三姉妹との朝食で安らぎを。
「アキく〜ん。起きてる?」
「……んっ、んん? 美冬姉さん? あぁ、もう朝か」
寝ぼけ眼を見開くと、朝日よりも眩しい姉の笑顔があった。
「おはよう。昨日も遅くまでお勉強頑張ってたの?」
カーテンの隙間から入る陽光を受けてキラキラと光る艶やかな長い黒髪が眩しい。エプロン姿という事は、朝食の支度の途中で俺を起こしに来てくれたらしい。
「ふぁ〜あ……。うん。まあちょっと。そんなに遅くまではやってないよ。てか、俺の寝起きが悪いのなんて、いつものことだろ?」
「う〜ん、でも、最近はバイトもしてるんだし、あんまり無理しないでね?」
美冬姉さんは気遣わしげにそっと俺の顔を覗き込む。
その拍子にワイシャツの胸元から、豊かな谷間が俺の目に飛び込んできた。
「わ、わかった! わかったから! と、取り敢えず、着替えるか出て行ってくれ!」
いくら家族でも、お年頃の男の子に美人のお、おっぱ……は、刺激が強すぎるんですよ?
「もう。本当にわかってるのかしら?」
ぷんすかと可愛らしく頬を膨らましながらも、美冬姉さんは大人しく部屋から出て行った。
「……っはぁ〜」
ため息を一つ吐き。ぼちぼち一年以上の付き合いとなった『雛祭高校』の制服に袖を通す。
姿見に自分を写し、今日も今日とて見慣れた自分に朝の挨拶。
父親譲りで色素の薄い茶髪は相変わらずボサボサ。
平均よりは申し訳程度に高めの身長だが、猫背気味に丸まった背中のせいかパッと見は中肉中背ど真ん中。
同年代よりも老けて見える顔は、寝不足で出来たクマと相まって働き疲れたサラリーマンのようだ。
よし、いつも通り。
あとは顔を洗ってメガネを掛ければ、雛祭高校二年D組、『西松 秋宏』の出来上がりだ。
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身支度を整え、二階に降りてリビングのドアを開けると、トーストと淹れたてのコーヒーから立ち上る心地良い香りが鼻腔をくすぐった。
「あら、アキくん。相変わらず支度が早いのね。ちょっとだけ待ってて。目玉焼き、もうすぐ焼けるから」
キッチンから首だけでこちらを振り返ったのは、起こしに来てくれた一つ上の姉、美冬姉さんだ。
しとやかに整った容姿も相まって、年齢よりもずっと大人びて見える。
「んじゃ、サラダとスープ出しとくわ」
「うん。ありがと」
俺はサラダを適当に盛り付け、鍋から四人分のスープを掬う。ふむ、今日はコンソメか。
そうして一通り用意が出来た朝食をテーブルに運んでいると、ドアの向こうからトコトコと足音が聞こえてきた。
「ふぁ〜あ、みぃ姉、アキ兄、おはよ〜う。リンちゃん起こしてきたよ〜」
眠たげに欠伸を漏らしながらドアを開けたのは、次女の春香。俺より二つ下の中学三年生だ。
ふわりとした亜麻色の髪は肩の上でセミロングに切り揃えられているが、猫っ毛のせいか今は寝癖で毛先があっちこっちに跳ねていた。
小柄な彼女には少し大きめなカーディガンの裾で瞼をこする仕草は、まだまだ幼さを感じさせる。……来年から高校生なんだよなぁ、この子。お兄ちゃん心配です。
「おはようございます! ミー姉さま! アキ兄さま!」
続いて元気よく挨拶をしたのは、三女の夏鈴。小学三年生だ。
起きたばかりのはずだが、おてんばな彼女は朝からエンジン全開のご様子。
春香に結んでもらったのか、おさげにした桃色がかった栗毛が、今日も元気にぴょんぴょん踊っている。
見ているだけで癒される我が家の天使だ。日直の都合で夏鈴の顔を見ずに登校した日は調子が悪くすら感じる。そして寝顔を見れば快眠必須。多分ビタミンCの千倍以上に疲労回復効果がある。
「おう、おはよう。春香は取り敢えず寝癖直してこい」
「え、まだ跳ねてる? はぁ〜、面倒くさいなぁ」
「女の子でしょーが。ちゃんとしんさい。んで夏鈴は、兄ちゃんと一緒に美冬姉さんの手伝いな」
「ハイですアキ兄さま! どれを運べばいいですか?」
春香は億劫そうにため息を吐きながらも、素直に洗面所へと向かう。
対照的に夏鈴は元気いっぱい返事をして、美冬姉さんの元へとてとてと走り寄った。
「あらあら夏鈴ちゃん。ふふっ、ありがとう。じゃあお箸並べてくれる?」
「ハイです!」
美冬姉さんに仕事を任された夏鈴は、満面の笑みで箸を背伸びしながらテーブルに並べる。
……まあ、超洋食メニューなのに箸で食うってどうなの? と言う疑問はあるが、目玉焼きとかサラダとか、フョークより箸の方が食いやすいよね。
何より、楽しそうに支度している美冬姉さんや夏鈴の顔を見ていると、そんなことどうでもよくなる。
シスコン? ははっ、何ですかそれ、ミスコンのシスターバージョンですか? それは盛り上がりそうですね(俺が)。でもそれだと同率優勝になっちゃいますね。寧ろ順位をつけることに意味を感じません。どこぞのミツヲさんも言っているでしょう? みんな違って、みんな良い、って。つまり、そういうこと。どういうこと?
「あき兄、なに一人でニヤニヤしてんの? キモい」
と、俺が果てしなくどうでも良いことを考えていると、寝癖を直した春香がいつの間にか目の前に立って……え? キモい?
「はぁ〜。お前も黙ってれば可愛いのになぁ」
「は、はぁ!? か、可愛いとか、朝から妹相手になに言ってんのよ、このバカ兄!?」
「妹相手でぐらいしか言わんだろ普通。てか注目するとこそこかよ」
なにを言ってるんだ、このカワ妹は。注:可愛い妹の略。
「も、もう、何なのよっ。……あ、あき兄だって、髪とか猫背直せば、そ、その、かっこ」
「はーい! あきくん、はるちゃん、朝ごはんの用意できましたよ〜」
「はいよ。んじゃ食べますか。ん? 春香、今なんか言いかけてなかったか?」
「っっ……別に、何でもない!」
春香はむすっとした様子で俺から顔を背け、定位置である俺の斜め前、美冬姉さんの正面の席に座る。……俺、なんか不味いこと言ったか?
「ハル姉さま、どうしてお顔が赤いんですか? お熱ですか?」
「な、何でもないわよ!? いいから、リンちゃんも早く座りなさい」
春香は早口で捲し立てながらも、優しく夏鈴を抱き上げて自分の隣の席へとゆっくり腰を下ろさせる。幼く見える春香も、こういうところはしっかりとお姉ちゃんだ。
「はい。じゃあみんな揃ったところで、頂きます」
「「「頂きます」」」
美冬姉さんの声に続くようにして、全員行儀よく手を合わせる。
夏鈴が嬉しそうにトーストを頬張れば、苦笑いしながらも春香が口元に付いたパンくずを取ってやり、そんな二人を暖かい眼差しで美冬姉さんが見守っていた。
皆、幸せそうな笑顔だ。彼女たちを見ているだけで俺の心も温まり、自然と頬も緩んでくる。
だからこそ、思うのだ。
この笑顔を守る為なら、俺は何だってできる、と。
お読み頂きありがとうございます。
大分前に書いたお話なので、お読み苦しい点もあるかもしれませんが、楽しんで頂けると幸いです。




