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メルル心霊ちゃんねる(後編)

 カメラに映っていたのは、幽霊のように不気味な雰囲気を纏いながら居室の扉からリビングまでを何度も行ったり来たりしている自分だった。


 なぜ毎日深夜の2時に室内を徘徊し、それがあたかも幽霊の存在であると妄信してしまったのか。

 胸の内に問いかけてみると、答えはすぐに浮かび上がってきた。

 配信動画の再生数だ。


 何か怖いネタがマンション内で起きなければ視聴者が離れていってしまう。

 この幽霊マンションに引っ越した後、ポルターガイストなどが起きることを期待していたのだが、そういった類の心霊現象が起きることはなく、引っ越して1ヶ月も経過すると、視聴者は私の配信に飽きを感じ始めていた。


 私は、内心かなり焦りを感じていた。

 心霊スポット探索にマンネリが出始め動画の再生数が低迷していたことから、新たな動画のネタのためにわざわざこの幽霊マンションに引っ越してきたというのに、心霊現象1つ起きないのでは話にならない。


 くだらない足の引っ張り合いや責任の押し付け合いで成り立つ社会に居場所など求めず、ネットで自身のポジションを確立し、収益を確保し続ける動画配信者。


 そんな存在に憧れて動画配信を始め、そこそこ人気な中堅どころの心霊系youtuberまで成り上がった今の自分にアイデンティティと優越感を感じていた。

 そんな私にとって、今の立ち位置が脅かされるというのは幽霊にも勝るほどのとてつもない恐怖でしかなく。


 気づかないうちに蓄積されていた精神的ストレスが意識の外へ、あるはずのない心霊現象を錯覚してしまうに至ってしまったのではないかと思う。

 カメラのレンズに映る徘徊した私の姿は、まさに何かにとり憑かれているようだった。


 この事件をきっかけに、私は動画配信を辞めることにした。

『メルル心霊チャンネルの追悼式』というタイトルで配信したこのチャンネル最後の引退配信内であの深夜徘徊動画を流したところ、見事に炎上した。


ゾロリ > 三十路女子のゾンビ歩きワロタ。


座布団ちゃん > やらせやらせやらせやらせやらせやらせ。


ピカキン > これ今までの心霊探索動画とかも全部やらせだった可能性が微レ存……?


バンジョー > 微レ存どころじゃないんだよなぁ……。


ぎゅぎゅうた > 今までの投げ銭分全部返せ。特定班はよ。


ぷんぷん丸 > 特定しますた。〒●●●-●●●● 東京都●●区●●天野国レジデンス503号室 豊崎楓。


ナギ > 裏切ったな。今から殺しに行くから待ってろ。


レミィ > 炎上しスギィ!アツゥイ!


紅芋 > わいはけっこう楽しめたからええけどな。まぁお疲れ。


 住所と名前が早々に特定されてしまったが、通報してコメントは削除された。

 誹謗中傷はあったものの、もう配信活動は引退するので再生数や今後のチャンネルの影響などを深刻に考える必要もなく、むしろキャンプファイヤー感覚で楽しんでいた自分に驚いた。


 炎上配信をしている最中、重くて硬い何かがアスファルトに打ち付けられるような鈍い音が外から聴こえてきて驚いたのだが、


座布団ちゃん > やらせやらせやらせやらせ……


 リスナーのみんなからはまた仕込みだとか野次を飛ばされたので、私から必要以上に何かをコメントはしなかった。


 とはいえ何が起きたかは気になって仕方がなかったので、配信を終わらせた後すぐに部屋の外に出て地上を見下ろすと、スーツ姿のあの社畜サラリーマンが倒れていて、灰色のアスファルトに真っ赤な花火を咲かせていた。


 赤黒い血と脳漿を周囲に飛び散らせて。


 今は月曜日の早朝。

 彼の精神はとうとう限界が来てしまったのだろう。

 自殺してしまうほど会社が嫌ならさっさと退職したらいいのに……なんて。

 そう考えられないほど追い詰められた人間の視野は狭くなってしまうのだろうと、配信活動を辞めることができた今の私はよく理解できる。


 誰しもがみな、どこかに居場所とアイデンティティを求め、そこに囚われてしまう。

 真面目な性格であればあるほど。

 引退配信以降、アカウントは削除して動画配信もSNSも止めた後は、今の会社で淡々と事務職を続けている。


 天野国レジデンスは家賃が安く建物自体は綺麗で立地も良いので現在も住み続けているのだが、配信を辞めた今もなお、毎晩深夜2時になるとリビングからペタペタと足音が鳴り響いているのはなぜなのだろう。


 部屋の四隅に置いた盛り塩は、今夜も私を守ってくれるだろうか。

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