第三章:第二の盤面と凍てつく嵐
第一の盤面を突破した一党は、油断なく警戒の陣形を保ちながら、古代地下回廊のさらに奥深くへと続く不気味な石廊を進み、次なる巨大な広場へと到達した。
「うーん、これはどうなんだろう? 騎士の姿をしてるからナイトなのか、それとも直線的な圧迫感と機動性からしてルークやビショップなのかな」
「油断は禁物だよ。どの位置から襲ってきてもいいように、精霊たちとラインを張っておくね!」
猫人の魔術師カティアと精霊武道家サツキが、超感覚の猫耳と野生の嗅覚を極限まで研ぎ澄ませ、次なる部屋の構造と敵陣の揺らぎを慎重に観察する。
眼前に広がっていたのは、「第二の盤面」。
白黒の石畳が先ほどよりも複雑な幾何学模様を描いて敷き詰められたその広場で待ち受けていたのは、首を失いながらも禍々しい魔気と槍を構える不気味な騎兵――首無し騎士の群れであった。
さらに悪質なことに、黒いマス目の隙間からは、ひとたび吸い込めば呼吸器と肉体を激しく内側から蝕むような腐敗の有毒ガスが、絶え間なくシューシューと音を立てて噴き出していたのだ。
「黒いマスにガスが出てるなら、接近戦をする時には相手の位置と踏み込む足場に気を付けないとね!」
サツキが八重歯を噛み締め、後方の仲間たちへ鋭い警告を促す。
「ふん、二度も機先を制されるボクたちじゃないさね。今度は先手を譲るわけにはいかないよ!」
カティアが素早く魔術杖を掲げ、極大の魔力を一気に練り上げる! サツキやネージュ、そして巨剣を担いだマールも一斉に地を蹴り、敵の陣形を崩すべく動いた!
だが――神官戦士アルシエルだけが、足元の黒いマス目から吹き出す不吉なガスの波紋と盤面に刻まれた古代呪文の罠に再び幻惑され、大失敗の足取りで僅かに出遅れてしまう!
「くっ……不覚……!」
敵の首無し騎士たちは、その一瞬の隙を見逃さなかった。首無しの胴体から発せられる不気味な殺意とともに、黒いマス目を避けるように直線的な凄まじい突撃を仕掛けてくる!
「流石に同じ失敗を何度も繰り返すほど甘くはないよ! 《グラキエス(氷)》……《テンペスタス(嵐)》……《オリエンス(発生)》……正式なる吹雪をここに――《ブリザード》!」
カティアの洗練された詠唱が、広場全体に冷酷かつ完璧に響き渡った!
ズバァァァァァンッ!!
部屋全体を瞬時に白銀の世界へと塗り替える猛烈な超広域の吹雪! それは有毒ガスを一気に凍てつかせて霧散させると同時に、突進してきたデュラハンたちの強固な暗黒装甲を容赦なく貫通! 関節と魔導回路を凍りつかせ、その苛烈な動きを劇的に停止・鈍化させた!
「ぬははは! 動きが止まったぞ! 次はわしの番じゃぁぁっ!」
二刀流の怪力鉱人乙女マールが、凍りついた敵陣へ向かってドワーフの怪力を爆発させた!
身の丈を超える巨大な二振りの大剣を交差させ、吹雪を真っ二つに切り裂くような豪快極まりない二刀薙ぎ払いを繰り出す!
ドゴォォォンッ!!
重厚な衝撃音が轟き、極寒の嵐の中で固まっていたデュラハンたちの不浄な肉体と黒鉄の鎧が、マールの圧倒的な腕力によって一気に砕け散り、粉々になって盤上に転がった!
「ん。死者はしかるべき場所へ。……消え去るべき」
影から滑り出た昼歩く者ネージュが、神聖な祈りの力を宿した聖鞭を鋭く振り抜いた!
対アンデッドの祝福が込められた聖鞭は、暗闇の中で美しい淡い黄金の光を放ちながら、残った首無し騎士の胸元を正確無比に打ち抜く! 凄まじい聖なる祓いの効力を持った一撃が、敵の呪われた存在そのものを内側から浄化し、一瞬で霧散させていった。
「はぁっ!」
サツキもまた、しなやかな跳躍から仕込み杖の鋭い一突きを繰り出し、吹雪を逃れようとした敵の急所を的確に貫通!
カティアの完璧な広域吹雪、マールの豪快な二刀撃、ネージュの神聖なる聖鞭、そしてサツキの神速の精霊技が完璧に噛み合い、脅威であった「第二の盤面」は、敵にまともな反撃の機会すら与えることなく完璧に制圧されたのである。
「ふぅ……間一髪でしたね。アルシエル殿、怪我はありませんか?」
学者ミリアムが胸をなでおろし、固まっていたアルシエルへと駆け寄る。
「はい……カティア殿、皆様、申し訳ありません。盤面の罠に足を取られました……」
アルシエルが悔しそうに盾を握り直すと、カティアが杖を肩に担いでニヤリと笑った。
「謝る必要なんてないさね。仲間がもたついた分は、他の誰かが完璧にカバーする。それがボクたち『冒険者』のやり方だろう?」
「そうだよ~! 完璧な連携だったし、あたしたちの勝ち!」
サツキが元気いっぱいに八重歯を覗かせ、リリエルも「カティアもマールもネージュもサツキもすっごーい!」と楽しそうにクルクルと空を舞った。
マールが砕け散ったデュラハンの氷塊を踏みつけ、奥へと続く扉を指し示す。
「ぬは! いよいよこの下らぬチェスごっこの黒幕が近くにおる気配がするぞ。よし、一気に叩き潰しに行くぞ!」
手練れの一党は勝利の確信とより深まった絆を胸に、ついに狂乱の黒幕が待つ最終最奥の部屋へと突入するのであった!




