女心と秋の空?
「あ、あの、花邑さん? 放課後になったんですけどぉ……」
結局その後も、授業中は必死でノートを取るフリ、休み時間はトイレに行ったり寝てるフリでかなり無理矢理に俺が尋問を回避した結果、花邑は盛大にヘソを曲げていた。
「そうやね〜、“西松くん”」
「お、おぅ、地味にヘコむなぁ……」
呼び方一つでここまで人との距離を感じるとは。
しかも普段は馴れ馴れし、親しげに接してくれている花邑が相手だから、余計に辛いのかもしれない。
「……ふーん? ヘコむんや?」
「え?」
「せ、せやから! うちに苗字で呼ばれたらヘコむんや、って言ったの!」
先ほどまで取りつく島も無いといった風体だった花邑の頬に、淡く朱が射す。
え、なに? もしかして俺、更に怒らすようなこと言った?
「え、ええっと?」
「ふんっ。もうええわ、なんかアホらしなってきたし」
「えぇー………」
分からな過ぎる。女心。
「何よ? 何か文句あんの?」
「いえ、何も!」
無いと言えば嘘になるが、これ以上面倒なことになるのだけはゴメンだ。
「あっそ、ほな行くで」
「はいはい」
「返事は一回!」
「はいっ!」
何だろう、この理不尽だけど俺が悪い気がする感じ。男は辛いよ……。
++++++
「お邪魔しまーす」
「もうなんか、呆れる通り越してすごいな、お前。悪い意味でだけど」
花邑は生徒会室に着くなり無遠慮にドアを引き、ずかずかと足を踏み入れる。
「ああ、あなた達……」
「だ、大丈夫か?」
思わず口からそんな言葉が出てしまうほど、こちらに向けられた九奥の顔は疲れ切っていた。
いや、ここまで来るともう憔悴していると言っても良いかもしれない。騒がしく入ってきた俺たちのことを、昨日のように咎める余裕も無いようだ。……思ったより深刻かもな。
「ごめんなさい。同好会の件なら何とかなりそうだから、もう少し待ってもらえないかしら?」
「う、うん。それは良いんやけど、何かあったん? 昨日より大分しんどそうに見えるで?」
「っ……ええ、ちょっとね。明日の生徒総会で必要なデータが、“何故か全部消えてて”、今新しく入力し直してる所なの」
「おい、それって!?」
まさか、とは思っていたが、こんな状況でも他の役員が生徒会室に顔を出していない所を見ると、どうやら悪い予想が当たったらしい。
それにしても、流石にタチが悪すぎじゃないか?
「な、何でもないのっ! 多分その、私が間違えて消してしまっただけだと思う、から」
「いや、いくら何でもそれは……」
「なあ、見た感じそれ予算表か何かやろ? 普通はそういうの、会計の人がやるんとちゃうん?」
「っ……」
「九奥さん。何か困ってることあるんやったら、ウチらに話してみーひん? それだけでも少しは楽になるかもやしさ!」
それは、ごく最近。違う『誰か』の声で、言葉で、俺にも向けられたセリフだった。
そして、その『誰か』……九奥は、あの時の俺と同じように、いや、それ以上に苛立った様子で花邑を睨みつけている。
「……たちに、何がっ」
「え?」
その震える唇からはか細い、けれど確かに熱を伴った言葉が漏れ出てきた。
「あなた達に何が分かるのよっ!?」
「「っ!?」」
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