口論
読んで戴けましたら、嬉しいです。
一年の月日はのろのろと過ぎて行った。
隆一朗は近頃では、瑞基が居る時だけ家の中で自由にする日々を過ごしていた。
隆一朗は風呂から上がると伸び放題の髪をタオルで拭きながら瑞基に言った。
「瑞基、ボクの記憶が正しければ、森さんとキミの赤ちゃんができたって聞いたと思うんだけど」
ソファーに座り雑誌を見ていた瑞基は雑誌から目を離さずに言った。
「その事に付いては話したく無い」
「じゃあ、事実なんだ
赤ちゃんは生まれたの? 」
瑞基は雑誌を閉じて、隆一朗を睨んだ。
「話したく無いって言ったよ」
「キミがそんな態度を取るってことは森さんと何かあったんだね」
瑞基は雑誌をソファーに叩きつける様に置いて隆一朗を睨んで言った。
「それも話したく無い! 」
「瑞基、ボクにかまけて森さんをないがしろにしてないよね」
「オレはオレなりに努力したよ!
でも、森さんは勝手に堕胎しちゃったんだ! 」
隆一朗の顔色が変わった。
「堕胎したって、どう云うこと? 」
「知らないよ
オレも何がなんだか解らない
突然呼び出されたと思ったら、いきなり堕胎したって言われたんだ
後は何言われたか憶えてない」
「そんな事も解らないの?
森さんはキミに失望したんだよ
どうして、彼女をもっと捕まえててあげなかったの」
「さっきも言ったよ!
オレなりに努力したって!
オレに完璧求められても困る
あの時は隆一朗の禁断症状が一番酷い時で、オレも余裕無かったんだよ」
「でも、キミは彼女を支えるべきだった
ボクの事なんて放っておいてでも」
「無理言うなよ!
あの状態で、どうして隆一朗を無視しろって言うんだよ! 」
隆一朗は声を荒げた。
「キミのその優柔不断な態度が彼女を傷付けたんじゃないのか!
そして、大切な命が闇に葬られたんだ! 」
瑞基は立ち上がった。
「オレは、あの時手いっぱいだった!
隆一朗は自分が彼女の子供を守れなかったから、過剰反応してオレに絡んでるんじゃないの!? 」
隆一朗はつかつかと瑞基に近付くと瑞基の頬を平手打ちした。
瑞基は頬を押さえ、言った。
「ごめん、言い過ぎた」
隆一朗は黙って自分の部屋に戻って行った。
隆一朗はベッドに座ると両手で髪を掻き上げ項垂れた。
暫くしてドアがノックされた。
「隆一朗、さっきはごめん
オレ大学行ってくる」
瑞基が出て行く音が聞こえた。
隆一朗はベッドに寝転がった。
頭の中で瑞基の言葉が何度も繰り返された。
『隆一朗は自分が彼女の子供を守れなかったから…………………』
隆一朗は振り払うように寝返りを打った。
隆一朗のスマホが鳴った。
画面を見ると非通知だった。
隆一朗は嫌な予感がした。
画面に触れスマホに耳をあてた。
「隆一朗、久し振り
瑞基にあんな偉そうな事キミは言えるの?
彼女と子供を殺したくせに
瑞基を失って苦しめばいい」
通話は切れた。
隆一朗は車のキーを握って部屋を飛び出した。
その頃、瑞基は自分が隆一朗を傷付ける言葉を言ってしまった事に強いショックを受けていた。
『隆一朗の絶対禁句だったのに、どうしてあんなこと…………
絶対触れちゃいけない事なの、解ってたはずなのに』
瑞基は立ち止まって、俯いたまま動けないでいた。
ハッとして顔を上げて見た道路の向こう側の歩道に隆一朗の姿を認めた。
満身創痍の瑞基は引き寄せられるように隆一朗を求めて道路を渡り始めた。
反対車線からトラックが迫っていた。
隆一朗は二車線の道路を次々と他の車を抜きながら、瑞基の姿を求めて車を走らせていた。
瑞基の姿を認めた時、トラックが目に入った。
瑞基は何故かそれに気付いて無いようだった。
隆一朗はアクセルを思い切り踏み込んだ。
トラックの運転手は電話に気を取られて瑞基に気付いていない。
隆一朗は瑞基と擦れ違うタイミングでハンドルをきりブレーキを踏んだ。
トラックの運転手はいきなり現れた白い車に驚いてハンドルをきり、急ブレーキを踏んだが間に合わず隆一朗の乗る車の後部に激突した。
ぶつかった衝撃でトラックは止まったが隆一朗の車は物凄い摩擦音と共にスピンして歩道に乗り上げた。
瑞基は目の前で、何が起こったのか解らず、周りを見回した。
トラックの運転手が降りて来て何かがなっていた。
車体がぐしゃぐしゃに潰れた隆一朗の車が目に入った。
エアーバックが膨らんだ運転席にぐったりした隆一朗の姿を認めた。
瑞基は無意識に叫んでいた。
「隆一朗ーーーーーっ!! 」
反対車線は何事も無かったように車が流れていたが、こちら側では多くの車が通行できずに止まり、事故を見ようと車から降りる者、警察に電話する者、スマホで撮影する者もいた。
救急治療室に運ばれた隆一朗を、瑞基は椅子に座り膝に肘をついて項垂れて待っていた。
瑞基は後悔しても、しつくせない。
治療室から、治療にあたった医師が出て来て瑞基に説明した。
「レントゲンを見ても特に異常は認められなかったのですが、一応様子を見る為、明日まで入院して貰います」
瑞基は安堵の余り身体を折って膝に手をついた。
治療室の扉が開くと治療台から起き上がっている隆一朗が見えた。
瑞基は駆け寄った。
瑞基に気付くと隆一朗は安心したように笑って言った。
「キミに怪我がなくて良かった」
「自分が死ぬとこだったのに第一声がそれかよ」
「ボク、悪運が強いんだね
首がちょっと痛むだけ
でもこれじゃ、ライヴでヘドバンできない」
「そっちの心配?
オレ、絶対寿命が十年は縮んだよ
あんな無茶するなんて、正気の沙汰とは思えないよ」
瑞基は少し責める口調で言った。
「ちょっとやり過ぎたね」
隆一朗は笑った。
「隆一朗……………」
瑞基は隆一朗に抱き付いた。
「莫迦だよ
死んだら、どうするんだよ
車の中でぐったりしてる隆一朗見て、心臓止まるかと思った」
隆一朗は瑞基の頭を撫でた。
「命がけで守ってくれて有り難う
それなのにオレ、酷いこと言った」
隆一朗は、瑞基の髪に頬ずりして言った。
「ボクも感情的になり過ぎた
今夜、一人になって反省するよ」
「一人? 」
瑞基は隆一朗の顔を見た。
「オレ、今夜は隆一朗の傍、離れないよ」
「キミも疲れてる
帰って、休んだ方がいい」
「やだ、絶対隆一朗の傍にいる」
「いいよ、一人になりたいんだ」
「ダメ、絶対傍にいる」
通り過ぎようとした看護師が言った。
「当病院は完全看護なので、心配いりませんよ」
隆一朗はクスッと笑った。
「…………だって」
「看護師さん、実は彼は酷い鬱病でオレが傍にいないと眠れないんだ
オレいないと、いつ自殺するか解んないよ」
看護師は驚いて言った。
「そう云うことでしたら、病棟に連絡しておきます」
「……………だって」
瑞基は勝ち誇った顔を隆一朗に向けた。
「瑞基」
隆一朗は瑞基を睨み付けた。
「キミのその癖、どうにかならないの? 」
「なんのこと? 」
瑞基はしらばっくれた。
外科病棟の病室が何処も満員で、隆一朗は個室に入れられ、瑞基は喜んだ。
「キスなら思う存分できそうだ」
「病院で何を考え……………」
瑞基は言い終わる前に隆一朗に口付けた。
隆一朗は目を閉じ、瑞基の髪に指を埋もれさせて応えた。
「本当は愛し合いたいくらい隆一朗が欲しいんだ
オレ偉い、キスで我慢してるんだから」
「それ偉いの? 」
「ねえ、おかしいんだ
あの事故の前にオレ、隆一朗が向こう側の歩道を歩いてるの見たんだ」
「単純に見間違いじゃない? 」
「そんな筈ない
オレが隆一朗見間違えるなんて在り得ないよ」
「でもボクは車に乗ってたよ」
「どうして、車に乗ってたの?
だって、今まで何があっても部屋から出なかったのに」
「謝ろうと思ったんだ
それでキミを追い駆けたら、キミがぼんやり車道を渡ってるのが見えた」
「そうなの? 」
「そう」
「隆一朗、一度冗談でオレの首絞めたことあったよね
あの時もおかしかった
隆一朗はオレの首絞めてるのに、鍵あける音がしてリビングから隆一朗の声が聞こえたの憶えてる
オレ、あの時絶対隆一朗の手首の血を触ったよ
血の匂いしてたもん
感触まだ憶えてる」
瑞基は自分の手を見た。
「ボクに首絞められて、気が動転してたんじゃない? 」
「あの時の隆一朗、隆一朗じゃないみたいだった
凄く冷たい目でオレを見て言ったの、憶えてる?
オレが死ねば、総て丸く収まるって言った
あんな冗談、隆一朗らしくないよ
絶対、変だ」
「結局キミは、何が言いたいの? 」
隆一朗は眉をしかめた。
「解んない
解んないけど、凄く変だ」
「あの時、ボクは麻薬うたれておかしくなってた
言動が変でも、不思議はないよ」
「その麻薬、隆一朗にうったのは誰?
オレ、そいつ殺してやりたいよ」
「彼はもう、いないと思うよ
最後に薬売って貰った時に逃げた方がいいって忠告したから」
「なんで隆一朗はそう、お人好しなんだよ
そんな奴、捕まればいいんだ」
瑞基は忌々しそうに言った。
「そしたら、ボクも手が後ろに回るよ
それでバンドのメンバーや事務所、ボクと交流のある関係者に迷惑がかかってしまうのを避けたかったんだ」
「今、薬売って貰ったって言ったよね
その薬は? 」
「もう止めようって決心してたから、トイレに全部流した」
瑞基は安心して、溜め息をついた。
「オレ、どんだけ心配したか」
瑞基は隆一朗の肩に額をあてた。
「ごめん
キミに一番負担をかけたのに」
隆一朗は瑞基の背中に腕を回した。
「森さんのことも、申し訳ないと思ってる」
瑞基は俯いたまま言った。
「それはいいよ
本当は森さんに言われたこと、憶えてる
結局オレは隆一朗だけが大切だっていわれたんだ
でも、その通りなんだ
森さんを大切に思っているけど、オレの中で森さんはいつも隆一朗の次だった
自分でも、どうしようも無いほど」
「残念だよ
瑞基の子供の顔見たかった
ボクにそんなこと言える資格は無いけれど
それでも、キミと森さんが倖せになってくれればと心から願ってたんだ」
雨が降り出した。
また、彼らに梅雨の季節が訪れようとしていた。
読んで戴き有り難うございます。
隆一朗が車とばすシーンは、隆一朗がスピード狂で説明つくなあ、と思いました。
私がマンガに興味持ったのは、ベルばらでした。
あの美しい世界に魅せられ、初めてオスカルを真似て描いたのが、絵を描くきっかけです。
洋楽に目覚めたのは、初恋の人がメタル大好きで、少しでも会話できたらいいなあって、下心からです。笑
初恋の人もバンドでドラム叩いていて、旦那も昔ドラム叩いていてメタル好きです。
縁は異なもの味なものですかね。笑




