第13話 追慕の指輪
─昔々、この世界の魔法と科学の発展に貢献した英傑の魔法使いが居た。
彼は北からこの地に降り、悠久の時を過ごし、また、魔王を討伐した英傑達の1人であった。
ある時4つの国に知識を与えた。 そしてこう言った─
「私の故郷、世界の北の果て……そこは原初の眠る地。是非来て欲しい」
─しかし、とうとうその地に足を踏み込む事は出来なかった─
「指輪の形が分かる物は無いかな」
「割れちゃった物はタンスにあるよ。 子供一人で家に入れちゃダメって言われてるから持ってくるね」
そうして持ってきたのは2つの白い欠片。
菱形の連なった彫刻が施されている。
「クモルクの木だね、普通の木と比べて繊維が少ないから耐久性に優れないが加工はしやすい……」
「く、クモルク……おばあちゃんから聞いたことある」
「数が少ないから普通の市場で買えば数千は普通だな」
「ヤナのお小遣い何年分だ……」
「でも自然から貰うのは無料だ。お兄さんをなんだと思ってるんだい飾り屋の魔法使いだよ」
ドヤり混じりの声でドヤるバレン。
「そう言えば、なんで名乗ってないのに飾り屋が来たと?」
「ヤナは生まれつき人の名前とやってる仕事が顔に見える目を持ってるんだよ」
「そりゃあ凄い…… さて、クモルクの木を探すか」
「ヤナも行く。魔法使いの仕事見たい」
魔法、そんなに使わないんだけどな……と思いつつ、折角だしと杖を取り出す。
「探し物の魔法だよ」
「おばあちゃんは魔法使いみんな無口で魔法使うって、御伽噺みたいに面白い言葉喋って使うものじゃないの?」
「そうだね、皆頭の中で呪文を唱えるんだ」
「ふーん、なんで?」
「その方が……早いから?」
「呪文……聞いてみたい」
バレンは杖を地面に突き刺して、呪文を唱える。
「ルックフォーカス」
「どっちも変わらなく無い?」
バレンは少し離れた所に立ち上がる光の柱を見る。
この魔法を使ってる人にのみ見える探し物の大体の在処だ。
「あっちだな」
「ヤナも使ってみたいなぁ」
「使えるさ、勉強して練習すれば」
「勉強嫌い」
2人は森の中を進み、光の柱の元へ。
そこには白色の巨木。
「クモルクか……結構デカいな」
バレンは杖を取りだして少し太めの枝を狙う。
するとヤナマルはローブの裾を2回、少し引っ張る。
「どうした」
「ヤナも面白いの見せてあげる」
ヤナマルは小さな手を横に伸ばし、何かを掴むように軽く握り拳を作る。
すると一瞬手の中が輝いて、手斧が姿を現す。
「ドワーフの道具格納術だよ」
「なんで手斧……」
ヤナマルは助走を付けてクモルクの太枝に向かって飛ぶ。
そうして大きく振りかぶり
「えいっ!」
地鳴りと共に土煙が舞う。
バレンは土煙を払い、噎せながらもどうなってんだとヤナマルの方を見た。
「凄いでしょ〜」
目の前にはドヤ顔仁王立ちのヤナマル、手には太枝を持っている(と言っても地面に引き摺るようなかたちだが)。
足元は突き刺さった手斧を中心に抉れた地面。
「その顔だと、本気じゃないようだね……」
少々引いた。
あんな小さな子があの太い枝を一撃で折るのはおかしいのだ。
「半分くらいの力かな!」
まだドヤってる。
木材が手に入ったので必要な部分だけ切り取って残りの部分は抉れた地面を直す序に埋めた。
バレンは作業場として宿屋を探す。
ヤナマルがそこら辺の良い感じの宿屋を教えてくれたおかげで苦労はしなかった。
割れた指輪の欠片から元の直径を推察する。
ヤナマルはと言うと……
「このお菓子美味しいけどちょっとパサついてるね」
机に置いてあったサービスの菓子折を摘み食いしていた。
バレンは少し微笑んで指輪造りに集中する。
ヤナマルが窓を覗く。
もう辺りは橙色に塗装され、影と光がくっきり分かれていた。
人もチラホラと少なく、帰りの鐘が鳴る。
そこに一つの見慣れた姿。
「あ、おばあちゃんが帰ってくる」
「まだ居たのか、心配させちゃダメだよ」
「飾り屋さんバイバイ」
バレンは手を振って部屋から見送った。
橙色に染まる街。
祖母にバレないよう忍び早歩きで街中を進む。
なんとか祖母が帰る前に帰れそうだ。
後少しで家の前、角を曲がれば玄関だ。
ササササっと角を曲がる瞬間、視界が真っ暗に、顔に衝撃が走る。
「うっ……ごめんなさい」
「こちらこそ、すまんな。 これで2回目だよ子供とぶつかるの……」
見上げると、黒い大ローブを羽織り、紺色のコートのような服を着た大男。
ヤナマルから見れば全員大男だが。
腰には剣を携えていて、首にはネックレスをかけていたが、その具体的な形は陰って見えなかった。
「所で嬢ちゃん、メリナスさんの家はどちらかな」
「知らなーい。 おばあちゃんの友だちじゃない人はヤナも知らないもん。おじさん人探し?」
「お、おじさんかぁ……まぁ知らないなら仕方ないね。ごめんね時間取らせて」
「おじさんも魔法使いでしょ。 探し物の魔法使えばいいのに」
「その手があったか……暫く使ってなかったから忘れてたよ」
「じゃあヤナは急いでるからじゃねばい」
ヤナマルはスタスタと去っていった。
「もうおじさん呼びされる歳かぁ……時の流れは残酷だね…………ん?」
玄関に入るヤナマル。
あのおじさんの顔に写ってた名前とお仕事、名前は別になんでもいいんだけど。
仕事の名前……どこかで、おばあちゃんが気を付けてねって言ってたっけ。
悪魔狩り。
まぁ何もなかったからいっか。
翌朝、バレンは完成したクモルクの指輪を届けにヤナマルの家へ向かった。
指輪は菱形格子の彫刻が施され、小さな雫の赤いルビーが1つ、埋め込まれていた。
なるべく再現したが……割れてしまった結婚指輪の代わりには程遠いだろう、だが依頼は依頼だ、
扉をノックしようと手を近づける。
「叩いたらおばあちゃんに気付かれちゃう」
足元からの声に驚いて後ろに下がろうとするも、足を踏まれてたみたいで尻餅を着いてしまった。
「痛って……」
目を細め、尻をさする。
「ごめん踏んでるの気付かなかった」
「……まぁ今度からは話しかける時は少し離れような。 指輪できたよ」
白い木の箱を手渡す。
ヤナマルは目を輝かせて受け取り、ポケットから10ガル硬貨を取り出す。
「それは木を切るのを手伝ってくれた分だ、要らないよ」
ヤナマルは呆然とした顔でバレンを見つめた。
口が半開きだ。
「口が開いてるぞ」
バレンは回れ右をしてその場を立ち去ろうとする。
「待って! 商人でしょ!? お金は払わないと!」
「しっかりした子だな。 そんな大声出してるとおばあちゃんにバレちまうぞ」
夜、狭いけれど、2人にとっては充分な部屋の真ん中で蝋燭の灯されたケーキが仄暗い壁を照らす。
大きな椅子にちょこんと座る老婆、テーブルの縁に手先を掛けて、ゆっくりとその蝋燭を吹き消す。
直ぐに明かりを灯して暗くなった部屋を明るくする。
「お誕生日おめでとう!おばあちゃん」
「ありがとう〜」
白髪の三つ編みをして、ヤナマルと同じ目の色をしている。
穏やかな表情で楽しそうな孫娘を眺めた。
「あ、そうだおばあちゃん。 これ、誕生日プレゼント」
ヤナマルが差し出した白い箱、赤いリボンで結ばれていて、開けてみると。
「これは……どうやって」
「素敵な魔法使いと一緒に頑張ったんだ」
「魔法使い?」
「飾り屋の魔法使い。でも、割れちゃった指輪じゃないんだ。新しい指輪で……」
「いや、同じ物じゃなくても良い。 お前との思い出をまた作れて私は嬉しいよ、指輪、手が震えて付けにくいから、代わりにやってくれるかい?」
「うん!」
祖母の左手薬指にゆっくりと指輪をはめようとする。
灯火の光に照らされて、赤いルビーが輝いた。
「新しい指輪だけどね、割れちゃった時に外れたルビーはまたはめ込んで貰ったんだ」
昔、彼がこの指輪を渡してくれた。
「これが人生の取引だ。 カーサ、お前の笑顔は絶対に絶やさせない、だからその人生を預けて欲しい」
彼は先に行ってしまった。
ヤナマルは膝まづいて見上げるような姿勢で指輪をはめ込む。
「誰かに似てるわね」
「え?」
「いいわ、ありがとう」
次回 首飾りの紋様




