既視感と違和感。
「そう言えば、結局あなた達、何の用で生徒会室に来たの?」
良いタイミングで九奥が問いかけてくれたお陰で、花邑の意識が本題に切り替わる。
「うちら、新しく同好会立ち上げようと思って。それで取り敢えず申請書類出しに来たんよ」
「へぇ? 花邑さんはともかく、西松くんは何だか意外ね。まあ良いわ。じゃあ、詳しい話を聞くから、取り敢えず生徒会室に入って」
「はーい。お邪魔しまーす」
「じゃ、俺はこの辺で」
「アッキー?」
「ですよねー」
だから花邑、目が笑ってないんだって目が。
「……仲が良いのね」
「「え?」」
「っ、何でも無いわ! 取り敢えず、その辺りの空いてる椅子に座って」
「ああ。って……」
「うわぁ」
「す、少し散らかってるけど気にしないで!」
確かに、生徒会室は散らかっていた。だが、少し、ではなかった。
惨状ならぬ、“散場”とでも言えば良いのか。
そこかしこに書類が積み上げられているばかりか、電球や何に使うのか分からない道具などが無秩序に置かれ、生徒会室というよりは使われていない倉庫のような有様だ。
「いや、これを気にするなって言われても……」
「う、うるさい! ほら、同好会の申請に来たんでしょ? 早く申請書を見せてちょうだい」
「あ、うん。はい」
「………」
九奥の表情は申請書を読み進めるにつれて、
一・真剣。
二・不可思議。
三・険しく。
……と、大変分かり易く変化していった。
そして、コホンと一つ咳払いをすると、努めてそうしたのであろうと分かる神妙な顔で、ハッキリと告げた。
「却下」
ですよねー。
「え? 何で?」
「いや、何でもなにも。ここに書いてあることを要約すると、アニメや漫画、ライトノベル? を、鑑賞する事が活動内容ってことよね?」
「うん。そうやで?」
花邑は至極当然といった顔で頷いているが、俺は冷や汗が止まらなかった。
いや、もうちょっとこう、何か書きようがあったでしょう?
「そうやで、って……そんなの、認められるわけ無いでしょう? 第一、そういうものは学校じゃなくて家で楽しみなさいよ」
おっしゃる通りだった。ド正論すぎて反論の余地が微塵も無い。寧ろ激しく同意したい。
だけど九奥、そこはもう、俺が通った道なんだ。
「“そんなの”、って、どういう意味?」
「え?」
ほーら来た。
「学校でアニメや漫画を楽しむことの何があかんの? 友達と好きなものを共有することの何があかんていうの?」
「い、いや、そういう問題じゃ無くてね?」
「文芸や音楽は認められて、二次元だけアカンなんておかしいやん! アニメや漫画の鑑賞と他の文化部がやってることの何が違うって言うん!?」
「あ、あのね花邑さん? 少し落ち着いて?」
出たー、マシンガントーク。
花邑のあまりの剣幕に九奥は圧倒されていた。気持ちは分かる。とても良く分かる。
だが、流石にこのまま放っておく訳にもいかないし、それ以上にこのまま話が長引けばバイトの時間に間に合わない。
まあ一応俺も当事者だし、少しは口を挟むか。大変気は進まないが。
「花邑、その辺にしとけよ。九奥だって困ってるし」
「アッキー……でも!」
「九奥も頭ごなしに否定せずに、少し考えてみてくれないか? 明日、また改めて来るから」
「っ……はぁ、分かったわ。一応、先生にも相談してみる」
「忙しそうなのに悪いな。それじゃ、俺たちはこれで」
「あっ……」
と、俺が早々に立ち去ろうと席を立ったところで、袖を何かに引っ張られるような感触を覚えた。
「ん? っっ!?」
思わず振り返ると、俯いた九奥が、俺の袖を掴んでいた。お、おおぅ……何だかメチャクチャ既視感のある状況なんだが。
とは言え、今の俺は、あの時の俺とは……レイブンヴィルの『明希』とは別人だ。
少なくとも、彼女にとっては。
「ど、どうした?」
「っ……いえ。ごめんなさい。何でも無いわ」
「そ、そっか。……じゃあな」
「じゃあね。九奥さん」
俺達が挨拶を済ませると、九奥は顔を上げず、声だけで返事をした。
「ええ。さよなら」
……その声が震えているように聞こえたのは、多分、俺の気のせいだ。
今話もお読み頂き、ありがとうございました。




