衝撃
読んで戴けましたら嬉しいです。
仕事に復帰した隆一朗は、水を得た魚の様に仕事に熱中した。
立ち消えになっていたアルバム制作、イベント、ツアーを精力的にこなす内に季節は冬を向かえていた。
雑誌用の写真撮影する隆一朗に瑞基から着信が来ていた。
休憩の時間に掛け直した。
「どうしたの?
仕事中に珍しいね」
「事故った」
「え? 」
「バイト行く途中で車と接触して、脚骨折しちゃったんだ」
「大丈夫なの? 」
「めっちゃ、痛い」
「今脱ける事はできないから、終わったら行くよ
何処の病院? 」
「隆一朗が入院した病院」
「何を持って行ったらいい? 」
「取り敢えず下着とタオルと歯ブラシくらいでいいんじゃないかなあ」
「解ったよ
じゃあ、後で」
隆一朗は通話を切ると、一つの事が気がかりだった。
それはもう一人の藤岡聖詞が関与して起きた事故ではないのか。
また、新たな思惑を始めようとしているのかも知れないと云う事だった。
仕事が終わると隆一朗は一端アパートに帰り、瑞基が言っていた物をバッグに詰めて病院に急いだ。
四階のナースステーションで部屋番号を訊くと瑞基のいる病室に行った。
部屋は二人部屋だったが、もう一つのベッドは空いていた。
隆一朗の姿を見ると、点滴しながら上半身を起こして、瑞基は安心したように笑った。
「どう? 」
「痛い」
瑞基は眉間に皺を寄せて言った。
隆一朗は点滴の袋を見ながら言った。
「これ、痛み止めも入ってるだろ? 」
「でも、痛い」
「他に怪我はないの? 」
「腕、擦りむいた」
瑞基は肘をあげて絆創膏の上からラップの様なものを貼って手当てされた場所を見せた。
「隆一朗、今日オレのバイト先の近く来た? 」
「行ってないよ」
隆一朗は首を振った。
「じゃあ、あれ隆一朗じゃ無かったのかなあ」
隆一朗に不安がよぎった。
「それで、慌てて道路渡ろうとしてやっちゃった」
瑞基は苦笑いした。
「瑞基、ボクを見掛ける度に車に轢かれてたら、命が幾つあっても足りないよ」
瑞基は上目遣いで隆一朗を見た。
「うん、気を付ける
母さんにも連絡したから来てくれると思うんだけど」
「それは良かった
ボクじゃこう云う時、役に立たないから」
隆一朗は据え付けの収納棚に持って来た荷物をしまい始めた。
「何か欲しいものある?
下のコンビニで買って来るよ」
「そうだなあ、隆一朗のキス」
隆一朗は脱力した。
「瑞基、こんな状態だよ」
「でも、して」
隆一朗は瑞基に近付くと口唇を重ねた。
瑞基は甘えるように舌を絡ませてきた。
隆一朗と瑞基は互いの背中に手を這わせた。
「何をしているの? 」
後ろから声がして振り返ると、そこに驚きに目を見開いた綾子が入り口に立っていた。
「母さん……………」
瑞基と隆一朗は時間が止まったかの様に身動きできなかった。
「あなたたち、何をしていたの?
こんな……………
こんな事って…………………」
綾子は両手を頬にあて、酷く動揺していた。
二人は呆然と綾子を見詰めた。
瑞基が思い切ったように言った。
「ごめん、母さん
オレ、隆一朗を愛してるんだ」
「何を莫迦なこと言ってるの?
男同士で、しかも………………
隆一朗さん、あなた知ってるんじゃなかったの? 」
隆一朗は綾子に問うような顔を向けた。
「あなた、瑞基が弟だと云うことを知ってたんじゃなかったの? 」
隆一朗は意外な言葉に大きく目を見開いた。
「何言ってるの、母さん
オレが隆一朗の弟だったら、隆一朗はオレの兄貴じゃん」
瑞基は笑った。
「そうよ
あなたたち、お父さんは異うけど、れっきとした兄弟なのよ」
隆一朗は言葉を失った。
「そんな事言ったら、母さんは父さんと結婚する前に隆一朗の親父さんと結婚してた事になるじゃん」
「それは私の姉
瑞基の本当の母親は私の姉なのよ」
綾子は両手を握り合わせながら言った。
「冗談キツイって
母さんは隆一朗とオレを引き離そうとして、そんな作り話してるんだろ? 」
「嘘じゃ無いの
一生言うまいと思っていたのに
あなたたちが、そんな関係になっていたなんて………」
綾子は落ち着き無く、握った手を擦りあわせた。
隆一朗は綾子の様子を見て、それが真実である事を認めなければならないと悟った。
隆一朗は病室を飛び出した。
「ほらあ、隆一朗本気にしちゃったじゃないかあ
隆一朗、繊細なんだよ
なんて言い訳するんだよ」
「本当なのよ、瑞基!
あなたは私達の本当の子供じゃないのよ! 」
瑞基は真剣な綾子の表情に、それが真実である事を認めなければならなかった。
「嘘だ
冗談だって言ってよ
嘘だって言ってよ! 」
「本当なのよ! 」
綾子はその場に泣き崩れた。
瑞基は床に座り込んで泣く綾子を呆然と見詰めた。
綾子は落ち着くと語り出した。
「私の姉と云う人は綺麗で優しい人だったけど、男の人に愛されてないと安心できない人だった
愛されたいと云う欲求に素直過ぎる人だったの
藤岡真聖さんと出逢って結婚したけれど、いつもこぼしてた
あの人は私を愛してないのかも知れないって
そして、たった四年で当時三歳になったばかりの聖詞くんと、真聖さんの前妻の子供だった聖流くんを置いて失踪してしまった
それから、三年くらいして生まれたばかりの瑞基を突然連れて来て、新しい恋をしたと言ってあなたを私に押し付けて行方知れずになった
それから、どうしたのか解らないけど
私とお父さんは一生あなたにそれを隠そうと決めて自分達の子供として育てて来たの
私とお父さんはあなたに惜しみない愛情を注いで来たつもりよ」
瑞基はその話をBGMでも聞く様にぼんやりと聞いていた。
隆一朗は非常階段を駆け上がり、冬の冷たい風が吹きすさぶ屋上に出た。
金網に手を掛け、隆一朗は項垂れた。
「まさか、キミと瑞基が兄弟だったなんてね」
声に振り返るとそこに、もう一人の藤岡聖詞が立っていた。
隆一朗は睨み付けた。
「面白い展開だよね
もう、愛し合う訳には行かないね
血を分けた兄弟なんだから」
「キミがボクの前に姿を現したと云う事は、ボクの余命もそれほど長くないと言う事だよね
つまりキミも焦っている訳だ」
「なんとでも……………
ボクは瑞基を葬る事を諦めていないからね
せいぜい弟を守るんだね」
もう一人の藤岡聖詞は煙になって消えた。
読んで戴き有り難うございます。
前回、サブタイトル一個合併させたんですよね。
隆一朗がバンドのメンバーに謝るシーンに謝罪と云うサブタイトルがついていたのですが、五、六百字くらいだったので、くっつけちゃいました。
なんだか、一気読みして下さる方がいらしてくれて嬉しいです。
昨日とおとといと、一週間くらい前にもお一人いらして下さったんですよね。
もう、60話にもなるのに有り難うございます。
嬉しいです。
「壊れた緋色」、「デッサンの狂ったボクは」、「エコラリア」と暗い作品が私の場合多いのですが、「エコラリア」はさすがに行くとこまで行っちゃった作品だなあと、娘に諭されて認識しました。笑
明るい作品も書くの好きですが、暗い作品書く方が書く時に力湧きます。
今の時代に流行らないんですけど、私はやっぱり皮肉った暗い話好きです。




