ミラクル&テクニカル?
「っはぁ、はぁ、はぁ……」
「アッキー? 何でそんな疲れてんの? 別に走ったわけでもないのに」
「ほ、ほっといてくれ」
だ、誰のせいだと思ってるだこのお喋りアホ娘がぁありがとうございます!
「ほら、もう生徒会室に着いたんやし、ビシッとしいや!」
「いや、寧ろ鬱ってきたんだけど」
無駄に柔らかい感触とか仄かな良い匂いのせいで忘れそうになっていたが、これから九奥にまた会わなきゃいけないんだよなぁ。
「ていうか、結局なんで俺も連れてきたんだよ? 同好会の申請通すだけなら、別に俺いらんだろ」
「え? だって、うちも一緒の方が“事情”、説明しやすいやろ?」
「は? 事情って?」
おいおい、コイツまさか……。
「だから、アッキーのバイト。認めてもらうんやん」
「いっ、いやいやいや! 何言ってんだよ!?」
「だってアッキーの場合家庭の事情で仕方ないんやから、話せば分かって貰えるって!」
「いや、それはそうなんだけど……。多分、無理だ。生徒手帳は穴が空くほど読み返したけど、バイトを認めるような文言は一切書いてなかったし」
「先生には聞いてみたん?」
「聞けるかよ。それがきっかけで疑われでもしたら本末転倒だ」
「え〜? それは流石に考えすぎやってぇ」
「無責任なこと言うな! それでもしバレたらっ」
と、俺が思わず大声で反論しかけたところで、いきなり生徒会室のドアが開かれた。
「ちょっと、生徒会室の前で何を騒いでいるの? って、あなた……」
「「あ」」
そこに立っていたのは予想通り、というか嫌な予感の通り、九奥カンナだった。
彼女は俺の顔を見るなり、表情を曇らせる。
「西松秋宏……くん」
「ど、どうも」
き、気まずぅい! そしてそれ以上にこの状況がまずい!
俺はまだ誤魔化す言い訳も口封じの手段も考え付いてないし、何より、ここは生徒会室だ。
万が一、他の役員達に聞かれでもしたら、もう逃げ場が無くなってしまう!?
「あなたに、言わなきゃいけないことがあるわ」
き、来たっ!? どうする? 取り敢えず口を塞いで黙らせるか!? それとも大声を出して誤魔化す? 全力疾走で逃亡? あーっ、くそっ!? どうやったてもう無理なんじゃ!?
「ごめんなさい」
「………え?」
ど、どうして九奥が俺に謝るんだ? 寧ろ責められるべきは俺の方だ。
正体を隠して、騙して、店の客だったとはいえ、金だって使わせてる。なのに、何で?
「今朝の事とか、その……」
「け、今朝? んん?」
んん〜? あれれぇ〜? これは、も、もしや……。
「ほ、ほら! 私がつまずいた時、あなたに寄りかかっちゃって、その、抱きとめてもらったのに、ろくにお礼も言えてなかったから。だから、ごめんなさい。あと、ありがとう」
………はい? いや、マジで? そんな事ある? い、いやいや、そんな都合の良い展開、それこそアニメや漫画じゃあるまいし、ねぇ?
「あ、ああ。別に、あれは事故みたいなもんだろ? そ、それよりさ、あの時、何か気づいたこととかって……」
あ、俺の馬鹿!? 自分から墓穴掘ってどうすんだ!?
「へ? 気づいたこと? ……ごめんなさい。実は、あのとき転んだ拍子にコンタクトを落としてしまって」
まさかのミラクルキターーーーーッ!
「て、そういえば!? あなたもメガネ落としてたわよね!? まさか、そのせいで割れたとか!?」
「い、いやいやいやっ! 何でも無いんだ! 気にしないでくれ! 寧ろその方が助かる!」
「そ、そう?」
ま、間違い無い。
九奥は俺が、『西松秋宏』が『明希』と同一人物だということに、気づいていない!
あっぶねぇ! でも助かったぁ! 何だよ神様やっぱ俺のこと大好きじゃん!
「おーい、お二人さーん? うちも居んねんけどぉ〜?」
「あ、ああ、悪い」
「あなたは確か花邑さん、よね?」
「え? うちの事知ってんの?」
「? 生徒会長だもの。当然でしょう?」
「「………????」」
マジかこいつ? まさか、全校生徒の顔と名前を覚えてんの?
……ん? んん〜? ちょっと待て。
「おい。じゃあ何で俺の事は知らなかったんだよ」
そりゃ顔を覚えられないよう振る舞ってますけどね? でも全校生徒覚えてるのに俺だけは覚えないとか逆に難しくないですかね? もしかして俺も九奥の顔知らなかったから怒ってるの? それにしてもちょっと仕返しがテクニカル過ぎん?
「知らなかったんじゃなくて、分からなかったのよ。あなた、生徒名簿に載せてる写真ではメガネも掛けてないし、髪だって今より全然短い時に撮影してたみたいだから、まるで別人だし。何より、写真に写っていたあなたはもっと溌剌としていたわ」
「ふぐっ!? そ、それは何と言うか、止むに止まれぬ事情というか、色々とこっちの方が都合がよろしくてですね!?」
てか、そっちの写真も見たのに俺が『明希』だって気づかなかったのかよ……。
お兄様フィルター、どんだけ分厚いんだ。
「出た。テンパりアッキー」
「おい変なあだ名つけるな。流行ったらどうしてくれるんだ」
「大丈夫やって、アッキーのこと知ってる人なんか殆どおらんし、流行らん流行らん。あはははっ」
「全っ然笑えねぇ」
と、俺と花邑がコントというには余りにも(俺が)笑えない、どうしようもない掛け合いをしている横で。
「っ………」
九奥は何故か表情を曇らせ、俯いていた。
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