真聖
読んで戴けたら嬉しいです。
隆一朗はキッチンで夕食の支度をしていた。
椎茸を切っていると風呂に入っていた瑞基が髪をタオルで拭きながら隆一朗の背後に立って覗き込んだ。
「ねえ、今夜は何? 」
「寒いからトン汁」
「まさか、赤ワインが入る予定とか無いよね」
「無いよ、昨日日本酒買って来たから」
瑞基はほっと胸を撫で下ろした。
だが、また不安になって訊いた。
「冷蔵庫にパイナップルがあるとかいわないよね? 」
「無いよ」
「紫玉ねぎは? 」
「それも無い」
瑞基は後ろから隆一朗を暫く見詰めると隆一朗の髪に触れ口付けた。
隆一朗を抱き締め、シャツの中に手を入れて肌をまさぐり、首に口唇を這わせた。
「瑞基、駄目だよ
いま、忙しいんだから」
瑞基は隆一朗の頬に手を当て、こちらに向かせると口付けた。
隆一朗の手から包丁が落ちた。
隆一朗の手が瑞基の後頭部を抱くと、瑞基は隆一朗を抱き上げた。
「瑞基、怖いよ! 」
隆一朗は瑞基の首にしがみついた。
「隆一朗の運転よか安全だよ」
ベッドに隆一朗をそっと下ろすと口付けた。
隆一朗は瑞基の背中に手を這わせた。
呼吸が乱れ始め、本気モードに入ろうとした時、玄関の呼び鈴が鳴った。
「あーあ、折角いいとこだったのに」
瑞基はがっくり肩を落とした。
隆一朗は乱れた衣服を整えると玄関へ行った。
ドアを開けると隆一朗は大きく目を見開き後退りした。
瑞基は隆一朗のその様子を見て直感した。
『隆一朗の親父さんだ』
瑞基は慌てて隆一朗の傍に駆け寄った。
瑞基の直感は的中していた。
玄関に隆一朗の父、藤岡真聖が立っていた。
隆一朗は食卓の椅子を真聖に勧めた。
「コーヒーしか無いけど」
「構わんよ」
パーコレーターを出すと瑞基が来た。
「オレが淹れるよ」
「有り難う」
隆一朗も椅子に座った。
「よく、ここが解ったね」
「エリザベータと云う喫茶店で聞いて来た
聖流から、おおよその場所は聞いていた」
隆一朗はタバコに火を点けた。
瑞基は灰皿をテーブルに置きながら隆一朗の肩に手を置いた。
瑞基は以前、隆一朗が真聖に逢って大量の精神安定剤を飲んで錯乱した時の事を思い出していた。
「その少年は? 」
「ルームシェアしてる子だよ」
瑞基は真聖に会釈した。
隆一朗は言った。
「入院している時は、お世話になりました
入院費は少しづつお返しして行きます」
「そんな事は気にしなくていい」
真聖は隆一朗を見詰めた。
「聖流が死んで、息子はお前一人になってしまった
歳のせいか、この頃は気が弱くなって、あの家に一人で居るのが辛いんだ
帰って来ないか」
隆一朗は目を伏せ、黙った。
「できればお前に、今までできなかった親らしい事をしてやりたい」
「何もして欲しい事はありません
ボクは帰れない、何故だか解るでしょう? 」
「もう、わたしにはお前を責める気持ちは無い
お前も若かったし、過ちのひとつに過ぎない」
隆一朗の目の色が変わった。
「それだけでは済まされる事では無いでしょう
彼女は自ら命を断ったんです」
「あれは弱い女だった
それだけの事だ」
隆一朗の中にふつふつと怒りがこみ上げて来た。
「彼女の内腿には三つのほくろが三角を描く様にあった
彼女には性的絶頂感に達すると耳を噛む癖がありましたね」
真聖は険しい顔をして、全部聞き終わる前に立ち上がった。
そして、黙って部屋を出て行った。
「隆一朗、今のは酷いよ! 」
「解ってる」
隆一朗は瑞基の手を握ると額に当て、シニカルな笑みを浮かべ言った。
「反抗期かな」
瑞基は隆一朗を後ろから椅子越しに抱き締めた。
「多分、ボクはまだ嫉妬してるんだと思う
彼女が最後まで求めていたのは父の愛だったから」
「隆一朗………………」
瑞基は抱き締める腕に力を籠めた。
「聖流さんが言ってた」
「聖流が…………?
なんて? 」
「隆一朗の親父さんは妻に貞淑と献身だけを求める人で、彼女はそれに不満を抱えていたから隆一朗を受け入れたんだって
隆一朗ばかりが悪い訳じゃ無いって、オレは思う」
「瑞基………………」
その夜、隆一朗は何度も瑞基を求めた。
読んで戴き有り難うございます。
隆一朗が父親に彼女の事を皮肉るシーンがありますが、何ともエロティックなシーンだなあと、私はお気に入りなんですよね。
今、ビョークを聴いてます。
彼女の、この独特の音楽感性が大好きです。
彼女が主演と音楽担当した映画「ダンサーインザダーク」を観た事あるのですが、なんとも繊細な演技でした。
ラストに絞首刑になるシーンは壮絶でした。
ああゆう女性を才女って言うのでしょうね。
羨ましいです。
才能が認められて、生活して行けるって夢ですねー。




