退院
なんだか、本当に短いので、今回夜に次を投稿させて戴こうかと。
読んで戴けたら倖せです。
その日、瑞基は朝早く起きて、取り敢えず部屋に散らばったゴミをゴミ袋に集め絨毯が見えるくらいには片付けた。
学校にいても妙に落ち着かず、授業中も気が漫ろだった。
「瑞基君、今日は何かいい事あった? 」
森詩織が訊いて来た。
あの日からも森詩織は、なるべく普段と変わらない姿勢を保って瑞基に接して来た。
瑞基は申し訳無い想いはあったが姿勢を変えないでいてくれる事は正直救われた。
「今日、退院するんだ」
瑞基は隆一朗と云うワードが入れられなかった。
「良かったね
瑞基君心待ちにしてたものね」
森詩織は心からの笑みを瑞基に贈った。
授業が終わると瑞基は直ぐ病院に急いだ。
予定では、瑞基が来るまでに隆一朗は荷物を纏めて待っている筈である。
瑞基は心を踊らせ病室に飛び込んだ。
だがそこに隆一朗の姿は無かった。
病室はすっかり片付けられ、荷物さえ無かった。
「あら、藤岡さんなら今朝早く退院されましたよ」
振り返ると、通りかかった看護婦が言った。
「詰所で荷物を預かっているので、引き取って行って下さいね」
看護婦は一礼して去った。
『どうして居ないんだろう?
待ちきれなくて先に返ったのかな』
瑞基は詰所で荷物を受け取ると急いでアパートに帰った。
だが、隆一朗の姿は無かった。
エリザベータにも行ってみた。
「あれ、隆一朗は? 」
と、逆に魁威に訊かれた。
瑞基は訳が解らなかった。
願望と現実がいりくんだ迷路となって瑞基を混乱させた。
仕方なく瑞基はアパートに帰り、隆一朗が帰るのを待った。
だが隆一朗は夜が明けても帰っては来なかった。
今、この状態の中で導き出された答えは、隆一朗にはもう触れられないと云う事だった。
瑞基は床に崩れ座り込んだ。
「どうして! 」
隆一朗を失ったと云う現実から、瑞基は改めて隆一朗への感情に名前が在る事に気付いた。
それは、隆一朗を愛している。
恋愛などと云う生易しいもので、およそ説明できるような代物では無い。
生命の存在そのものが求めて止まない、渇望だった。
読んで戴き有り難うございます。今日は三回投稿です。
今夜、もう一話投稿します。