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雨

 読んで戴けたら倖せです。


 シャワーを浴びていた隆一朗は幻影を見ていた。


 壁に凭れ、眠る様に首を傾(かし)げ、シャワーに打たれる彼女。


 彼女は静かに目を開け、立ち上がった。


「聖詞……………………」


 彼女は一瞬で骨になり、目を見開き壁に張り付く隆一朗に口付ける。


 隆一朗の意識は、暗闇に吸い込まれて行った。



 美咲は鏡台の前に座り、出勤前のメイクを入念に仕上げていた。


 それにしても隆一朗がいつまで経っても風呂場から出て来ない。


 美咲は気になって風呂場に行った。


「隆一朗? 」


 返事が無いのでドアを開けた。


 隆一朗が倒れてシャワーに打たれていた。


「ちょっと、隆一朗! 」


 シャワーを閉めて隆一朗の肩を揺すった。


「ちょっと、ねえ

 大丈夫? 」


 隆一朗は目を開けたが、様子が変だった。


 一点を見たまま動かない。


 美咲は仕方無く隆一朗の腕を取り、自分の肩に回して何とか立たせた。


「あんたデカイんだから、こんな面倒勘弁してよね」


 そう言いながら、部屋の奥のベッドまで運んで寝かせた。


「店長には、あたしから言っとくから今日は休みな」


 美咲は服に着替えると時計を見た。


「ヤバーい、遅刻遅刻」


 美咲は慌てて出掛けて行った。


 取り残された隆一朗は顔を手で覆った。


「瑞基……………」


 暫くして呼び鈴が鳴った。


 隆一朗はのろのろと起き上がると、美咲がソファーに置いて行ったジーパンを穿(は)いて玄関のドアを開けた。


 そこには瑞基が立っていた。


「瑞基……………

 どうして、ここが……………?」


「夕べ、つけてったに決まってるじゃん

 中に入れて」


 隆一朗は奥に入って行った。


 瑞基もそれに続いた。


「なんで、夕べシカトしたの? 」


 瑞基は待ちきれずに訊いた。


「別に意味なんて無いよ」


 隆一朗は背を向けたまま言った。


「つかさあ、なんで急に居なくなったの?

 訳解んないんだけど」


「だから、理由なんて無いよ

 行きたい場所に来ただけだから」


「勝手過ぎるだろ

 魁威(かい)さんも麗畏(れい)さんも樹良(じゅら)さんも、そしてオレもみんなめちゃくちゃ心配したんだよ

 とにかく、来たいとこ来たんだから満足したろ 

 帰るよ」


 瑞基は隆一朗の手を掴んで引っ張った。


「ダメだよ、帰れない」


「どうして? 」


「キミが居るから」


「オレ、そんなに嫌われてるの?! 」


「嫌ってる訳じゃない」


「じゃあ、なんだよ? 」


 隆一朗はやっと瑞基を見た。


「このまま一緒に居たら、ボクはキミを不倖にするよ」


「そんなもんオレがきめるよ

 隆一朗にとやかく言われたくないね」


 急に雨が降り出して来た。


「隆一朗、眠れてないだろ

 飯もろくに食べられないんじゃない? 」


 隆一朗は顔を背けた。


「図星だろ

 動けなくなる前に帰るよ」


 瑞基は隆一朗の手を引いた。


「ダメだよ」


「解ったよ

 オレが出て行けば隆一朗はみんなの処に帰れるんだよね

 それなら、オレ出て行くよ

 それで、いいだろ?

 さあ、帰ろ」


「駄目よ、隆一朗

 帰らないでしょ? 」


 玄関に、傘を取りに戻った美咲が立っていた。


「この一ヶ月、あたし達上手くやって来たじゃない」


「ここが瑞基に知れた以上、ボクはここには居られない」


「莫迦(ばか)言わないでよ!

 この一ヶ月、あんたを養ってやったのは誰だと思ってるの? 」


「それは感謝してる

 でももう、ここには居られない」


「こんな餓鬼、何だって言うのよ

 どうしても出て行くって言うならこうしてやる! 」


 美咲は台所に駆け上がり包丁を手首に当てた。


「死んでやるんだから! 」


 隆一朗は素早く美咲の包丁を取り上げた。


「アナタが死ぬなら、ボクが…………! 」


 隆一朗は自分の首に包丁を突き刺そうとした。


 瑞基が慌てて叫んだ。


「隆一朗!

 その人は彼女じゃ無いよ!! 」


 隆一朗は瑞基を視界に捉(とら)えると包丁を落とした。


「瑞基…………………」


 隆一朗は裸足のまま、外へ飛び出して行った。


「なんなの? 」


 美咲は座り込んだ。


「あんた、隆一朗のタブーに触れたんだよ

 隆一朗を待っても無駄だからね

 隆一朗には隆一朗を大切に思って待ってる人達が居るんだ」


 瑞基も隆一朗を追い駆けて部屋を飛び出した。


 辺りを見渡すと駆けて行く隆一朗の姿を認めた。


 雨の中を瑞基は全速力で走った。


 弱り切っている隆一朗に追い着くのは毎日バスケ部で鍛(きた)えている瑞基には容易(たやす)かった。


 三百メートル走っただけで隆一朗に追い着いた。


 よろめく隆一朗を後ろから抱きとめた。


「隆一朗の身体、燃えてるみたいに熱い」


 隆一朗は瑞基の腕の中で弱々しく抵抗した。







 読んで戴き有り難うございます。


 今日、タバコ買いに近所のお店屋さんに行く途中、クロッカスが咲いていました。

 春なんだなあと笑みが思わず零れて来ました。

 冬の間、木に群がってぴーちくぱーちくしていた雀は何処に行ったのやら、今日は姿が見えませんでした。

 我が家の裏は大きな段差があって、いつも6月まで溶けない万年雪が、今年は雪が少なかったので、まだ4月だと言うのに、無くなり掛けています。

 自然はいいです。

 ここは驚くほど田舎なので、春の空気が凄く美味しいです。

 関係無いけど、水道の水も美味しいですよ。

 ペットボトルで売ってるくらい。笑

 彩りが華やかな季節がやって来ます。

 花が咲くのが楽しみです。

 桜はもう少し後ですねー。

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― 新着の感想 ―
[一言] 隆一郎、美咲さんから亡くした義母さんの幻影を見ていたのですね。 亡くなってもう何年も経つのに、忘れられないのですね。 切ない気がします。 それにしても瑞基くん、まるで刑事ドラマのように張り込…
[一言] 隆一郎、さらに弱って行ってしまいそうで…死ななければいいのだけど…。
2023/01/01 23:38 退会済み
管理
[一言] 隆一朗は本当にか弱く、そして、美しい。 だから、周りが惹かれてしまうのでしょうか。
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