喧嘩
読んで戴けたら嬉しいです。
「今夜は何? 」
瑞基は夕食の支度をする隆一朗の肩越しに覗き込んだ。
「ピラフ」
「ねえ、めちゃめちゃ普通に見えるんだけど」
隆一朗は野菜を切る手を止めて瑞基を見詰めた。
「どうしたの? 」
「ネタ切れ」
「ネタ切れ?
隆一朗、どっか悪いんじゃないの? 」
「ボクだって、まともに作りたい時もあるよ」
瑞基はまともに作られたピラフとサラダとコンソメスープを不気味な気持ちで食べた。
瑞基が風呂から出て来ると隆一朗はベッドに横たわって眠っていた。
顔を少し傾げて白いカジシャツにストレートのジーンズ、裸足で細い手を無造作に腹の上に置き仰向けに眠る隆一朗は、思わず息を殺して見入ってしまうほど美しかった。
この美しい青年と自分は愛し合っているのだと思うだけで、瑞基は言い知れない幸福感に満たされた。
瑞基は眠る隆一朗の横に腰掛け、引き寄せられる様に目を閉じ、隆一朗の首に口唇を這わせた。
隆一朗はエロティックな吐息交じりの声を漏らした。
瑞基は均整のとれた、しなやかな隆一朗の身体を服の上から優しく撫で、さくらんぼ色に輝く薄い口唇に口唇を押し当てた。
隆一朗は声を漏らし、うっすらと口唇を開き瑞基の舌を招き入れた。
瑞基は口付けながら隆一朗の髪を指先で弄んだ。
隆一朗の口唇はゆっくりと瑞基のキスに反応した。
瑞基がシャツの中に手を忍び込ませ隆一朗の敏感な場所を指先でそっと触れると、隆一朗は恍惚の表情を浮かべ、ゆっくりと身体を仰け反らせた。
「また、やってるよ
この二人」
麗畏がベッドの端に座った。
互いの指を絡ませ、瑞基と隆一朗は全裸で抱き合ったまま眠っていた。
「お盛んだよねー」
樹良が床に胡座をかいてウィスキーのボトルを置いた。
「いいんじゃない
相思相愛なんだし」
魁威は買い物袋をドサッと床に置くと胡座をかいた。
隆一朗が目を覚ました。
魁威たちの顔を見回して言った。
「どうしたの? 」
隆一朗が起き上がろうとすると瑞基がしがみついた。
「もっと傍に居て」
「瑞基、見られてるよ」
「え? 」
「おはよう、万年エロ瑞基」
「わっ!
また居るし! 」
瑞基は毛布を被った。
「また居て悪かったな、エロ瑞基
お前ら、もしかして毎晩やってるの? 」
瑞基は慌てて顔を出した。
「毎晩じゃ……………
毎晩じゃ……………………
すいません、毎晩やってます」
「へーぇ
俺、隆一朗ってもっと淡白だと思ってた」
樹良が言った。
「ボクらの性生活はどうでもいいよ
で、どうしたの? 」
いつの間にか服を着た隆一朗はグラスと氷を持って来た。
「例の話だよ」
麗畏が言った。
「ああ」
隆一朗の表情が曇った。
「俺達はあの場で即答しても良かったのに、隆一朗が考える時間が欲しいって言うから、俺達もそれに従ったけど、隆一朗はどう思ってるの? 」
樹良は、半ば捲し立てる様に言った。
隆一朗は目を伏せ、暫く黙っていた。
「こんなチャンス、きっと二度も無いよ」
麗畏が言った。
「俺も、俺達がどこまでプロとしてやれるのか、やってみたい」
「プロ? 」
瑞基が言った。
「プロって? 」
「隆一朗、瑞基に話して無いのか? 」
「言って無い」
「何のこと? 」
瑞基は説明を求めて隆一朗を見た。
だが、隆一朗は目を伏せたまま瑞基を見ようとはしなかった。
魁威が察して話し始めた。
「インディーズレーベルから、お声がかかったんだ
上京して契約しないかって」
「凄いじゃない!
もしそうなったらオレも付いて行くよ、隆一朗」
隆一朗は瑞基を見た。
「キミなら、そう言うと思ってた
でも、連れてなんて行けない」
「どうして? 」
「キミがここに居られるのは進学が条件だったの忘れたの?
それと、ボク個人の事でキミの人生を左右する事なんてできない」
「どう云う意味? 」
「キミがボク達に付いて来るとして、学校はどうするの? 」
「高校は中退
もしくは転校? 」
「転校するとして、御両親にはどう説明するつもり? 」
「そんな事言ってたら八方塞がりじゃん! 」
「そう、だからキミを連れては行けない」
「やだよ、そんなの!
また、たなればなれになっちゃうよ!
学校なんて辞めたっていいよ! 」
「それは隆一朗が許さないのを瑞基は解ってるだろ? 」
魁威が言った。
「だから、隆一朗は言えないでいたんだよ」
「嫌だよ!
やっと二人で落ち着いて暮らせる様になったんだ
オレは絶対嫌だからね!! 」
瑞基は洗面所に飛び込んでドアを閉めた。
暫く沈黙が続いた。
樹良が口を開いた。
「ごめん…………
俺、自分の事しか頭に無くて」
麗畏が言った。
「完全に舞い上がってて、こんな事になるなんて考えもしなかった」
「ごめん
みんな今日は帰って貰えないかな
瑞基と二人きりで話がしたいんだ」
「解ったよ」
魁威たちは帰って行った。
隆一朗はベッドに座り、タバコに火を点け、俯いた。
「いつまで、そこに裸で居るつもるり? 」
「隆一朗言ったよね、もうオレから逃げないって」
「言ったよ、憶えてる
ボクもそのつもりでいたよ」
「じゃあ、どうして? 」
「ボクだって、平気な訳じゃ無いよ
だから言えなかった」
瑞基はそっとドアを開け、項垂れた隆一朗の背中を見た。
瑞基は洗面所から出るとベッドに散らばる服を着始めた。
「キミだって感じてたんじゃない?
ボク達が一緒に居られない限界を」
瑞基の服を着る手が止まった。
「お願いだから連れてってよ」
「キミには大きな可能性があるよ
一時的な感情でそれを反故にするの? 」
「一時的な感情って………………
そんな風に思ってたの? 」
隆一朗は瑞基を振り返って言った。
「そんなの解らないだろ?
ボクは彼女を永遠に愛してると思ってた
でも、今はキミを愛してるんだ」
「ずるいよ、そんな言い方」
服を着終わった瑞基は隆一朗とは反対側からベッドに座った。
二人は背を向け合って沈黙した。
時間だけが重苦しく過ぎた。
「このまま…………………」
瑞基がおもむろに言った。
「このまま、二人で誰も知らない街で暮らせたらいいのに
同性愛者って言われてもいい、ずっと二人で…………………」
「それ、いいかもね」
「本気じゃ無い癖に」
瑞基は頭を抱えて言った。
「ねえ、どうしてオレの人生をオレに決めさせてくれないの? 」
「愛してるから
愛してるから、キミに悔いの無い人生を送って欲しいんだ」
「オレ、きっと隆一朗と離れた人生送った方が悔やむと思うよ」
「ごめん、多分これはボクのエゴだ」
「解ったよ……………
毎週末逢いに行く」
隆一朗は突かれた様に瑞基を振り返った。
「何莫迦な事言ってるの!
そんな事して、入試が上手く行くと思ってるの?! 」
「じゃあ、いつ逢うの? 」
「逢わない」
瑞基は隆一朗の言葉が信じられなかった。
驚きに大きく目を見開いて言った。
「今、なんて? 」
隆一朗は目を伏せた。
「逢わないって、言ったんだよ」
「それは終わりってこと? 」
隆一朗は目を伏せたまま言った。
「……………そう……………………………」
「訳解んないよ!
今愛してるって言った口で、なんでそんな事言えるの?! 」
隆一朗は無感情に言った。
「それがお互いの為だから」
「オレと逢わない事が隆一朗の為になるって言うの? 」
隆一朗は黙った。
瑞基は立ち上がって隆一朗を見た。
隆一朗は目を伏せ無表情だった。
「オレ、隆一朗が解らなくなった
同じ気持ちだって信じてたのに………………」
瑞基は居たたまれなくなって部屋を飛び出して行った。
隆一朗は静止したまま動けなかった。
玄関のドアが大きな音を立てて閉じた瞬間、隆一朗は崩れる様にベッドにうつ伏した。
瑞基は無茶苦茶に走っていた。
読んで戴き有り難うございます。
あー、今夜も明けて行きます。
外は既に明るい、またも徹夜してしまいました。
どーも原稿、スマホに打ち込むのが遅くて。
(TT)
隆一朗が眠ってて瑞基がモーションかけるシーンは、隆一朗は瑞基が傍に居る事に心から安心していると云うシーンです。
喧嘩してるシーンでは、隆一朗が必死で苦悩している事を瑞基に悟られない様にしているのが、伝わったらいいなあと思います。
昨日ブックマークして下さった方、有り難うございます。
「壊れた緋色」にもブックマークが1個増えて、
嬉しかったのですが、いいのかなあ?
あの希望の欠片も無い小説で。
いよいよ、第二章もクライマックスです。




