第12話 森林諸国
各船は砂鯨の背鰭にフックをかけて行く。
縄が引っ張られ、引き摺られるように砂流船は砂漠の上を走った。
「砂鯨の後ろに周らないようにしろ!流砂に沈むぞ!」
その巨体からは似つかわしくない速度で泳ぐ為、後方の流砂は荒れている。
砂流船は船首に備え付けられた鉄製四連装バリスタの照準を砂鯨に向ける。
すると砂鯨は引っ掛けられたフックを外そうと身体を大きく畝らせた。
ロープは勢いよく畝って引っ張られ、砂流船のマストに鞭打ちするように叩き付けられる。
一部の船は破壊され、ロープが切られ、後方に流される。
舵が効く船は横に離脱し難を逃れるが、反動で制御出来ない船は流砂の砂の波をもろに食らう。
「バレン、暴れる準備は出来てるな」
「いつでも」
各船から放たれる鉄矢、砂岩を纏った砂鯨の背中を貫くには充分だ。
背中の砂岩の一部が剥がれ、橙色の鱗がその姿を現した。
砂鯨は頭から砂と砂岩を噴き出し船団に岩の雨を降らせる。
バレンは防護魔法で青白い壁を作り出し、岩石を弾き返す。
「砲撃だ、頼んだぞお前達」
バイロリッヒがそう言うと砲塔内で聞いていた綿の妖精達は主砲照準を鯨に向ける。
砲身が火を吹き、白煙が砲口を隠す。
腹の中から殴られるような轟音が響く。
砂鯨は怯み、他の船も次々とバリスタや大砲を叩き込む。
流石の巨体でもこの猛攻には耐えられない。
砂鯨は徐々に速度を落とし、動きが鈍くなる。
胴体が倒れ、流砂が止む。
「さて、ここからだ。祭りは」
「砂鯨は討伐したじゃないか」
「倒したから終わりじゃない、俺達は無駄にするために討伐した訳では無いだろう。確かに元は国を砂鯨のデッカイ足跡にしない為にやったが、同時に恩恵としてソイツを戴く。そこまでが祭りだ」
砂鯨に群がる船団を眺めて、バイロリッヒはバレンに語った。
「さぁ、こうしていると俺らの分も無くなっちまう。手伝えよ」
「勿論だ」
バイロリッヒは刃の長い槍のような物で甲殻を剥がしていく。
バレンの方は鱗や皮を剥がし、重い物は魔法で運んだりしていた。
そうしているうちに二日が過ぎた。
それなりの人数と船だったが、600m以上もある巨体を捌くのは時間がかかる。
「骨はどうするんだ?」
「一部は持っていくが、大半は残す。 岩礁に魚が群がるようにこういったものは小さい生物の住処にもなるんだ」
「家か……」
朝方、次々と船は王国へ戻り、バレン達も積荷を縛って帰還する。
「報酬は……500万ガル。 二人で250万か」
「え、そんなに稼げるのか」
「何度も言うが祭りの名目で元は国を守る防衛戦だからな、命の保証無しなんだ。 ところでその鱗の山と甲殻、どうすんだ? お前の友人に渡すったってバライエルとの大型郵便の航路は無いぞ」
するとコゲドリが空から舞い降りて嘴に依頼書を咥えてバレンに渡す。
「コイツに運んでもらう」
「流石にそんな豆で運べるわけ……」
「できるんだなぁこれが。 ある時玄関に飾る小さい鉄灯篭を頼まれて作った時にね、依頼主の所まで運んで行ってもらったんだ、主は喜んでたよ」
「……じゃあ大丈夫か…………何だこの鳥は。化け物か? 所で依頼主の地域は何処だったんだ?」
「鉄鋼の蒸気都市ステートアイズラン」
「はぁ〜 化け物だ」
「渡り鳥だからね」
まとめた箱の紐をコゲドリに掴んでもらい、飛び立つのを見送る。
「嘘だろ?…………というか脚に括り付けなくて良かったのか?万が一落としたりしたら」
「落とさないさ」
バレンはバイロリッヒと共に銀行へ向かった。
「教会に送るのか」
「必要な分は持っておくよ。ここまでの大金は持ち歩けないからね」
現金輸送をする訳では無い、『ガル』通貨はこの大陸なら共通通貨なので王立銀行なら送り手の銀行がその金額分を書類としてまとめ、相手銀行で金額に変換してもらう。
「バイロリッヒは何に使うんだ?」
「愛船の改装だ、少し機関を改良したい」
「数百万でなんとかなるんだ……」
「傭兵時代の価格に比べたら高いよ」
バレンは依頼書を開く。
場所は森林諸国ファレスタ・フレーフ、祖母の誕生日祝い。
バイロリッヒが覗き込む。
「子供の字じゃねぇか。ばっちゃんへのプレゼントか」
「そうみたいだね」
「ファレスタか。俺の行く方向とは真逆だな」
「何処に行くんだ?」
「ステートアイズランだよ。改装も造船も、そこでしかやってない」
「なるほど、ならここでお別れだな」
「あぁ、気を付けとけよ。あの地域は最近良いニュースを聞かない。街で道を間違っても巻き込まれんなよ」
「そりゃあ最高だ気を付けるよ」
バレンは駅の方へと足を進める。
「また会えたら良いな!」
バイロリッヒが船を背にしてバレンに言い放つ。
バレンは手を振って手の甲で答えた。
森林諸国ファレスタ・フレーフ
大昔の戦争が幕を閉じてから、最初に異種族の交流を始めたとされる小国地域だ。
三日間、大陸横断鉄道に乗ったバレンにとっては久々の駅の外。
王国サウジャランとは違い、草原や木々が生い茂る土地だ。
この国は元々は長寿命の種族、つまりエルフと呼ばれる者たちが住処としていた点々とした村だった。
魔物や魔族に度々襲撃されては、森を燃やされていたらしい。
しかし今目の前にあるのは煉瓦で舗装された道に、城壁や防壁の代わりに数メートル高く作られた煉瓦の土台。
確かに森林諸国と呼ばれるだけ木々の無い視界は無いくらいには植林されている。
街並みは蔦や小さな植木に飾られた煉瓦造りのガッチリした建物が多く、とにかく生い茂る木々と煉瓦だらけの風景だった。
住民は見た感じ混血種族が多い。
エルフ特有のとんがった耳と馬のようなしっぽの生えた人。
長い髪の毛の中からヘビが顔を覗かせ、そのヘビの主が筋肉質な腕を自慢に腕相撲するのをじっと見ていたり……
バライエルやサウジャランでも見かけることはあったが、比べものにならないほど居る。
やはり元々はエルフの土地だったので、その割合も多い。
バレンは依頼主の家へ向かった。
玄関をノックしようと手を差し伸べる。
そして、黒い艶のある板に手が触れようとしたその時。
「お待ちしておりました。飾り屋さん」
声の主は足元から。
バレンが下を向くと小柄な女の子。
栗色の長髪に透き通るような緑の目。
背丈は背伸びしてもバレンの腰程しかない。
「見上げ続けるの辛いので屈んでもらっても良いですか?」
「お、おう。すまん」
彼女は小人族とドワーフのハーフらしい。
両親共にこの世にはおらず、祖母1人と暮らしている。
明日が祖母の誕生日なので、木の指輪を作って欲しいとの事。
「木の指輪……」
「難しいですか? このルビーも一緒にはめ込んで欲しいのです」
差し出した小さな両手の掌には赤く小さな雫。
「おばあちゃん、真鍮に触ると肌がかぶれちゃうの。だからおじいちゃんからの結婚指輪も木でできてたんだけど、割れちゃったみたいで」
「なるほど……」
「お金、どのくらいかかる?」
少し困惑した。
ただ、すぐに答えはでてくる。
「10ガルかな。 指輪くらいなら簡単さ」
少女はニッコリと笑って家の中へ走っていく。
「完成したらで良いぞ!」
少女が戻ってきた。
「はやまっちゃった」
「ところで名前は?」
「ヤナマル。 この国の真ん中にあるでっかい木の名前と同じなんだ」
バレン「これが森林諸国か……森林というより煉瓦と林だな」
ヤナマル「全部耐火煉瓦らしいですよ」
バレン「よく小説でエルフの森とか村燃やされてるけど……確かここも史実だと大昔は燃やされてたよな」
ヤナマル「でも今は燃えないエルフの森だァ!!」
次回 追慕の指輪




