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媚態

 読んで戴けましたら嬉しいです。

 瑞基はアパートから割りと近くにあるレンタルヴィデオ店でアルバイトを始めて二年になる。


 季節は巡り上京した瑞基に二度目の春が訪れていた。


 返却されたDVDを棚に戻していると不意に声を掛けられ瑞基は振り返った。


 少し大人っぽくなった森詩織(もりしおり)が立っていた。


「森さん! 」


「瑞基君、こんばんは」


 森詩織は満面の笑みで瑞基を見詰めた。


「どうして?

 旅行か何か? 」


「ワタシ、短大を出た後ここの近くの建設会社の事務に勤めたの」


「そうなんだ

 嬉しいよ、こんな処で森さんに逢えるなんて

 少し待ってくれる? 」


 瑞基は腕時計を見て言った。


「あと二十分くらいで上がれるから」


「じゃあ、何か映画でも借りようかな」


 瑞基が仕事から上がる頃、森詩織はDVDを借りていた。


 二人は何処へとも無くぶらぶらと歩いて、近況を話していたが森詩織が言った。


「この近くのアパートに住んでるの

 お茶でもいかが? 」


「いいの? 」


「歓迎します」


 森詩織は以前と変わらない笑顔を瑞基に向けた。


 アパートは瑞基のアパートとそれほど距離のない場所にあった。


 小さな一間の部屋は女の子らしい清潔感と可愛らしさで溢れて、森詩織は小さなテーブルの横に可愛らしいキャラクターの付いた座布団を瑞基に勧めた。


「可愛い部屋、オレと隆一朗の部屋とは大違いだね」


 瑞基は部屋を見回して言った。


「瑞基君、コーヒーでいいのかな、インスタントだけど」


「お構いなく」


「じゃ、コーヒーね」


 森詩織はコーヒーを瑞基の前に置くとベッドが邪魔なので瑞基の隣に座った。


「ねえ、さっき何借りたの? 」


 瑞基が訊いた。


「エドワード・シザーハンズ」


「ジョニー・デップの出世作だね

 随分古い映画だね」


「大好きなの 

 童話みたいで」


「うん、童話みたいだよね」


 瑞基はコーヒーを飲んだ。


「高校の時、森さんには随分助けられたよね

 あの時は有り難う」


 森詩織は倖せそうに言った。


「夢みたいだった

 瑞基君の彼女でいられて

 美祐(みゆ)ちゃんには、そんな都合のいい女でどうするの

 ってよく怒られたけど」


 森詩織は笑った。


「都合のいい………………

 そうだよね

 オレ、自分の事で手一杯で森さんの事ないがしろにしてたと思うよ」


 瑞基は俯いた。


「いいの

 ワタシが自分で決めた事だから」


「そうは行かないよ

 オレも少しは反省しなきゃ」


「本当はね、瑞基君の後を追って来たんだよ」


「え? 」


「少しでも瑞基君の近くに居たくて、瑞基君の近くにアパート見つけたの

 アルバイトの場所も前から知ってたけど、やっと今日声を掛ける事できた」


 森詩織は哀しげに笑った。


「森さん………………」


 森詩織の哀しい笑顔が瑞基の胸を突き刺した。


「ごめんね

 森さんの気持ちに応えられなくて」


「瑞基君は自分に正直なだけだよ

 でもね……………」


 森詩織は少し迷ってから言った。


「今だけ、ワタシのわがまま聞いて

 今だけ、ワタシの恋人でいて」


「え? 」


 瑞基は言葉の意味が解らなかった。


「ワタシ、ずっと決めてたの

 初めての人は瑞基君って………………」


 森詩織は真剣な面持ちで、半ば訴えるように言った。


 瑞基は驚き戸惑った。


「オレ、そんなこと……………

 できないよ…………………」


「瑞基君らしい……………………

 だから、好きなのにね

 でも今は、その瑞基君らしいのが憎らしい」


 森詩織は目を伏せた。


 瑞基は言葉を失くしていた。


 居心地の悪い空気が流れた。


 瑞基は徐(おもむろ)に口を開いた。


「森さん、もっと自分を大事にしてあげなよ

 これから、いくらだってオレよかいい男に巡り逢うよ

 今そんな事したら、その時にきっと後悔するよ」


 森詩織は目を閉じた。


「もっともらしい事言わないで!

 そんな事ができたなら、もうとっくにしてる

 どんなに辛くても、どんなに淋しくても諦められなくて、どうしても瑞基君を想ってしまう

 瑞基君が隆一朗さんを求めてしまうみたいに」


 そう言って瑞基を見詰める森詩織の目は、涙が溢れ、かつて見た事も無いほど哀しく、瑞基の胸をえぐった。


 隆一朗を求めて止まない気持ちなら、痛いほど理解できた。


 瑞基は思わず森詩織を抱き締めた。


「ごめん、ごめんね

 オレ、凄く森さんに甘えてた」


 瑞基の胸の中で、森詩織は身を硬くして震える小さな声で言った。


「お願い、願いを叶えて

 今だけ、ワタシだけの瑞基君でいて」


 森詩織は濡れた瞳で瑞基を見上げた。


 森詩織の精一杯の媚態だった。


『オレもこんな哀しい目で隆一朗を見ていたんだろうか』


 瑞基は、自分が森詩織をこんな哀しい顔をする女性にしてしまったのだと思うといたたまれなかった。


 瑞基の中で高校の頃の森詩織が傍らで笑っていた。


 瑞基はその笑顔に確かに安らぎを得ていた。


 その陰で、どれほど多くの涙を流してきたのかと、そう思うだけでこれ以上拒絶する事ができなかった。


 瑞基は優しく森詩織の口唇に口唇を押し当てた。


 森詩織は目を閉じ、ぎこちない手つきで瑞基の背中に腕を回した。


 瑞基はゆっくりと森詩織の身体を押し倒して浅いキスを繰り返した。


「怖くない? 」


「瑞基君だから、怖くない」


 瑞基は流れる涙を指で優しく拭うと濡れた頬に愛撫した。





 その頃隆一朗は、食卓の椅子に座り、スマホを前に指を組んだまま、帰りの遅い瑞基の連絡を待っていた。


 瑞基が連絡も無く、こんなに遅くなる事など、今まで一度もなかった。


 隆一朗は空が白むまで待ち続けた。





 読んで下さり有り難うございます。

 この、森詩織ちゃんが瑞基を誘惑するシーンは死ぬほど苦労したのを憶えてます。

 詩織ちゃんは基本純な娘なので、瑞基をどう誘惑させようかと悩みまくりました。


 今年の春、三回も白鳥がくの字になって飛んでいくのを見ました。

 くーくーって鳴きながら飛んで行くんですね。

 飛ぶだけでも大変だろうに鳴きながらなんて、疲れるだろうなって思いました。

 今日、母の家で飼っているにゃんこに鼻噛まれ流血しました。笑

 しかし、私の母は噛んだにゃんこでは無く、私を怒るんですよ。

 母よ、鼻を流血している娘を心配してくれよ。

 ま、にゃんこは狂暴なのは解っている事なので、やっぱり無防備に顔を近付けた私が悪いのですが。

 鼻噛まれ流血してもにゃんこは可愛いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 森さんの行動を見ていて、松任谷由実さんの「まちぶせ」を思い浮かべました。 でも大胆ですよね。凄い! これから先、どうなるんだろう??? メッチャ興味あるぅ(⋈◍>◡<◍)。✧♡
[一言] なるほどこう来ましたか。
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