最期
読んで下さると嬉しいです。
今では隆一朗は一日の大半を眠っていた。
瑞基は時々、心臓の音を確かめた。
弱々しい鼓動に、また涙が流れた。
その頃には、瑞基は隆一朗の傍から一瞬も離れることができなかった。
気を抜いたら、この弱々しい鼓動が途切れてしまいそうで、怖くて離れることができなかったのだ。
隆一朗はこの時、既に気力だけで生きていた。
隆一朗は、もう一人の聖詞が瑞基を奪いに現れるのを最後の力を温存しながら、耳の神経を研ぎ澄まし待っていた。
何かが音を潜ませて近付いて来る気配を感じて隆一朗は目を開いた。
戸口に人影がぼんやりと見えた。
それはゆっくりと近付いて来る。
瑞基は気付いていない。
隆一朗は言った。
「瑞基………キス………………して……………………」
瑞基は溢れる涙を拭って、口唇を隆一朗の乾燥した口唇に押し当てた。
聖詞は持っていたナイフを頭上に掲げ、じりじりと瑞基に近付いて来る。
隆一朗は薄目でその様子を窺っていた。
聖詞は立ち止まってナイフを振り上げる。
ナイフは勢いよく瑞基の背中目掛けて振り下ろされた。
だが、ナイフが貫いたのは瑞基の心臓ではなかった。
瑞基をかばう様に翳された隆一朗の手のひらがナイフに貫かれている。
隆一朗は聖詞を見て、目で笑って見せた。
隆一朗は目を閉じた。
途切れて行く意識の中で、瑞基の屈託の無い笑顔が隆一朗を包んだ。
『キミと過ごした日々は忘れない…………………』
ナイフが貫いた隆一朗の手は力尽きて堕ちた。
その瞬間、聖詞は頭に手をあて仰け反ってもがき、苦しそうな表情を浮かべ、隆一朗を睨み付けながら色彩を失い消滅した。
「隆一朗…………………? 」
瑞基は口唇を離すと隆一朗の鼻先に耳を寄せた。
「隆一朗、呼吸するの忘れてるよ
ちゃんと呼吸しなきゃ
隆一朗!
呼吸してよ! 」
しかし、隆一朗は目を閉じたまま反応することは無かった。
瑞基は隆一朗を呆然と見詰めた。
もう、この肉体には隆一朗は居ないのだ。
隆一朗の人格、癖、表情、心情、温もり、総てを失くした脱け殻だった。
そこにはもう、隆一朗は居ないのだ。
「い……やだよ…………
起きてよ
隆一朗
置いて逝かないでよ
一人にしないでよ!
オレを置いて逝かないで!
隆一朗!
隆一朗!
隆一朗ーーーーっ!! 」
瑞基は隆一朗にしがみついた。
「逝かないで!
お願いだよ!
オレを置いて逝かないで! 」
瑞基は喉が張り裂けそうなほど泣き叫んだ。
「お願いだから、オレも連れて行って!
一人にしないでーーーーっ!! 」
隆一朗は眠るように安らかな表情を浮かべ、二度と瑞基に笑いかけることは無かった。
読んで下さり有り難うございます。
このシーンから、私自身も泣きながら書いてました。
瑞基の心情を思うと哀しくて涙が溢れて止まりませんでした。
家族に「めでたい奴、自分の書いた小説で泣く奴初めて見た 」などなど言われ、冷めた目に晒されながら書いておりました。笑
だってえ、瑞基と隆一朗は心から求め合っていたんだよお、その隆一朗が死んじゃったんだよ、哀しいじゃん!瑞基の気持ちが一番解る立場なんだからあとか、声を大にして言いたいのをこらえつつ書きました。笑
実は打ち込み終わって、確認している時も、もろーと泣きそうになりました。
バカな作者なのでした。笑




