだから、手伝う人間が文句を言われる筋合いは無い。そうだろ?」
……ニヒル、なつもりだよ?
今話もお読み頂き、ありがとうございました。




