紫の館
読んで戴きましたら倖せでございます。
この街の郊外に紫の館と云う洋館が在った。
名前の通り壁も屋根も紫色をしていた。
噂の絶えない建物で、頻繁にホモセクシュアルやレスビアン、バイセクシュアル等の人種が近郊から集まり出入りしていた。
違法薬物の売買が行われているなどと云う噂も囁かれていた。
会員制で、会員の知り合いが同伴しないと中に入る事ができないと言われ、一般人は避けて通る様な場所だった。
瑞基はマルトのドアを開けると、客が居るのも構わずカウンターに駆け寄りマスターに言った。
「アンタなら面白い処知ってるだろ、連れてってよ!
なんなら寝てやってもいいよ! 」
マスターは驚いたが瑞基を面白そうに眺め、急用ができたからと言って数人居た客を返し店を閉めた。
駐車場に瑞基を連れて行くと自分の車に乗せた。
「あれから、隆一朗には逢えたのかい? 」
瑞基は不機嫌に答えた。
「隆一朗の事はいいよ、話したく無い
それより、面白い事したい
気分が晴れる様な処、アンタなら知ってるだろ? 」
「いいよ、連れて行ってやるよ」
マスターは車を発進した。
隆一朗はベッドに座り膝に肘を載せ、組んだ指を額に当て俯いたまま考え込んでいた。
スマホが鳴った。
隆一朗が画面を横目で見ると樹良からだった。
隆一朗が画面に触れ耳に当てると樹良はひどく慌てた様子で話した。
「瑞基を見たんだ
マルトのマスターと紫の館に入って行った
なんでも無いといいけど」
「教えてくれて有り難う
取り敢えず行ってみるよ」
「あそこ会員同伴じゃないと入れて貰えないよ」
「それは何とかするよ」
隆一朗は樹良との通話を切ると、タクシーを呼んだ。
上着を羽織ると外に飛び出し階段を駆け降りた。
紫の館に着くと、取り敢えず玄関の呼び鈴を鳴らした。
暫くして扉が開くと軽快なポップスが喧しく耳を刺激した。
明らかに女装した小男が訝しげな顔で隆一朗を見上げた。
「あなた同伴者が居ないの?
じゃ、入れてあげらんなーい」
隆一朗は小男の腰に手を回して濃厚なキスをした。
「これで、あなたとボクは知り合いでしょ
あなたが同伴者になってくれますよね」
隆一朗はにっこり微笑んで見せた。
小男はぽーっとして頷いた。
「あなたよく見るといい男、なんなら案内しましょうか」
隆一朗は後まで聞かずに中に押し入った。
「瑞基! 」
建物の中はサイケな配色で、絢爛たる悪趣味さに彩られていた。
人でごった返す中、隆一朗は瑞基の姿を求めて突き進んだ。
中央にある階段を登り、部屋のひとつひとつを覗いては瑞基を呼んだが瑞基の姿は中々見付ける事ができなかった。
人の中を泳ぐ様に進んでいると、隆一朗に抱き付く者や、中にはキスして来る者もいた。
隆一朗はそれに構わず瑞基を探し求めた。
ロココ様式のソファーが一つ置いてある部屋があった。
ソファーの背凭れの陰から黒に茶のメッシュが入った髪が零れているのを見付けた。
隆一朗は瑞基の名前を呼びながら入って行った。
ソファーに瑞基はシャツをはだけさせ横たわり、その上にニューハーフが乗って愛撫していた。
隆一朗はニューハーフの腕を掴んで引っ張りあげた。
「痛ーい」
ニューハーフは緊張感の無い悲鳴をあげて瑞基から降りた。
「瑞基」
隆一朗は瑞基の頬を軽く叩いた。
瑞基は酔った様に虚ろな目で隆一朗を見た。
隆一朗は瑞基の腕を自分の首に巻き付けると足元がおぼつかない瑞基を立たせた。
「瑞基、しっかりして」
「隆一朗?
何で、ここに居るのお? 」
呂律が回っていなかった。
「隆一朗じゃないか
君にこんな場所の知り合いが居るとはね」
マルトのマスターが壁に凭れてタバコをふかしていた。
隆一朗はソファーに瑞基を座らせると、マルトのマスターに飛び付いた。
マスターの胸ぐらを掴んで怒りに声を震わせ言った。
「瑞基に何を飲ませた」
マスターはヘラヘラと笑った。
「さあね、なんだったかなー」
隆一朗は胸ぐらを引いて自分の顔に近付け睨み付けた。
マスターの踵が持ち上がっていた。
隆一朗は声のトーンをおとして言った。
「何を飲ませたかと訊いてる」
瑞基は虚ろな意識の中で隆一朗がひどく怒りを露わにしているのに驚いた。
マスターはビビって言った。
「ただの軽い睡眠薬だよ
ヤバい薬は与えて無い」
隆一朗は手を離すと膝でマスターのみぞおちを蹴りあげ、両手を組んで身体を丸めたマスターの首を狙い、思い切り殴り付けた。
マスターは咳き込みながら床に崩れ落ち、腹と後頭部を押さえて気絶した。
「キスマークのお返しだよ」
隆一朗は瑞基を抱えながら言った。
瑞基はぼんやりした頭でその様子を見ていた。
『隆一朗、まだ根に持ってたんだ
結構、執念深い』
瑞基は笑った。
その様子を見ていたオーディエンス達は来た時とは一変して隆一朗と瑞基に道をあけた。
見ていなかった者達もその場の空気に、静まり返り道をあけた。
その中を隆一朗は瑞基を気遣いながら突き進んだ。
外に出ると隆一朗は瑞基を心配して言った。
「他に何もされなかった? 」
瑞基はフラフラしながら隆一朗の腕をほどいて投げつける様に振り払った。
「どうせ別れるんだから、どうだっていいだろ! 」
隆一朗は瑞基の頬を思い切り平手打ちした。
そして踵を返すと瑞基を置いてスタスタ歩き出した。
瑞基は頬を押さえ、その場に立ち尽くしていた。
読んで戴き有り難うございます。
こんな紫の館みたいな場所って実際にあるんですかね?
瑞基がヤケを起こして、隆一朗がそれを助けだす、と云うシーンが書きたくて勝手に作ったんですが、同性愛者の皆様ごめんなさい。m(_ _)m
それにしても、マルトのマスター気の毒過ぎる。
瑞基が絡む度にろくな目にあわなくて。笑




