謎の美少女はおせっかい?
朝食を食べ終え、いつも通りほんわか笑顔の美冬姉さんに送り出された俺と妹達は、それぞれの学校へと登校した。
この一年ちょっとですっかり通い慣れた『雛祭高校』の門前に立った俺は、猫背気味の背中を更に丸め、俯きがちに下駄箱へと向かう。
「ちょっと、そこのあなた?」
横から非難めいた声を掛けられたような気がしたが、制服を着崩しているわけでも無いし、恐らく声を掛けられたのは俺の近くを歩いていた別の誰かだろう。
「あ!? ちょっと! 無視しないでもらえるかしら?」
「……は、い?」
突然後ろから腕を掴まれ、思わず不機嫌な声が出そうになる。
だが、口から漏れ出たのは中途半端なため息のようなものだけだった。
というか、息を飲んだ。
そこに居たのは、『絶世』とか『傾国』とか、とにかく大袈裟な表現が似合う“美少女”だったからだ。
恐らくハーフだろうと思われる、はっきりとした目鼻立ち。中でも空色の大きな瞳は、吸い込まれそうなほどに澄んでいる。
肌は雪のように白く透き通っており、風に靡くブロンドヘアは、柔らかな光沢を帯びていた。
俺の腕を掴んでいる指は、触れれば折れそうなほどにか細い。
身長はそこまで高くないようだが、長く伸びた手足のお陰か、横を歩く同じくらいの背の女子よりもすらりとして見える。
「あなた、何か困っている事があるんじゃないの?」
「っ!?」
ドキりとした。……だが、冷静に考えて、この少女に俺が現在進行形で直面している問題を知り得るわけがない。そもそも、知り得る術が無い。
「と、取り敢えず、離してもらえ、ますか?」
いきなりタメ口で話しかけて来るからには恐らく先輩だろうと思い、一応敬語で対応。
「いいえ、離さないわ。あなたがきちんと事情を話してくれるまでね」
「………」
え、えぇ〜? なに、この人怖い……。
と、目の前のハーフ美少女の謎な言動と強引さにドン引きして思わず言葉を失ったが、このまま膠着状態が続けば遅刻してしまう。
皆勤賞を目指している俺としてはそれは避けたい。
だから、堂々と言ってやった。
「まあ、お金には困ってますけど」
そう。両親がおらず、子供の多い我が家は、当然の如く家計が苦しい。
「………」
今度は相手が黙る番だった。そりゃそうだろ。
同じ学校の生徒にいきなり金に困っていると言われても、どうしようもない。
俺としても別に解決してくれる事など期待してはいない。ただ、この不毛な会話を早く終わらせたくて言っただけだ。
「もういいですか?」
「……待って」
俺は話を切り上げようとしたが、ハーフ美少女はなおも食い下がってくる。というかマジでもう時間がやばいんですけど? お金以前に今はアナタに困ってるんですけど?
「あの、これ以上は遅刻するんで、取り敢えず後にしてもらっていいですか?」
焦っていたせいか、つい不機嫌な声が出てしまった。
だが、ハーフ美少女は思案顔で頷くばかりで、特に気にした素振りはない。いや気にしろよ。
「む……そうね。じゃあ放課後、生徒会室まで来てちょうだい」
「はい?」
え、この人、生徒会なの? というかよく考えたら俺、生徒会の役員とか誰も知らないな。
まあ、知ろうとした事も無いけど。
「待ってるわ。それじゃ」
言うだけ言って、ハーフ美少女は颯爽と校舎に向かう。
突然の申し出に呆然としてしまった俺は、思わず彼女を目で追ってしまった。
だが、彼女はもはやこちらに関心が無いのか、自分の下駄箱の前に着くと、焦げ茶色のローファーから黒いニーハイソックスに包まれた長い足を抜き、学校指定の上履きへとその足を……っていやいや、ちょっと待て。
思わず見逃すとこだったが、あいつ俺と同じ二年の下駄箱で靴履き替えてるじゃねーか。わざわざ敬語で話してた俺の立場は?
てか、俺がもし先輩だったらどうするつもりだったんだよ……。まあ、勝手に勘違いしてたのは俺なんですけどね。ええ。
そして生憎、放課後はバイトなので生徒会室には行けません。ごめんね。
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