同級生と初登校?
(体、軽いなぁ……)
美冬姉さんによって強制的に眠らされたお陰で、いつもより早く目が覚めた俺は、一本早い電車に揺られて登校していた。
寝る前の勉強をサボった罪悪感はあれど、バイトの翌日とは思えないほど快調だ。いつまで経っても、やはり姉には敵わない。
「おはよ! アッキー!」
「おう、花邑か。おはよう。同じ電車なんて珍しいな」
そして、普段より同じ制服を着た人間が多い電車の中には、見知った顔も居たようだ。
「何読んでんのかと思ったら教科書やん。もしかして、いっつも電車の中で勉強してんの?
「ん? ああいや、大体行きの電車は爆睡。まあ、テスト前は暗記くらいしてるけど」
花邑に指摘され、俺は片手で開いていた教科書を軽く振って見せる。
バイトと勉強で疲れ切った普段の朝は、心地良く揺れる電車の中で勉強なんて不可能だが、今日は熟睡したお陰で目も頭も冴えているせいか、逆に何かしていないと落ち着かなかった。
「ふーん? じゃあ、今は何で?」
「あー……色々あってな。昨日はろくに予習もせずに寝ちゃったから。まあ、電車の中でくらい悪足掻きしようと思って」
「真面目やなぁ〜……て、アッキー? もしかして、毎日予習してんの?」
「ああ。別に、うちの学校では珍しくもないだろ? 進学校なんだし」
「っっ!? ………アッキー、バイトってどれ位のペースで入ってるんやっけ?」
「特に用が無ければ平日は毎日」
「一応聞くけど、早上がりとかは?」
「そりゃ高校生だからな。締め作業してる先輩には申し訳ないけど、“条例通り夜の十時”には上がらせて貰ってる」
「お、おぉ……………」
「何だよ……。てか、大丈夫か?」
何故か花邑は顔を青ざめさせて絶句していた。
「………な、なんか、ごめんなさい」
「は?」
「いや、なんでも無い。ちょっと高校生の正しいあり方について見失ってるだけやから」
「お、おう? 朝から随分難しいこと考えてるんだな……」
一体どうして花邑がそんな思考に陥ったのか皆目検討もつかないが、取り敢えず、そっとしておこう。
「あ。そういえばアッキー、今日も生徒会室行こうと思うねんけど、付き合ってくれる?」
と、思ったのも束の間、花邑はコロリと表情と話題を変えた。俺の配慮を返せ。
「はぁ……まあ、俺もそのつもりだったから良いけど」
「あ、そうなんや。てっきりアッキーは乗り気じゃないんかと思ってた」
「乗り気かどうかと言われれば全く乗り気じゃない。面倒だし、そもそも他人の問題に首突っ込んでる暇なんて無いしな。けど……」
「けど?」
「気になってバイトや勉強に支障が出るのは本末転倒だし、何よりそのせいで家族に心配かけるのは、もっと問題だからな。仕方無くだよ」
昨日みたいなのは、ありがたいけどもう勘弁だしな。主に俺の尊厳的に。
「ふ〜ん?」
「な、何だよ?」
「べ〜つにぃ? バイトや勉強に支障が出るくらい“九奥さんの事が気になってる”んや〜、と思って」
「はぁ? 何言ってんだよ。そもそも先に言い出したのは」
お前の方だろ……と言いかけた所で、学校の最寄駅に到着し、電車のドアが開くなり花邑はスタスタと出て行ってしまった。
……ぶっちゃけ、このまま放っておこうかとも思ったが、ここで放置したら後がで更に面倒な事になりそうな予感がしたので、仕方なく花邑の後を追う。
まあ、どうせ教室に着いたら隣の席だから逃げ場なんて無いんだが。主に俺の。
「お、おい! ちょっと待てって! なに怒ってるんだよ?」
「怒ってないです〜」
「じゃあ何でいきなりそんな面倒くさい感じに」
「あ゛?」
「ひっ!? か、頑な態度になられたのですか?」
「ふんっ……何でやと思う?」
「分からないから聞いてんだけど……」
め、面倒くせぇ!
「はぁぁ〜……だって、アッキー学校の事なんか何も興味無〜いみたいな感じやったのに、九奥さんの事になると急に態度変わるんやもん」
「は?」
何を訳の分からんことを言い出しとるんだこいつは?
「うっわぁ、しかも無自覚やし!」
「おいちょっと待て。そもそも九奥が生徒会で困ってるんじゃないかって言い出したのは花邑だろ?」
「けど、同好会の申請で生徒会室に行くって言った時からアッキー過剰反応してたし。それは九奥さんが居るからやろ?」
「だ、だから、それはあいつがバイト先での俺を知ってるから焦っただけで!」
「同じクラスで隣の席のうちの名前は最近まで覚えてなかった癖に、九奥さんの名前はすぐに覚えとるし!」
「うっ!? そ、それは仕事だからで……」
キーンコーンカーンコーン。
「あっ! よ、予鈴だぞ花邑! ほら急ごう!」
「あっ、ちょ、アッキー!? 待たんかーい!」
取りあえず。何か怒らせたみたいなので逃げることにした。いやだから、逃げ場無いんだって……。
今話もお読み頂き、ありがとうございました。




