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亀裂

 読んで戴けたら嬉しいです。



『どうすれば彼から瑞基を守る事ができるだろう? 』


 漠然とした不安に苛(いら)つきながら、隆一朗はギターを掻き鳴らしていた。


 魁威(かい)が思い切りスティックをシンバルに叩き付けた。


「隆一朗!

 お前、全然周りの音聴いて無いだろ!

 走り過ぎだ! 」


 隆一朗は我に返って周りを見回した。


 麗畏(れい)も樹良(じゅら)も『何やってんの?』と云う顔で見ていた。


「どうした、隆一朗らしくも無い

 何苛ついてる」


「ごめん

 ちょっと外行って頭冷やして来る」


 隆一朗は外に出て行った。


 見ていた瑞基は魁威に近寄って言った。


「この頃、ずっとああなんだ

 あんな隆一朗、初めて見る」


「こっちでも、そうだよ

 こんな初歩的なミスする様な奴じゃ無いのに」


 隆一朗は冷たい空気を吸い込むと遠くの家屋の灯りを眺めた。


 瑞基が様子を見に来た。


 隆一朗はタバコに火を点けた。


「魁威さんも心配してる

 最近の隆一朗、変だよ」


「ちょっとナーヴァスになってるのかな

 久し振りのライヴだし」


「本当にそれだけ? 」


「他に何があるの? 」


「時々、凄く怖い顔してる時あるよ」


「もともと、そうゆう顔なんだよ」


 瑞基は、それ以上追及するのた止めた。


「隆一朗、疲れてるんだよ

 今夜は帰ったら、この瑞基様が隆一朗を癒すよ」


「どうやって? 」


「お風呂で背中流すとかさ」


「いいね、それ楽しみかも」


 いつも通りの瑞基に、隆一朗は取り敢えず安心した。




 ライヴは無事終わり、機材を片付けているとニキータのオーナーが魁威に話し掛けて来た。


「バートリー、復活おめでとう」


 魁威は頭を下げ挨拶した。


「おはようございます

 有り難うございます」


 ニキータのオーナーは三十代後半で、他にレストランの経営もしているこの街ではやり手の男だった。


 隆一朗たちも挨拶に近寄って来た。


「相変わらずいい音出してるね」


「有り難うございます」


「実は、余計な事だとは思ったんだけど、従兄弟(いとこ)が東京で事務所やっててね

 インフェクションって云うレーベルなんだけど


 君たちが前に自費で出した音源送ったら、とても気に入ってくれて、是非紹介して欲しいと言われたんだ

 どうだろう?

 一度、従兄弟に逢ってみてくれないだろうか」


「喜んでお願いします」


 魁威は満面の笑顔で答えた。


「じゃあ、向こうの都合が決まり次第連絡するよ」


 魁威たちは背中を叩き合って喜んでいた。


 隆一朗は乗り気になれなかったが、周りで盛り上がっている以上、水を差すような事は言えなかった。


 一週間後に隆一朗たちは東京へ呼ばれ出掛けて行った。


 瑞基は隆一朗から詳しい話を聞かされていなかった。


 東京へ行くとだけ聞かされ、二日間隆一朗の居ない日を過ごした。


 帰ってからも隆一朗は瑞基に、何も話せずにいた。


 時期を同じくして、瑞基の噂が学校内で囁かれ始めた。


 それは瑞基が同性愛の男と同居していると言うものだった。


 噂は瑞基への、虐(いじ)めの引き金になった。


 瑞基が教室の移動をしていると、すれ違った別のクラスの男子たちに突然足を出されて転ばされた。


「うわっ!

 触っちゃったよ

 ホモが移る」


 そう言って逃げて行った。


 一緒に居たクラスメイトが言った。


「瑞基、なんで怒らないんだよ

 お前なら、やっつけられる相手だろ」


「別に怒る様な事じゃ無いよ」


 そう言いながら瑞基は歯をギリギリ言わせ拳を震わせていた。


 バスケ部も例外では無かった。


「ホモが移る」と言って、パスしたボールが床に落ちた。


 瑞基は選手から外された。


 瑞基は決して短気を起こす事はしなかった。


『学校で問題を起こせば、隆一朗と引き離されるかもしれない』


 瑞基はそれだけを一番恐れていたのだ。


 担任は噂を放っておく訳にも行かなかった。


 綾子が学校に呼ばれ放課後、綾子と瑞基は職員室に設けられた狭い応接間のソファーに並んで座らされた。


「実は瑞基くんの噂が学校内で問題になっていまして」


「噂ですか」


 綾子は神妙な顔で担任を見た。


「瑞基くんは、ご自宅から通っているんでしょうか? 」


「いえ、知り合いの方のアパートから……………」


「どういう事情で? 」


 瑞基は不安な顔を綾子に向けた。


「我が家の方針です

 自立心を育てる為です」


 綾子は毅然(きぜん)として答えた。


「噂と云うのは、どういう物なんでしょう? 」


 担任は言いずらそうに瑞基を見ながら言った。


「瑞基くんが同性愛者の男性と同居していると言うものです

 学校としては、こういう風紀を乱す噂の根源となる事は、できれば改善をお願いしたいのですが」


「そうですか

 うちとしては、その方には絶対的な信頼のもとに瑞基を預けています


 その方に預ける様になってから瑞基は成績も上がっておりますし、真面目にアルバイトなどにも取り組む様になりました

 我が家の方針は間違っていないと思っております」


 担任は苛つきを露(あら)わにして言った。


「ですが、それで噂が消える訳では無いので」


「解りました

 家でも検討してみます」


 職員室を出ると、綾子は大きく深呼吸した。


「駄目ね、こういう処は母さん苦手で」


「でも有り難う

 オレバイトあるから、これで」


「頑張って」


 走り去る瑞基に手を振った。


 瑞基の姿が見えなくなると綾子は深い溜め息をついた。


 その頃、森詩織はエリザベータを訪ねていた。


 隆一朗に瑞基の現状を知らせる為だった。


「虐め? 」


 テーブルに向かい合って隆一朗と森詩織は座って話していた。


「噂が学校中に広まって

 あの………同性愛の男の人と瑞基君が同居してるって

 それで瑞基君、バスケ部でも選手から外されて」


「そう……………」


 隆一朗は目を伏せた。


「瑞基君は、隆一朗さんには何も? 」


「うん、何も聞いて無い」


 隆一朗は暫く指を組んだまま、考え込んだ。


「森さん、お願いがあるんだ」


 隆一朗はおもむろに口を開いた。


「もしも、ボクと瑞基が離れる様な事になったら、彼を支えてあげて欲しいんだ

 彼の助けになってあげて欲しい」


 森詩織は大きな目を見開き、瞳を震わせた。


「ワタシ、瑞基君の中の隆一朗さんの存在がどれほど大きいか知ってるんです

 きっとワタシでは埋めてあげる事できないって思うんです」


「ごめんね、勝手な事言って

 でも頼めるのはキミしか居なくて」


 森詩織は隆一朗を見詰めた。


 そして心を決めた様に隆一朗に言った。


「できるだけの事はするつもりでいます」


「有り難う」


 隆一朗は森詩織に深く頭を下げた。


「ワタシ、もう行きますね

 この事は瑞基君には内緒にしておいて貰えますか

 瑞基君に告げ口する様な娘(こ)だって思われたくないから

 紅茶美味しかったです

 ご馳走さまでした」


 森詩織はペコリと頭を下げると店を出て行った。


 隆一朗が振り返ると魁威と目があった。


「隆一朗、お前………………」


「仕方無いよ

 最初から解ってた事だったんだ」


 隆一朗は下げたカップを洗い始めた。





 読んで戴き有り難うございます。

 昨日は、私の作品色々読んで下さった方々が居て嬉しかったです。

 この作品にもブックマーク付けて下さった方も居て喜んでおりました。

 眠いです。

 徹夜は、この頃は情けないくらいこたえる様になりまして、今ヘロヘロです。笑

 

 もーダメ、お休みなさい。

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― 新着の感想 ―
[一言] あー……なんて有りがちな低レベルの嫌がらせをするんだろう。 読んでいて「お前ら小学生ですか!?」って言いたくなりましたよ。 でも、現実にそーいう人って居るんだろうなぁ。 神様は子孫を増やすた…
[一言] あー…ついにバレた…どうなってしまうのでしょう…いじめには耐えているみたいですが…。本当、同性を愛した人間になんでこんなことをしてしまうんでしょうね。
2023/01/02 00:14 退会済み
管理
[一言] 悲しいけど、これが現実でしょうね。 それにしても森さんは高校生とは思えないほど、しっかりしてますね。
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